5話 限界突破
「此度の勇者召喚はどうだ、エルライトよ」
「はい、100数年前の失敗を踏まえて今回は質より量を重視しました結果、中々の逸材が何人も得る事が出来ました。歴代の勇者には及ばない者もいるのですが、全員が全員それぞれが鍛えれば輝く力を持っております」
「今代の勇者はどうだ?」
「今代の勇者は精力的には取り組んでくれていますが、こちらとは少し距離を取っていますね。アンジェラが迫ってもあまり効果が無いようで」
「お兄様、それでは私に魅力が無いみたいでは無いですか。お父様、勇者以外の男たちは私にしっかりと反応して意識していますからご安心を。勇者には幼馴染が賢者としていて、効果が薄いだけですわ」
「ははっ、そう怒るな、アンジェラ。わかっているさ。父上、最悪勇者に関しましては、アレを使ってこちらの言葉を聞き入れる者に使った方が良いかと思います。既に候補は何人か探しております」
「好きにするがよい。我が国が他の国より強くなるのであれば方法は構わぬ」
「わかりました、父上」
◇◇◇
「行くよっ、真ちゃん!!」
そう言って陽奈が杖を掲げた瞬間、陽奈の頭上に大小様々な球体が出現する。しかもかなりカラフル。それらが、俺に向かって飛んできた。
陽奈が放ったのは、火、水、風、土、光、闇の各属性の初級魔法だ。それを数的に言えば300発ぐらいか、中に浮いて俺に飛んで来る。
雨のように降ってくる陽奈の魔法。陽奈は不安そうにしながらも、手加減せずにしっかりと放ってくれた。周りには俺の訓練を見に凛さんと翔輝、そして、万が一の時のために聖女の職業を得た白川 美希さんに来てもらっている。
白川さんは、うちのクラスでもあまり目立たない性格で、黒髪のおさげで、前髪も目元まで隠れるほど長く、眼鏡をかけている。本を読むのが好きなようで教室でも、図書室でも本を読んでいるのを見た事がある。その白川さんも不安そうにしながら俺を見ていた。
俺は剣を構えながら能力:限界突破を発動する。今回の訓練の1つが、この限界突破の確認をするためだからだ。
多分、俺の切り札になる限界突破、どれくらい能力が上がって、どのくらい使えるのか知らないと使えないからな。陽奈には無理を言ってやってもらう事にしたのだ。
頭の中で限界突破と唱えると、一気に辺りの速度が遅くなったように感じる。先程までかなり速く感じた陽奈の魔法も、目で追える程に。
俺は剣に魔力を帯びさせ、降ってくる魔法を避ける。確実に避けられる魔法は避け、当たりそうになった魔法は剣で切る。
降り注ぐ魔法の雨の中を、俺は捌きながら走り抜ける。すると、今度は上からではなくて前から魔法が飛んで来た。しかも、さっきよりも魔力が込められて速く、硬くと。
だが、限界突破していると、あまり差が無いように感じてしまった。目の前からも迫ってくる魔法を叩き落としながら突き進む俺。
そこに狙いを定めて魔法の隙間を飛んで来る矢……矢!? 俺は体を捻って飛んで来た矢を避ける。そのせいでバランスを崩してしまい、左手を地面につき、倒れそうになるのを踏ん張る。
……そういえば、矢も何処かで撃っても良いよって凛さんに言ったけど、まさかそんな隙間から来るとは。予想外だった。
しかし、魔法の雨も矢も抜けた俺は真っ直ぐと陽奈の方へと走り抜ける。そして、陽奈に向かって剣を向ける。流石に切りかかったりするのは無理だからな。
「うー、全部避けられた!」
自分の魔法が全て避けられた事にぷんぷんと怒る陽奈。その姿に苦笑いしていると、急に体が怠くなってきた。限界突破の能力が切れたのか。
そして、全身に襲う筋肉痛。その場に立っておくのが少し辛くなってしまった。それと同時に痛む左手首。地面に手をついた時に捻ってしまったようだ。
「ど、どうしたの、真ちゃん!?」
突然座り込んだ俺を見てさっきまでぷんぷんとしていた陽奈が慌ててしゃがみ込んで俺の体を触ってくる。ちょ、ちょっとやめて! 筋肉痛で痛いからやめて!
「ひ、陽奈、さ、触るな。筋肉痛に響く!」
「え? あっ、ご、ごめんなさい!」
俺から慌てて手を離す陽奈。そこに凛さんたちもやって来た。
「どうしたんだ、真也君。どこか痛むのか?」
「いや、どうやら、自分の能力を無理矢理引き上げたせいか、能力が切れた途端全身筋肉痛になってしまって。それに、左手を捻ったみたいで」
俺は痛む左手をぷらんぷらんと見せる。そこに、来てくれていた白川さんが、俺の左側まで来て座り込んで俺の痛む左手を握りながら魔法を唱える。
聖女のみが使えるという、聖光魔法というものらしい。使い方は本人にしかわからないらしく、資料もあまり残っていないほど、珍しい魔法なのだとか。
白川さんの体から流れる魔力が、左手を通して俺の体に流れ込んでくる。なんだかポカポカして気持ちよくなってくる。
しばらくすると、全身の痛みと左手首の痛みが無くなっていた。凄えな。これが聖女の力か。
「……こ、これで、だ、大丈夫なはずだから」
「ああ、痛みが引いたよ。有難うな、白川さん!」
「……あうぅ……そ、その……手……を」
全身の怠さが無くなった嬉しさに笑みを浮かべて礼を言うと、何故か顔を俯かせる白川さん。どうしたのかと思っていたら、どうやら治療が終わっても手を握っていた事に怒ってしまったようだ。
俺は慌てて手を離して謝るが、白川さんは首を振りながら訓練所を飛び出してしまった。これは、悪い事をしてしまった。今度会ったら謝ろう。
その後、何故か陽奈に「真ちゃんの馬鹿」と、言われたのは何故だったのだろうか。
訓練は上手くいったのに、腑に落ちないままその日は終わったのだった。
◇◇◇
「……えへへっ……藤里君と手を握っちゃった……ふふっ……えへへ……」
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