4話 訓練
「全員揃ったか? 俺の名前はこの国の騎士団長をしているリムドーだ。宜しく頼む」
この世界にやって来て今日で3日目。俺たちはこの転移して来た国、ヘンドリクス王国から支給された動きやすい服装で、訓練所へとやって来た。
ここには、この世界に送られた俺たち28人のうち、17人が集まっていた。のこり11人はと言うと、生産系の職業についたクラスメイトたちだ。その中には平山先生も含まれている。
平山先生の職業は魔道具師という職業だった。魔道具師というのは、簡単な話が魔力で動く道具を作る人たちの事を言う。
口で言うのは簡単なのだが、魔道具を作るためには必要最低限の魔力量と魔道具作りに必要な魔石、俺たちはまだ見た事が無いが、魔物という生き物から取れる結晶に魔力を込める器用さが無いと出来ないらしい。
一歩間違えれば魔石が魔力過多で爆発したりするらしい。
それを、この世界に来て2日目で魔道具を作る事が出来たのだ。それも、この世界には無い通信機を。先生曰く、何となく頭の中で浮かんで出来た、らしい。
それを見たエルライト王子が他の生産職の生徒たちに専門の人間を付けて修業させようという事になり、この戦闘訓練には参加していないのだ。
「突然この世界に送られてしまって戸惑っている部分もあると思うが、昨日の勉強などにもあったように、この世界には魔物という俺たち人間を餌にしか思っていない生き物がいる。動物などとは違った化け物がな。
ここにいる者たちには、その中でも特に危険な魔物と戦う事になるだろう。その時、死なないように戦えるように、最低でも逃げられるように君たちをこれから鍛えていこうと思う」
リムドーさんの言葉に真剣に頷くクラスメイトたち。昨日もこの世界の事について話を聞いたが、この世界では魔物や盗賊など、様々な要因で人が簡単に死ぬ世界だ。誰だって死にたくは無いから真剣に受ける。勿論俺もだ。
ましてや、俺は勇者という職業だ。そのせいで、エルライト王子などに変に期待されてしまっている。それに、話を聞けば俺が最前線に立たされているのは目に見えている。他のみんなよりより真剣にやらないといけないだろう。
「さて、まずは全員がどの程度動けるのか見て行きたいから、魔法職では無い戦闘職の者から俺の模擬戦をしよう」
そう言いながら俺の方を見てくるリムドーさん。……俺をご指名な訳ね。俺は渋々行こうとした瞬間、背中を思いっきり押されてつんのめる。振り返るとそこには
「ほら、行けよ勇者サマ! 俺ら先頭に立って見せてくれよぉ! なぁ、おまえら!」
「そうだぜ、勇者様よぉ! ヒャハヒャハ!」
「ほら、早く行けよ!」
と、ニヤニヤと笑みを浮かべて俺を見てくるのは、クラスの中でも問題児になる3人組、リーダーである高野たかの 信広信広と、その取り巻きたちである寝屋川 努と佐山 友也だ。
その3人がニヤニヤと笑みを浮かべて早く行けよと急かしてくる。腹が立ってくるが、ここで絡んでも仕方がないから、俺は3人を無視してリムドーさんの方へと向かう。リムドーさんは俺を見ずに3人を睨んでいた。
「ったく、性根んが腐ってやがるな。あの3人は他の奴らより厳しくしてやる」
……良かったな、高野たちよ。リムドーさんが厳しくしてくれるそうだ。俺はその言葉に笑いそうになるのを我慢しながら武器を選ぶ。まあ、選ぶのは剣術を持っているから剣なのだが。
俺は立て掛けてある木剣を掴み、何度か素振りをする。剣術を持っているお陰か、どのように握れば良いか、どのように振れば良いかがわかる。
普通なら訓練して手に入れないといけないはずなんだが、何もせずに剣術の能力があって使えるなんて、陽奈じゃないが、本当にチートだよな。
「剣で良いのか?」
「はい。剣術がありますので」
俺はそう言いながら構える。リムドーさんは俺の構えを見てほぉう、と声を出す。後ろから陽奈の応援する声が聞こえるけど、今は目の前のリムドーさんに集中しなければ。
「それじゃあ、来い、シンヤ!」
俺はリムドーさんの言葉に反応するように飛び出す。戦い方なんて全くわからない今、何をやってもあしらわれるだろう。それなら、全力で向かうだけだ。
「はぁ!」
俺は素直にリムドーさんに剣を袈裟切りに振り下ろす。リムドーさんは体を逸らして俺の剣を避け、俺の頭目掛けて剣を振り下ろしてくるが、振り下ろした木剣を振り上げて、リムドーさんの剣を弾く。
「ふん!」
剣を弾いたと同時に少し距離を取るが、すぐに構えて突きを放って来たリムドーさん。顔目掛けて突かれる木剣を、ギリギリ顔を横に傾けて避ける。俺の左頬に擦りながら通り過ぎていくリムドーさんの木剣。
リムドーさんはそのまま左肩に目掛けて剣を振り下ろして来た。俺はリムドーさんの剣を避けきれずに左肩に振り下ろされた。
「真ちゃん!!」
陽奈が、俺に木剣が振り下ろされて片膝をつく光景を見て叫んでいるが、リムドーさんは模擬戦を終わらせようとせずに俺を見ていた。
そこに俺は剣を持つリムドーさんの右手を左手で掴む。流石にこれには驚いたのか、引き離そうとするリムドーさん。
しかし、今の俺は能力:剛力を発動している。筋力を2倍にするこの能力、流石のリムドーさんでも筋力200の俺の力を、簡単には振り解けないだろう。
そう思っていたが、リムドーさんは左手で俺の首を掴もうと手を伸ばして来た。俺の意識が一瞬左手に移った隙に、掴んでいた左手を外されてしまった。そうなったら俺に出来る事はなかった。
気が付けば喉元に木剣を突き付けられている俺。俺は両手を挙げて降参するしかなかった。
「シンヤ、お前戦闘初めてなんだろ? それにしては上手く能力使っていたじゃねえか。俺の剣を食らった時は金剛、手を掴んだ時は剛力か?」
「ははっ、リムドーさんはお見通しって訳ですね。その通りですよ」
「やるじゃねえか。これは育て甲斐があるぜ」
俺とリムドーさんがそんな風に話していると
「真ちゃん、大丈夫!?」
と、陽奈がやって来た。俺が大丈夫と言っても、俺の体を探って怪我がないか確かめる陽奈。何だか恥ずい。隣でリムドーさんがニヤニヤと笑っているし。
「ちっ、リムドーさん、次は俺がやるぜ! そんな雑魚勇者より強いってのを見せてやる」
俺が陽奈と話しているのが腹が立つのか舌打ちをする高野。手には既に木槍が握られていた。高野の職業は槍術師だ。だから、槍を選んだのだろう。
結果は……まあ、一発だった。どっちかって? そんなの言わなくても良いだろう。
その日から、俺の訓練の相手は必ずリムドーさんがする事になってしまった。
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