終焉!?

 何度目かの宇宙放浪が始まった。


 とは言っても、特に何かあるわけでもなく、これまで通りのふらり旅である。


 星雲に突っ込んでいったり、主星を持たない浮遊遊星に捕らわれたりしていた。


 そうして過ごすことおよそ5000兆年。


 俺は野生のブラックホールと遭遇した。


 もちろんそれから逃れられるわけもなく、少しずつ、着実に吸い込まれていく。


『ここが俺の死に場所か…』


 ブラックホールに落ちるとどうなるか分からない。


 その場所は現代物理学が通用しない未知の領域だ。


 だんだん落ちていくのを感じる。


 おそらく良くても原子自体が崩壊するぐらいだろうけど、そうだとしても一体どうなるのか。


 身体にかかる重力が強くなっていく。


 引き裂かれそうな感覚が覆いつくし、視界全体が黒色に塗りつぶされる。


 事象の地平面が近づいていた。


 そうして視界が暗転し、身体がバラバラになっていく。


 原子の崩壊である。


 思い返せば悪くない水素人生だったなと思う。


 そして、俺の意識は遠退いていった。


 ……


 身体に暖かみを感じる。


 それはなんだか懐かしい感じだった。


『って熱うぅぅぅ!!』


 完全に目覚めた。


 そして身体の変化に気付く。


 陽子2個と中性子2個、そして電子が2個で構成された原子。


 ヘリウム原子である。


『今度は転生したらヘリウム原子ってどういうことだよ!?』


 俺の宇宙放浪記はまだ続くようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら水素原子ってどういうことですか!? 紫 和春 @purple45

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画