第2話 街の乞食
右から聞こえるは侮蔑の声。左から聞こえるは怨嗟の声。
打撲が痛み、切傷が膿み、擦り傷からは血が滲む。
貧相な布きれ纏い、寒さに体を蝕まれる日々。
その眼に映るは金とパン。
暴力、窃盗、強奪、裏切り。生きるためなら外道にもなる。
外道にならねば生きてはいけぬ。この街で人は生きてはいけぬ。
しかし、私は外道になれなかった。
非力な腕では力で勝てぬ。遅い脚では逃げきれぬ。
モノがなければ脅迫できぬ。邪心がなければ裏切れぬ。
この街でずっと私は人だった。人でありたかった。
遠い記憶の幼き日の、母の教えが私を引き止めた。
「リョウシン……優しい心をどうか無くさないでちょうだい。困っている人を助けてあげて。悲しむ人を慰めてあげて。決して人を恨んではいけない。決して人を憎んではいけない。全てを受け入れられる、綺麗な人になってちょうだい。たとえそれが、どんなにつらいことであっても」
母はその言葉と私を残して、この世を去った。
叶うなら、もう一度会いたい。
生者と死者の世界を隔てる境界は、あまりにも曖昧で透明だ。
厚いのか薄いのか。高いのか低いのか。私にはわからない。
しかし、境界の飛び越え方なら知っている。
生きているのなら、必ず越えられる壁なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます