やっぱりこの世に幽霊なんていなかったんですね
ピンポーン・・・・・ピンポーン・・・・・
「おい、みゃこ出ないのか」
「出れるわけねぇだろ。さっき話したアレだよアレ・・・・」
「例のストーカーってやつか・・・」
納得した様子で樹は流れた汗を腕でぬぐいながら俺と同時に警戒するようにドアを凝視した。くそっ玄関前の電球が点滅してるから余計に恐怖が煽って来やがるぜ。
「(みゃこどうするんだよ?ずっとこのままじゃいかないだろ?)」
「分かってるよ。んなことわ。むやみに通報してもし間違いだったらどうするんだろ)」
「(馬鹿かなにを言ってるんだ?そんなにやべーやつなら余計野放しに出来る訳ねぇだろ。みゃこ?玄関鍵かけたよな?」
樹の問いに俺は縦に頷いた。そりゃそうだろう。こんな事態になってるんだから厳重にするのは当たり前だろう。
そう思うと玄関から連打するインターホンの音が響く中あいつは立ち上がる。
「(ふっ、少し落ち着けなにもこのまま出るつもりはない。お前んち玄関に最新式の防犯カメラ設置してるよな?ならそいつを内側からチェックして犯人の顔を拝んでやろうじゃないか)」
おお~~~~~馬鹿の割にはたまには賢い答えが出来るじゃないか。というか恐怖のせいでこの短絡的な案が浮かばなかった自分が情けない。
このマンションは家賃は都心では安い割には防犯カメラも設置してるから安定した物件だよな。姉ちゃんによるとこのマンションの管理人は姉ちゃんが所属してる事務所の人が紹介された物件だよな。
なんでもモデルとかの芸能関係者は不審者に狙われる可能性があるから会社側は設備が万全なアパートを薦めることを義務づけてるようだ。まぁ姉ちゃんの場合は防犯0でもなんとかなるけどな。
「(一回姉ちゃんに礼言わなきゃ行かねぇな)」
「(そこは俺に感謝してくれませんかね?とにかく覗くぞ・・・・・・・・・・・・・・・)」
ピカッ!!!!
「なんだ停電か!!!!」
「落ち着けスマホのライトつけてやる」
その時近くに雷が落ちたせいか激しい音と共にすべての電気が一瞬にして消えた。そのせいでカメラに映る外の映像が全く見えなかったが、樹の起点で明かりを確保することができた。
しかし玄関からは変わらずインターホン音が響いていた。
嘘だろ?こんな時に停電?これ完全にホラー映画のテンプレになってきたぞ。
「おいおいおい死んだわ。俺ら」
「ほぅこの状況下の中炭酸抜きコーラーぶっ込むのですか?大したものですね」
「お前も乗ってるじゃねぇか・・・・・・・とにかくどうすんだ?奴さんは変わらず玄関でスタンバってるけどどうする?反撃するか。幽霊は無理でも女のストーカーなら野郎二人で抑えることができるだろ?」
「なんでもいいけどよぅ。その女あの末堂先輩でも逃げだすくらいの霊圧だぞ」
「刃牙から離れろ!!!!みゃこお前怖くておかしくなるのは分かるけどボケは俺の専売特許なんだから取らないでくれよ」
いやそもそもお前が刃牙ネタを出したのが発端だろ。というかこんな目に合われたらおかしくなるのは当たり前だろうが・・・・
そう思うと隣の樹はなにか決心したかのように深呼吸した後に立ち上がった。
「分かった。とりあえず俺が様子を見てやるよ」
「え・・・・・・・・いいのか?」
「あたぼうよ。ただ一つ確認してくれ。様子見るのはいいが別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」(両手にシャーペン)
無駄にカッコいいけどアーチャーに謝れ。というかなんで俺のシャーペンいつの間に盗ってんだよ。第一こんなんで対抗できるわけないだろ。
とはいえ今の俺は、不甲斐ないから今の樹はこれ以上ないくらい頼りになる。
樹は警戒心を最大限に高めながらゆっくりと玄関に向かった。
が、その時玄関の先からインターホンの音から打って変わり聞き覚えがある声が響いてきた。
「おいコラ!!!!!!都お前いるんだろ?なんでさっきからインターホン押し続けてるのになんで出てこねぇんだろ」
「姉ちゃん!!!!」
その正体は意外も意外うちの姉だった。扉越しだったが、息を切らしながら相当慌てた感じで今度はドアは二、三回叩いた後叫んでいた。
「姉ちゃん?」
「おおっ!!!その声は我が愛しの都か!!!やっぱり家にいたんだな。早く開けてくれ!!!!漏れちゃうだろうが!!!」
「漏れるって・・・・・姉ちゃん今日は仕事で夕方に帰るんじゃなかったか?」
「そうなんだけど、実は撮影は予定より早く終わって帰ったんだよ。本当はもっと前に帰る予定でお前に電話するつもりだったけどスマホ家に忘れてたんだよ。だから開けてくれ!!!ここまで尿意我慢してもう限界だぞ・・・・」
姉ちゃんはどうやらおしっこが漏れそうなようなのか相当慌てた口調と息切れで訴えてきた。
それは隣の樹も信じてたようで今までの警戒心を薄れカギを開けるために玄関に向かおうとする。
「みゃこ、もう大丈夫じゃねぇか。もしなんかあったら美国さんになんとかしようぜ」
「・・・・・・そうだな」
「その声樹か?お前来てたんだな。で、この美国さんになんのようだ?」
「あーーーーーー今開けるんでちょっと待ってください。実はみゃこがさ、最近幽霊やらストーカーやら訳が分からないもに襲われたようでビビッてるんっすよ。馬鹿ですよね。そんなものいないのに」
「全く我が弟ながら可愛いやつだ。もし、出てくるものなら私が一発ぶっ飛ばしてやろうか」
「またまた、そんな事言ったらすぐ後ろに出てきますよ」
「ふっ、ぜひ出てみたいものだ。むしろ来てくれ。そしたら都は私に惚れるはずだ」
おい、余計な事を言うな。少なくともさっき顔面蒼白で『死んだわ』って言ったやつより遥かにましだ。
それに姉ちゃんも尿意はどうしたんだ・・・・・・・・・・・・・アレ?
なんだこの『違和感』は?何気ない会話なのにとてつもなく鳥肌が立つ。
そう言えば姉ちゃんって、幽霊の話するだけで震え出したな。実際この前の廃墟巡りのせいで、テレビで流れてたホラー特番のCMでさえ、ヘタレて俺に抱き着いていて、最近早めに帰ってるくらいトラウマになってしまって、ここしばらく元の姉ちゃんに戻れないくらい重傷なのに、向こうの姉ちゃんは、樹の冗談になにも返答しないんだ。
「おい、開けんな!!!!」
「え?」
全てを察したうえで樹に叫び、肩を触れるが・・・・・・・時はすでに遅く玄関を開いてしまった。
そこからの光景に移るのは、先ほどより激しく、音を若干遮るくらいの土砂降りに広がる曇天の空に、極めつけに尿意を我慢してる姉ちゃんは勿論いなく、代わりにいたのは、この世のモノとは思えない、顔が見えないほど長い長髪にもはや生者の肌とは思えないほどの純白な肌に、赤いワンピースを着た女。
うろ覚えだど、あの時見た女教師の霊と似てるような姿をしていた。
その、禍々しくて冷徹な雰囲気に俺は、腰を抜かしていた。
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ヤバいヤバいヤバいマジでヤバい。まさかこいつが姉ちゃんの声を真似すると思わなかった。だとしたらこいつは人間じゃない。人間だったら直接声を聞かない限り俺の姉ちゃんの声真似は出来ないはずだ。
よっぽどあの心霊スポットで俺のことを気に入ったようだ。
樹は?樹はどこだ。あいつ俺を護ってくれるんじゃなかっ・・・・・・
ふと、床下を見るといつの間にか樹は気絶してピクリと動かなかった。
くそ役に立たねぇなぁ。せめて犠牲になってくれよ・・・・・
「はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
くそ・・・・・・・・くそくそ、いくら後ろに離れてもなんの変化もなくこっちに来る。
はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・殺される!!!!
なんでこんなことになったんだ。この前まで二次元妹に興味が無かったオタクの俺が彼女が出来て、そんでもってこれから旅行に一行って時になんで殺されなきゃいけないんだよ。
やっぱあの時アウラさんの誘い断るべきだったな。
そして女は口元をニヤケながら不気味な手を俺に向けてくる。やばい逃げようにも恐怖で手が震えてこれ以上動けない!!!
ああ、我ながら脱無しい最期だった。最後に乃希亜の顔が見たかったな・・・・・・・・・
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」(橘朔也)
「!!!!!」
「今だ」
「ぎゃっ!!!」
ドン!!!
なんだ・・・・・・・なにが起きた?うわっ!!!
気が付くと俺の目の前にいた黒髪の女は気絶したかのように横に倒れていたようで。
その後ろには台所にあった鍋を持って息を荒げた樹の姿があった。
どうやら樹は、気絶したふりをして、女が俺に注目してる間、忍びながら台所から鍋を取り、油断してる好きに後ろから狙ったようだ。
そして樹は俺に向けて手を差し伸べたので掴み起き上がった。
「すまん。樹助かった」
「おうよ。親友を助けるのは当たり前じゃないか。それにしても傑作だったわ」
「あ?なにがだよ」
「お前が最後驚いてる顔、プププ・・・・・橘さんみたいな顔してて堪えるの我慢したわ。やっぱイケメンでも変顔はするもんだな。もう一回その顔してくれよ。今度は写メするからよ」
それくらいヤバい顔してたの俺?うわっ恥ずかし!!
「うるせぇ。少なくともお前の前にはもうやらねぇよ。それよりこの女が先だ」
すぐに話を切り替え俺達二人は気絶している女に注目する。女は以前気絶したままだ。
先ほど樹の攻撃を受けたので人間には間違いない。第一俺はこんな薄気味悪い女と関わるどころか何もしていない。
そう思いながら、樹と共に警察に通報する前にこの女を探ることにした。
「うわっ、こいつクリーム塗ってるよ。ったくB級映画並みに凝った出来だぜ」
樹はそう言いながら白く染まった手を見せる。ってことはこいつは俺を脅す為にわざわざ手の込んだいたずらを?
ん?これカツラだよな?
それをとった途端、絶句する。
この金髪の髪に見慣れた顔。
その正体は恋人の九頭竜乃希亞だった。
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