サイドストーリー 償い

インターハイ最終日の夜、都達はいい結果を残している市葉と祝勝会で盛り上がってる同時刻、妹の市葉は姉の祝いよりも、宗助の退院の為に迎えに行き、松葉杖を使って歩いてる宗助を見守りながら一緒に夜の道を歩いていた。

宗助がしばらく入院した病院から都や市葉がいる旅館までは1キロも満たないほど近く、宗助の親の車でその旅館まで送ろうかと言われたが、宗助は無性に歩きたい気分だったため魁里と一緒に同行することになった。



「よいしょ・・・・・よいしょ・・・・と」

「大丈夫ですか~~~~~宗助先輩、この魁里ちゃんが肩を貸しますよ」

「あはは、ありがとう魁里ちゃん。気持ちだけは受け取っておくよ」

宗助は誘いを丁重に断り、慣れない松葉杖を駆使しながらゆっくりと進んでいた。

それ以降会話らしい会話はなくただただ無言の時が続いていた。

なぜならこの二人が前に話したのは、宗助との練習時なのだからお互いそれが気まずくて言葉を出せないようだ。

だが、このまま気まずい関係が続くのもいけないので、魁里は、口を出そうとするが、先に宗助は口を開ける。




「魁里ちゃんごめん!!!」

突然、宗助が謝っていてしばらくキョトンとしていた。喋ろうとした時に先を越されて驚きと安心を見せる。






「な・・・・・・・なんですか。宗助先輩いきなり・・・」

「その・・・・・・僕の独りよがりに無理やり付き合わされてその結果、君の腕を怪我さえたんだね。下手したら一生残る傷なのに許されることではないのは分かってる!!!本当にごめんよ・・・・」

心の内をすべてさらけ出し宗助は必死に謝ってるのを見て魁里は包帯が巻いた腕をそっと触れる。

宗助のやったことは自分の身勝手な自己満足な為に人を傷つかせた。その行為は許されないのは本人には分かってるが、今は必死に悔やみ詫びることしかできない。

過去の自分を恨み悔しく歯を震わせた。

が、それに対して魁里は怒る気配はなく、むしろ優しく微笑みながら宗助の頬を触れていた。

予想外の行動で宗助はビクッと反応をする。




「ちょっ・・・・・なに笑ってるの魁里ちゃん?なんだかすごく怖いんだけど」

「怖いって心外な。あたしはちょっと触れただけで決して意地悪な事をしてませんよ。フフフフフちょっとだけ宗助先輩に触れたいと思いましてね。もうちょっと引っ付いていいですか」

「ちょ!!!やめてよ魁里ちゃん僕ケガ人だよ~~~~~」

先ほどの重い空気は一瞬として嘘となり、魁里はじゃれ合うようにちょっかいをかけていた。

魁里にとって宗助は憧れな人で唯一好きになった人。たとえ道を外しても傍にいたいと思ってる。彼の笑顔が彼女にとっての最高の思い出なのだ。






「あの、非常に言いにくい事なんですけど。美国さんには・・・・・・・・今回の事を報告したんですか・・・・」

「・・・・・・・・・・・・したよ。入院してる時電話でね。勿論美国さんには電話越しで怒鳴られたよ。怪我を我慢して大会に出ようとしたことにね。まぁ一番こたえたのは都のことかな。美国さんたら相変わらず『うちの都に怪我をさせやがって!!後で追仕置きだから覚悟しとけ!!!』と言われたことかな。ホント家に戻りたくないな・・・」

「相変わらずのブラコンなお姉さんですね。憧れはしますけどなんだか都クンに同情しますね・・・」

珍しく魁里は都に対して哀れみを見せていた。それくらい大河美国という存在はとても大きく厄介な恋敵なのだ。

魁里は、宗助があの二人がさらに電話でどんな話をしたか気になっていてが、さすがにそんな失礼なことは言えないので遠回しでこう質問した。





「あの・・・・・・・今でも美国さんの事は好きですか」

「うん。好きだよ。今と変わらずね」




涼しく彼はまっすぐな眼をしながら呟いた。

当たり前の答えで内心落胆する。




「けど、このままではいけないと思うな・・・」

「え?」

「美国さんに言われたことを思い出したんだ。好きなものに目を行き過ぎて周りが見えてないってことをさ」

「あ・・・・・・あの時言った都クンの言葉・・・・でもそれってわたしが言うのもなんですけど、あの時都クンが言ってたでまかせじゃないんですか?」

「そんなことは無いさ。つい先ほどクドクドと美国さんに同じことを注意されたよ。僕は本当に馬鹿だったんだ」

「宗助先輩・・・・・なら」

「魁里ちゃん?」

魁里はこれが好機だと前に踏み出そうとする。魁里にとってこの告白が今世紀最大のチャンスなんだと思って勇気を出す。

その時蒸し暑さが続く8月の夜が急に涼しい風が吹き、緑の葉が紙吹雪のごとくこの二人の間に乱れていた。

そして魁里は顔を赤くし目を閉じ、宗助の手を握る。





「わたしじゃ・・・・・・・・だっくしょん!!」

「え・・・・・うわっつ・・・・・・・とととと・・・魁里ちゃん!!!」

「す・・・・・・すみません宗助先輩!!!」

突然のくしゃみで驚き宗助は驚きを見せこけそうになったがなんとか体制を戻していたが、魁里の唾は顔周りについてしまった。

それを見て魁里は急いでハンカチを用意し慌てて顔を拭こうとする。





「だ・・・・・・大丈夫ですか。宗助先輩!!!」

「う・・・・・・うん。僕は平気だよ。それより魁里ちゃんこそ大丈夫?風邪ひいてない?」

「いえ、平気です・・・・・・・」

「魁里ちゃん?上着貸そうか?」

「あ・・・・・はいありがとうございます」

先ほどの突風のせいで気温が急激に下がり魁里は余計に顔を赤くしていて、それを風邪だと勘違いしていた宗助は自身の上着を魁里に貸していた。




(宗助先輩すっごく顔が近いです。っていうか告白の直前なんでくしゃみなんてしちゃったんだろ。せっかくいいムードだったのに台なしです。・・・・・・・・・でも)





「魁里ちゃん。さっき何言おうとしてたの?」

「ん~~~~~~~~なんでもないです☆しばらく上着を借りますね宗助先輩♡

唾を飲み込みあざとく舌を出しいつもの甘えた姿に戻った。




今は告白しなくてもいい。先輩がきちんと整理できる時にすればいい。それまで気長に待っておく。それまでちゃんとあたしの事を見てもらって少しでも好意を上げないと・・・・・




内心そう思いながら魁里は、彼と一緒に姉の祝勝会に向かった。






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