幕間 とある夏期講習にて

「では、ここの公式を頭に入れるように」

「(眠た・・・・・・サッサと終わってくれないかな)」

夏休み真っ只中、立野蓮は友人の涼浦銀華と共に自身の学校の近くの塾でバイトと両立で夏期講習を受けていた。

立野蓮は自由奔放で将来の夢もどこの学科の大学に行くか決まっていない。それなのにな夏期講習を受けるのは、一番仲がいい涼浦銀華が志望の文学部の大学を受験するという事なので、その為勉学が必要で塾に通っているので流れるかのようにくっついて来たのだ。

その理由は彼女といると退屈しないからだ。




蓮は決して勉強は嫌いな方ではないが、ホワイトボードに素早く書いている講師の筆跡が、学校の先生と同じように眠たく感じ腹も急激に減ってしまうのだ。

流石の蓮も常識があるので、授業中は腹の虫を必死に抑えながら無理に勉強に集中をする。




そしてその長い拘束時間は終わりを迎え10分間の休憩に入る。二人は大きくため息を吐き、今までのストレスを吐くかのように会話する。





「あーーーーーーーーーー!!!!昨日オジサンとこのバイトで急遽バイトが延長してあんま寝れなかったしーーーーマジダリィ」

「銀華も結構のお疲れだね。わたしも昨日バイトの後彼氏の家で勉強してたからあんま寝れなかったんだけどね。大河君みたいに県外に行きたいよね」

「かーーーーーーーーのろけ話やめろし。アンタは彼氏いる分その気になればいつでも他所に行けるはずだけど、うちそういう機会あんまないんだからめっちゃ退屈なんだけど!!!」

「それならざーさんとこで遊んだら?アレも銀華同様に退屈してるようだけど・・・」

「う・・・・・」

「どうやら聞かない方が良かったかな」

ざーさんこと花沢咲那の事について話題を出すとついこの前、咲那が買った18禁のおもちゃではしゃいでる事を急に思い出し、とてもゲッソリした顔を見せる。

それもそのはずあの後咲那に無理やり家に連れられエロ雑談に付き合わされたから断ろうにもますますヒートアップして止めることが出来なくて寝不足になるくらいの苦い思いだ。

蓮はそれを察したようなのでその会話は途中で止め、別の話に持ち掛けようとしたところ、野太い声が割り込んでくる。







「デフフフフフフフフフフフフフフwwwwww立野殿に鈴浦殿、なんの話をしてるでござるかぁwwwww」

「げ・・・・・肝岡・・・・・・そっちこそ勝手に話に入ってくんなし。超キモイんだけど」

「・・・・・・・・」

のそっと音を立てて出てきたのは蓮達と同じクラスの肝丘で、都達や乃希亜達との別のグループに入ってる生粋のアニメオタクだ。

彼も夏期講習で連達と同じ塾に通ってるのだ。



「おやおやwwwwwいつもの言葉攻めでござるか?鈴浦殿wwww前と比べて怒気が控えめでござるなwwwwきっと大河殿となにかあったでござるなぁ」

「うっさいし!!!!お前に関係ないんだろ!!!サッサと失せろしキモ豚!!!!」

「ヌフフフwwwwやっぱり前と比べてぬるいでござるなぁwwwww前ならもっと静かな態度で毒を吐いてすごく怖かったけど、今はただ声を荒げただけでなんの効力もないでござるwwwwww樹殿なら萌えるけど拙者には効果半減でござるwww」

肝岡は高らかと笑いながら誇っていた。その態度に蓮は舌打ちしながら静かに対応する。





「ねぇ肝岡君さ、休憩中に悪いけど大声で笑うの止めてくれない?休み時間にも勉強してる人の妨げと思わない?」

「ムフフフフフフフフ、失敬。拙者どうやらヒートアップしたでござるな。これからはクールにいくでござるよwwwwwまたでござる」

「もうくんなし!!!!」

注意が通じたか肝岡はそう吐き捨て自分の机に戻り、次の講習の準備をしていた。

それを見た二人はそっとため息を吐く。




「はぁ~~~~~~~やっと行ったか。確かにここの塾でうちの学校の知り合いと言えばうちら三人くらいだけど、話かけてくんなよな」

「まぁそうだけど、彼が言ってることはあながち間違ってないんだよね。前の銀華なら必ず一悶着が起こっていた。それが無かったてことはざーさんや大河君のお陰でオタクの偏見がなかったようね」

「はぁ、意味わかんないし。オタクとか超嫌いなんだけど!!!!ただしおお大河と咲那は別だけど!!!」

「分かった。分かった。そうとらえとくよ」



その後の講習はなにも起らず時が過ぎ、夕方になった。銀華はこれからバイトの為に遊ぶことができず二人は分かれる。

ちなみに蓮の家庭は両親が海外出張で家にいなく、彼氏も大学生でこの日はサークルの合宿の為にいないのだ。

なので今日の晩御飯をなににするか考えると急に腹のアラームが鳴り響く。

グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

「(まずい。お腹空いたな。とりあえず目の前にマックがあるからそこにするか)」


そう思いながら自然と口元を手で拭った。頭の中ではハンバーガーでいっぱいだ。

だが、蓮は都の幼馴染の市葉と比べて食いしん坊ではないし、さらには食べる量も常人と同じだ。

ただ机に座って勉強をすると退屈でお腹が空きやすく、腹の虫を鳴らしたら周りのみんなに迷惑をかけるのでそれを抑えながら勉強するので余計にカロリーが消費する。

蓮は、そこに向かい頭の中でなににするか考えながら真っ先にポケットを出す。どうやら今日の晩御飯はここにするようだ。



「(今日は魚が食べたい気分だからフィッシュバーガーにするかな)」

「立野殿・・・・・」スッ

「え・・・」

店に入ろうとする時、突然後ろから放つ野太いと同時に暑苦しい熱気が彼女の肌に突き刺し情景反射で振り向く。

そこには夕暮れの日差しで赤く輝いた肝岡の姿だった。そして、蓮が自分の方に向いたと同時に、周囲を気にせずユニークなポーズを見せ歯を輝かせる。






「拙者、おせっかい焼きの胆岡でござる。塾の帰り道にメイド喫茶に寄ろうとした時、屈み込んでる立野氏が心配なんでくっついて来た!!!」

「・・・・・・・・・」

それを放った後、周囲は凍り付いたかのようにしばらく沈黙し、蓮はただ無表情な顔をしながら首を軽くかしげる。





「・・・・・・・・その言い方だとストーカーみたいな感じがするけど、まぁいいや。今なら大声で助けを呼ぶのは止めとくからこの場に失せてくれないかな?」

「ちょっと待つでござる。拙者久々にカッコよく決めたのにそれはないでござるかwwwww」

「なんなら、今から警察に行く?今さっき知り合いに変なものを見せられたって。肝岡君、無駄に声が大きいから証人はたくさんいるよ」

「ちょっと待つでござる。なにか誤解してるでござらんか」

蓮がスマホを握り警察に電話するような素振りを見せると肝岡は慌てながら自身のポケットから、アヒルのキーホルダーがついたカギを取り出した。それを見た途端今まで無表情な蓮が軽く反応し、自身のポケットをまさぐる。




「それわたしの家のカギでしょ?どこで見つけたの?ことによったら警察行きだから・・・」

「だからちょっと待つでござるよ。確かに拙者の顔は不審者ぽくて幼女を見たら追いかけそうな感じをしそうであるが、そんな卑劣な事はしないでござる。でも幼女好きは変わらないでござるけど・・・・・・」

「言いたいことはそれだけ?」

「とにかく話を聞くでござる。今日の講習で立野殿が帰った時拙者は用を足しに行ったでござる。それで戻った時、立野殿の机の下にそのキーホルダを見つけたから拾ったでござる」

正論を吐いたが蓮は変わらず疑い続ける。




「とかなんとか言って、実はカギの型を取って、複製つもりでしょ。それを出したら許してあげるから。駄目なら警察行く?」

「どんだけ拙者を疑うでござるか?立野殿的には拙者の事を汚れたオタクと思ってるが心は清らかでござる。第一拙者の守備範囲は小5~中3だから圏外でござる。・・・・・・・まずいでござる。さりげなく拙者のロリコンを漏らしたでござるwww不覚」

勝手に自爆しあたふたした肝岡の顔を見て、疲れを現しため息を吐いてそのカギを受け取った。





「分かった。どうやら悪いことをしてない感じだから疑うのは止めるとするよ。それとさっきの性癖暴露も聞かなかったするわ」

「本当でござるかww助かったでござる。それじゃ拙者はこの場でお暇するでござる」

「もう帰るつもり。お礼としてハンバーガーの1つや2つくらい奢るけど。」

「それは断るでござる。立野殿は仮にも恋人を持つ身。好意を持ってないとはいえ異性と二人でこれ以上関わっ、それを学校のものに見つかれば立野殿の株は下がるでござるww拙者はクールに去るでござるよ」



吐き捨てカッコをつけながら去っていた。その背中を蓮は珍しく凝視する。

蓮も銀華同様に数か月前はオタクに嫌悪感を抱いて見下しているという感情があり、オタクの都でさえ距離を置くほど毛嫌いをしていた。

きっとさっきのような奢るような言動も出るはずなかった。



だが、その気持ちはとある少女の変化と同時に見下す気持ちはどことなく失せ、同時にオタクとちゃんと向き合う事で良い部分があるのだと感じてしまったのだ。

蓮の真意はまだ不明だが、確実に成長していると思われる。

その証拠に胆岡に感謝しているのは本心だ。




「まっいっか・・・・・追加でアイスも頼もうかな・・・・暑いし」

肝岡が見えなくなった時蓮はさっき会ったことを忘れたかのように気持ちを切り替え夕食を注文する。









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