祭りを楽しみましょう 2

日が落ち完全な暗闇にぼんぼりが絵になるほど明るく輝き、遠くから神輿担ぎの為に聞こえてくるお囃子の音色が鳴り響く音を聞き分けながら、昔と変わらない屋台街に向かい俺達は最高に祭りを楽しむ。



ここの屋台街は普段、神社前の通りで人通りが少ないのだが、大晦日や祭りの時になると決まって用意され賑わいを見せる期間限定のスポットのようなもので、ここで出されてる出店は、みんな売り上げを上げようと出店のおっちゃん同士が血気盛んに激しくぶつかり合う闘技場のようなもので、必ず一回は設置する場所取りをかけて殴り合いをし、そのたび警官が動くとされるくらい、まさに『漢の華』という文字をそのまま具現化するような場所だ。





そんな中俺は、名物の花火の打ち上げが来るまで屋台街にて楽しんでる魁里達を、隅によりその様子を眺めていた。

「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」

「へぇ・・・魁里ちゃん金魚すくいうまいね・・・」

「当然です。金魚すくいだけなら誰にも負けませんよ。では、咲那先輩に一つ差し上げます」

「ありがとう~~~~」

「後、宗助先輩と、寧々さんに・・・・都クンは特別に金魚をメインにした懐石をしてやりましょう。どんなリアクションがとるか楽しみです☆フフフフフフフフフフ」

遠くからであまり聞こえないが、その悪だくみはなんとか想像できるぞ。






「・・・・・・・・・・」

「なにしてるのかしら・・・」

傍観してる中、寧々が酢昆布を食べながらこっちに来ており、頭に仮面ライダーWのお面をかけていた。




「グラサンの上におめんかけてるとは、新しいファッションだな・・・」

「どうも・・・さっき沖という人と並んで買ったわ。後彼、みんなの分のバナナチョコを買いに行ってるわよ」

「相変わらずWが好きだな」

「これ?アクセルがないから仕方なくよ・・・それよりさっきからこんなとこに突っ立て・・・・・そんな陰気な性格をしてたのかしら?」

「賑わってるところが苦手なだけだ」

「そんな貴方がよくもわたしに友達を作らせようと考えたわね」

「ほっとけ。だがいつまでもここにいるのもあれだから行くか・・・」

さらっと魁里達と合流し、再び一緒に歩くと、寧々がある屋台に目を止める。





「あら?この出店、けっこう人だかりが出てるのだけど・・・・」

「げ・・・・・・・」

俺を始め魁里や宗助も絶句する。今年もあの男が祭りに来たのか・・・・






「ゲハハハハハハハハハハハハハハハハハ残念、ハズレだぁ!!!これで我慢しなぁ!!!」

「ちぇーーーーーーーつまんねぇの・・・」

ハズレの景品を引いて子供ががっかりしているところをよそに一人の店主がほくそ笑んでいる。

この奇怪な笑いをしているオッサンは、巷では当たらないという評判のクジ屋の親父だ。

小さい頃、魁里の姉ちゃんと無理に祭りに行くときによく顔を出す親父で、その親父が今と変わらずくじ屋を出店してそのたびに苦汁を飲まされた男だ・・・・無論それは俺達だけではなく彼もそうだろう。



「あーーーーーーいらっさ・・・・・・・・い・・・」

さっきまで笑顔で接客していたオヤジは俺の顔を見ると顔を青ざめていた。

それもそのはず、遡ること六年前、当時『上谷ケ丘の虎』と名をはせ姉ちゃんが友達と夏祭りに行ってる時にこのくじ屋に10回チャレンジし案の定すべてハズレだったらしく、人一倍正義感が強い(というよりクレーマ)な姉ちゃんはそのくじ箱のくじをばらまきすべて確認したところ、箱の中身がすべてハズレだったらしく、一番の目玉なゲーム機も外張りだけのハリボテという完全な詐欺をしていたので捕まったらしく、それ以降姿は見なかったようだがまさかもう出所してたなんて・・・






「よ・・・・・・・よぉ・・・・お前さん今年も来てたのか・・・」

「オヤジも相変わらず元気だな・・・・また姉ちゃんを読んでやろうか。詐欺師」

「バッカ野郎!!!なに言いがかりつけてんだ。営業妨害で訴えるぞ」

「訴えられるのはお前だ。第一、オッサン犯罪者がよくおめおめと戻ってこれたな・・・」

「ククククククククくじ屋の親父の名前は死んだ・・・・・・これからは、久地祭神くじまつりしんだ!!!!ブハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!ブゥン!!!」

どこかの神のように狂った笑いをしながら俺達の前にくじ箱を何個か用意し、そこからランダムにくじを俺達にばら撒いていた。





「ほら今回は、前回と違って運営から忠告をされ再び店をだせれたから一切不正はしてないぞ。ホレ好きなようにくじを調べろぅ」

「ほ・・・・・・本当だよ。都、調べたらあたりと同じ景品の数字が入ってるよ・・・・」

「俺っちが神だぁ!!!!!!!ブハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

ドヤってる親父をよそに念のために店の周囲を調べると、怪しいものは見慣れない。という事は本物か・・・・・ますます怪しい・・・・




「なんか。怪しいですね・・・・絶対悪だくみをしてますよ」

「だな・・・・おそらくこのくじ箱の中にあたりつき小さな袋のようなものが入っているはずだ・・・・よしこのくじ箱を渡せ」

「な・・・・・・そんなわけは・・・」

はい目をそらした。有罪決定!!!




「ちょっとやりすぎじゃ・・」

「いいや・・・限界だ。調べるね・・・・・・今だ!!!」

「おい、勝手にくじ箱を・・・」

確か・・・・・ここに小さな袋が入ってるは・・・・・・・あれ?入ってない・・・





「ほら、だからいったろ。そんな姑息な手はしてねぇって・・・」

「しかし・・・・」

「大河君・・・・さっきこの店でくじ屋でくじをしてた子から話を聞いてみたけど、さっき当たりのカブトムシが当たったって嬉しそうにしてたわよ」

「マジか・・・・・・」

オヤジの顔は昔と変わらず胡散臭い顔をしてるが、ここは信用するしかないか・・・




「ねぇ、マネージャこのくじやるわ・・・」

「なに・・・けど、ここでやるより別のとこでやった方が・・・」

「いいえ、わたしはこれを狙うわ・・・」

寧々が指を示した場所に目を向けると大好きな仮面ライダーアクセルの変身ベルトがあった。



「こんなの中古屋で売ってるだろ?」

「いいえ。これは、別物よ・・・」

「よく気づいたお嬢ちゃん。実はこのアクセルドライバーは財団〇のネット内で機密類に販売されたもので、ベルトは本物の革でできており、メモリもメッキで、演者のボイスが数種類ついてるという超プレミアの商品さ・・」

なんでそんな貴重なものをわざわざ祭りの出店で売るんだ?

仕入れルートが分からないから疑うんだぞ。






「どうだいお嬢ちゃん。一回やってみるかい。ただしこれはプレミアくじだから一回5000円だぜ」

「分かった。やるわ」

「おい・・・・」

寧々は完全にやる気モードに入り、5000円札を音をたてて払った。

ちなみにそのプレミアくじの料金は先ほどの子供がやってたやつの料金の10倍らしくその商品は、ハズレでも時計やゲームソフトなのだがどれも中古品の匂いがしており、一方当たりの商品は先ほどの変身ベルトや美少女フィギュアや最新ゲーム機といったものがある。



寧々は勿論、その変身ベルト以外はハズレだと思い込んでおり、強く念じながらくじ箱に手を入れ、ゴゾゴゾとまさぐり、屋台周辺は緊張のあまりざわざわしていた。

その動きは10秒経ってもいまだに抜け出そうとしなかった。ただただなにかを手繰たぐり寄せている。




「おいおい、お嬢ちゃん、いつまで待たせる気だ。後ろにお客さんがまたしてるから早くしねぇか・・・」

オヤジの声を聴く耳を待たず、ただただ静かに探す。そしてなにかを決したようにグラサン越しから目をギラリと輝かせ運命のくじを引き叫ぶ。




「全て・・・・・・・振り切るぜ!!!!」

「どう・・・・・・当たった・・・」

「緊張するね・・・」

「・・・・・・」

「寧々・・・・」

そのくじをオヤジに渡し、商品のナンバーが一致してるか確認し、周りは激しく息を飲んだ。

そしてオヤジは息を小さく吐いた後静かに鐘をならした。





「お・・・・・・・・おめでとう。変身ベルト大当たり・・・・・」

「やったーーーーーーー。ねねん~~~~~~~~~」

「馬鹿・・・・本名を叫ぶな」

「ははははははおめでとう」

「まさか本当に当たるとは思いませんでした」

ざーさんの口を塞いでる間に見事に敗北し、悔しがってるオヤジから当たりの変身ベルトが寧々に渡したが、彼女はなんのリアクションを取らずに普通に頭を下げるだけだった。



「都・・・・寧々さん。欲しがってたベルトなのにまったく嬉しそうにないね・・・」ボソボソ

「やっぱり一応アイドルですから、こういう趣味は避けたいんでしょね」ボソボソ

「これが彼女の素だ・・・」

いつものように無表情だが内心は喜んでる・・・なんとなくそう感じた。








「ねぇ・・・宗助先輩・・・・次はどこ行った方がいいですかーーー」

「ちょ・・・・・ちょっと魁里ちゃんそんなにくっつかないでよ・・・」

「ちょっと二人共歩くの早すぎだよーーー」

くじ屋のオヤジとの激闘を終えた俺達は、さらに屋台を探し適当にぶらついていた。

あのオヤジからは、悔し泣きしながら『また来年戻ってくるぜ』とガッツポーズをして俺達を笑顔で見送ってくれていた。

昔と比べて本当に真人間になったようだが、俺的にはもうあのオヤジには会いたくないから来年はここには来ないだろうな・・・



それはさておき、スマホを見るともうすぐ花火の打ち上げの時間なのだが、魁里は相変わらず宗助をアピールしており、ざーさんはその二人をついて行って屋台巡りを続行しているようだ。





「おい、そろそろ花火が始まるぞーーーーーー」

「言われなくても分かってますよーーーーーーこの子ブタ野郎」

「そんなことより、さっきのお姉さん、の服、ブラがスケスケなんだけど、エロくない。ゲヘヘヘヘ」

本当に分かってるのか・・・・・




プルルルルルルルルルルル

そんな中、先ほど乃希亜からLINEが来ていた。




『よぉ、オレも仕事が終わったから今すぐ向かうつもりだ。たぶん花火には間に合うらしい。それと、オッサンから言われてるだろうけど寧々との契約は花火が終わってんの知ってんだろうな?』

そう、午後9時を持って一週間の寧々のバイトが終わるのだ。

時間を見ると今は8時18分、花火開始まで後10分ちょいか・・・

長いようで短いマネージャ生活ももう終わりか・・・

思えばこの一週間・・・彼女に振り回されて大変だったけどいい勉強にはなったな。

もう寧々とはあまり会わないだろうから最後まで見届けないとな・・・




「あれ・・・・・・」

ふと横についているだろう寧々に振り向くといない・・・・・

どこ行った?




魁里達の方に目を向けると姿が見えないし、もしかして最後の最後で俺やらかした?

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