酢昆布はわたしも苦手ですね・・・・この酸っぱさ・・・・どうもなれません

俺はあの有名アイドル声優の公方寧々を無事に見つけタクシーの後ろ側の席に乗る。タクシー内での会話はなく、それどころか彼女は、前席でバックミラーで後ろの様子が見れる見ず知らずの運転手にも、見境なくマスクとサングラスを外し、イベントを間に合わせる為にタクシー内で化粧セットを用意して自分でメイクをしていった。



運転手側は後ろ側の席の女性があの有名人とは気にしてはなく何事も反応なく運転していた。まぁ有名人といってもアニメ界では有名でも一般メディアではまだマイナーな若手女優だから、見るからにアニメとか若者の歌を聞きそうもない、中年の運転手には知らないのは当然だよな。逆に知ってたらドン引くけどな・・・・




そしてニ十分後、イベント開始の十分前・・・・・・なんとかイベント会場裏の駐車場にたどり着きそこには、九頭竜だけではなく、公方寧々のマネージャーと思われる人とイベント関係者の数名が集まってきた。




「まったく、なにやってんだ。寧々こっちは心配してたんだぞ!!!!」

「ごめん・・・・」

「ああ!!!もういい。今はイベント成功が最優先だ。準備して・・・・」パンパン

『はい』

「社長が言ってた君が大河君か・・・・寧々を探してくれてありがとうございます」

「いえ、そんな・・・・・」

「私もこれから、忙しくなるから落ち着いたら、お礼は後にさせてもらうよ。それじゃ・・・」

イベント関係者の返事により、彼女は、タクシー内で食べた酢昆布の匂いを消す為に、口臭スプレーを軽く吹き込みながらイベント関係者達と共に裏口に入り準備をしてるようで、そのマネージャーと思われる人が一言、お礼をいだだ後、追いかけていた。




残された俺は九頭竜に優しく笑いながら、彼氏らしく爽やかに笑うことにする。

「九頭竜・・・・・・・ただいま」

「おう、助かったよ・・・・・・・ありがとな・・・」








その後なんとか用事を済ませた俺は、九頭竜と一緒に一時間程遅れたが会場内に入る。

ガヤガヤ



「くそっ多いな・・・・」

案の定イベント内は予想上に混んでて降り、俺はスマホを片手にLINEで落ち合う場所を選び、なんとか合流することが出来た。ちなみに落ち合う場所は、『幕末クロ』のトークショー前で、樹が前もって席を取ってくれたので見やすい場所で助かった。

鴨さんの期間限定終了まで間近に近づき未だに目的な武将を手に入れないがそれでも今後の新イベントが楽しみでしょうがなかった。

そして予定の11時になりトークショーが始まり、司会進行のお姉さんが前に出る。





『皆さま、お待ちしました。幕末クロニクルinサマーフェスティバル二日目盛り上がってるかい!!!!!』

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

『では、これから二日目のゲストを紹介します。まずは昨日に続き、二日連続の登場、坂本龍馬役・・・・・・・・・」

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

キャスト紹介が始まり、そのゲームに登場するキャストが次々と登場し、そのたびに樹を初め周囲のファンは歓声で盛り上がったのだが、俺もそれなりのファンではあるが騒がしい場所と人混みが苦手なのでその輪に入るのを苦手にしていた。




「うっせぇな・・・・・」ボソッ

微かに聞こえた九頭竜のイラついた声が漏れていた。イベント情報は気になるが九頭竜もこの場が騒がしくて苦手のようなので途中でこの場に去ることを考えるか・・・・後でネットでじっくり見ればいい話だし・・・・・



『そして最後に、スペシャルゲスト!!!!この幕末クロニクル・ブレイブ・プリンセス第二部の新オープニングの主題歌を歌い、さらに、二部のキーマンとされる児玉源太郎役のアイドル声優の公方寧々だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

そして最後にこのイベントの目玉である公方寧々本人が登場すると会場のボルテージがあがり今まで以上に盛り上がっていた。彼女はどうやら先ほどと別の私服に早く着替えて、余程急いでるせいか、会場に登場したばっかりなのに汗が他の人と比べて明らかに多く見えるのが奥のスクリーンに映る彼女のドアップ姿で見せた。



ちなみに、この状況でどうでもいいことを突っ込むのだが、彼女が演じてる役名が児玉源太郎って、この偉人明らかに幕末じゃなくてはるか先の未来の日露戦争で活躍する人で、史実だと幕末最後の戦いの戊辰戦争を初陣として出てただけの新兵なのに、このゲームの前だと坂本龍馬とか土方歳三と肩を並ぶくらいの立ち位置に立つからな・・・・

歴史ファンならこんなことで些細な事を怒るが俺を含むこのゲームのファンの前にはどうでもいいこととなっているのだ。まぁ源太郎ちゃんのキービジュアルは普段オドオドしてるけど、戦うたびに強くなるという王道主人公みたいな立ち位置だから人気が出ないわけがない。






「みんな~~~~~~よろしく~~~~~~~」

さて、つまらぬ話を割ったが、その公方寧々はステージ前に立ちあがり会場の俺らに明るく挨拶をするのだが・・・・・改めて思うと、この陽キャ誰?少なくとも俺が数十前に出会った、陰キャ丸出しの酢昆布女と同一人物じゃないよね?



俺は、一瞬双子説があるのではないかと疑いを感じていたので、肝心のイベント情報は殆ど聞いてなかった。










『では以上でスペシャルトークショーは終わります。そして午後では、公方寧々様の特別ライブが午後二時ごろに始まりますので、引き続きイベントをお楽しみください~~~~~~』


そして一時間近くのトークショーが終わり、俺達は休憩の為に一度外に出て、外でて昼食をなににしようかと話していたのだが俺はその内容に上の空だった。

それは、会場の公方寧々の猫かぶりに加え、樹からの情報通り鴨さんのグッズは俺がいない間、イベント開始と同時に、客足のほとんどが販売ブースに向かい、あっという間に彼女のグッズは完売したので、俺は肩を落とす。




「大河君、大河君!!!!」

現にざーさんがなにやら俺に向かってなにか言いかけようとするが、聞く耳を持たなかった。鴨さんの期間限定ガチャももう少しで終了だし・・・・・

俺の運は最後の最後まで彼女を掴むことが出来なかったようだ。そう思いながら俺は歩きながら『幕クロ』アプリを作動する。




プルルルルルル

「ん?見慣れない連絡先だ・・・・」

俺はそう呟きながらそのメール内容を見る。どうやら、公方寧々のマネージャーさんからで、今一度お話があるから再度、一人で裏口に向かって欲しいとの連絡が入った。

俺はなにか不安を感じながらも皆には適当にごまかして、そこに向かうことにした。






改めて先ほどの裏駐車場に向かうと、先ほど出会った公方寧々のマネージャーさんと再会し、とある場所に連れて行かれる。どうやらそこは、公方寧々の個別楽屋だった。

俺はなにがなんだか分からないまま、マネージャは楽屋前の扉を二、三度叩くと、素と思われる彼女のクールな声が聞こえる。




「はい・・・・」

「寧々、大河君、連れて来たよ」

「入って・・・・」

「し・・・・・失礼します」

俺は緊張しながらそこに入ると、先ほどのトークショーの姿は微塵と感じなくなり、クールに酢昆布をかじっていた。

俺が楽屋に入るとマネージャはごゆっくりと言わんばかりに無言で扉を閉め二人っきりになってしまった。





「な・・・・・なんのようですかな・・・・」

「・・・・・・・俺に質問をするな・・・・・」

相変わらず仮面ライダーアクセルが好きそうなのでそのセリフを一声に呟いた後本題に入る。



「相変わらずのアクセル節・・・」

「ねぇさっきから気になったけど、もっと普通に喋れないの?」

そのセリフ、そっくりそのまま返してやりたい。





「え?ため口で・・・・・いいんで・・・・・いいのか」

「当たり前よ。わたし達同い年でしょう?」

「ああ・・・・・分かった・・・」

「ねぇ・・・・・貴方先ほどは助かったわ。ありがとう。まさか社長に貴方のような若い友人がいたなんて、どういう付き合いなのかしら・・・・」

これについて、どう説明すればいいんだ?とりあえずありのままを話そうかな?





「俺は、君と同じ事務所の声優と付き合ってるから松村さんと面識があるんだ」

「おかしいわね・・・・うちの事務所は恋愛禁止令のはずなのに・・・」

「それは、表で顔出しをしてる声優に対しての事であって、顔出ししてない声優にはそれはないはずだ。知ってるか九頭竜・・・・・・いや辰巳ノアって声優を・・・」

「知らないわ・・・・」

なんと玉砕、まさか辰巳ノアを知らないなんて・・・・確かに、エロゲ声優であって一部(エロゲーマ)を除いては知名度が低いけどそれでも同じ事務所仲間だから知って欲しかったな・・・・





「まぁいいわ。それより貴方、なにか欲しいものがあるかしら?」

「なっ・・・」

そう言うと彼女はカバンからメモ帳を出し、クルクルとペンを回していた。




「ある程度ならその額に応じた額を払うわ。とにかくそれを教えて頂戴」

「え・・・・・・そんな急に・・・・」

「ないの?なら現金がいいのかしら?なら小切手だ・・・・」

「ちょっと待て!!!金じゃないから・・・」

「じゃあなにが欲しいのかはっきりして、もしかして握手を望んでるのかしら?さぁハッキリして、生憎わたしはこれからライブでの準備があるから時間は取れないは」

樹ならこの現状を間違いなく泣いて喜び、暴走してつまみ出される未来が見えるが、俺はこの女の素の姿が分かる前だったとしても、取り乱すまでもない・・・・・なぜなら俺が大好きな声優は世界でただ一人・・・・・






「・・・・・・・欲しいものか・・・あるならあるけどな・・・」

「なに教えなさい」

俺は、まずスマホを取り出し、ソシャゲ版『幕末クロ』を作動し、ガチャの画面に映し、彼女にスマホを貸してあげ、俺が欲しい武将の芹沢鴨に指をしめす。



「このキャラが欲しいんだよ・・・・・けどな、ガチャ券が全滅した俺に残ってるのは、なけなしの石しかない・・・・・これで呼び出せるのは二回しかない・・・・もし、この石が全滅したら・・・・・・」

「あら・・・・・・・・・引けたわよ」

『はぁ~~~~~~人がせっかく飲んでるのに、お前さんも無礼だねぇ~~~~~しょうがない・・・・この芹沢鴨の力を受け取りな・・・・その代わり先の見えない地獄をあじわうことになるがいいのかねぇ?』

「うそぅ!!!」

なんで、なんで、俺がいくら引いても全くかすりもしなかった鴨さんがこうもあっさり・・・・・


まぁ確率100分の0、8だから、奇跡が起こってもしょうがないな・・・・





「あれ?間違って、もう一回引いたら、また引けたわ・・・・」

「な・・・・・・・・こんなことがあるのか・・・・」

な・・・・んだと。一回ならまだしも、単発で目当てのガチャを二回連続同じの引けるなんてそんなのありえない。とんだ幸運の持ち主だ・・・・

とりあえず動揺した顔を振り払い。スマホを返してもらって改めて手に入れた鴨さんの画像を見ると、公方寧々は、なんかまだ納得してなくさらに、俺に近づいた。





「な・・・・・なに寧々さん・・・・」

「寧々でいいわ・・・・・どうも納得がいかないわ。まさかこんなにあっさりと引けるなんてこれじゃ私の気が収まらないわ・・・・」

「そう言われてもな・・・・・」

「・・・・・いいから答えなさい!!!」

うわぁさらにドアップで、互いの鼻がくっつく位の近づいてきたぞ!!!マジで顔が近いし・・・・それに酢昆布臭い・・・・





この染みつく酢昆布臭で意識が眩む中、とりあえず頼みごとを一つ注文する・・・・・



なぁに、大した注文ではない。ただの人助けだ。



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