度が過ぎるとつまみ出されますよ

あれから数時間後公方寧々は、ライブも白熱の歓声の中無事に終わり、なだれ込むような行列の握手会を終え、彼女のイベント内が終わる中、申し訳ないが俺の最後の願いを応じることになった。それは・・・・




「寧々さん・・・・・今日のイベントを・・・・・・お疲れ様でした・・・・来月発売の新曲即買いしますので・・・・この調子でお仕事頑張ってください」

「はい。応援してくれて、ありがとうございます」(猫かぶり)

イベント終了時、舞台裏にて樹達を会場スタッフの案内の元、彼女に特別に握手や撮影をする権利を貰ったのだった。


なんせ先ほどの寧々のライブを含む特別イベントは、全国の公方寧々ファンがこの日の為に来たらしく、いざ午後のイベントになると午前のトークショー以上に人で溢れていて、イベント内の他のブースが極めて少なく感じる程の人気だった。その為、俺が、寧々に呼ばれたのが原因で昼食も遅くなり気づけば、俺達はそのライブに入れなかったのだ。



だから俺は、その最悪の事態を想定し、保険を掛け、その結果樹は、これまで以上に喜びを見せ汗苦しい程彼女の握手を堪能しており、俺達はそれを静かに見ていた。

ちなみに樹とざーさんにこのことを伝える時は、九頭竜に協力し、『九頭竜の叔父の松村さんが日ごろ、姪がお世話になったので特別に寧々の握手を手配してあげる』と嘘をつきごまかしたのだ。

そしたらあいつらなんの疑いもなくついてきてくれたから助かったわ・・・・





「寧々さん、改めて近づいてみるとなんか、独特な匂いをしますね・・・・」

「え?そうですか?」

そりゃそうだろ・・・・・匂いを消したとは言え、今日までいくつか酢昆布を食ったから息がおかしいのは当然だろ。




「あ・・・・あの・・・・・この手・・・・一生洗いません。ずっと大切に封印します」

「で・・・・・できれば洗った方がいいと思いますけど・・・・」

うわぁ・・・・さらに失礼なことを言ってるよ。この馬鹿・・・・さすがの寧々もこれには困惑の表情を浮かべているぞ・・・・

とりあえず止めるか・・・





「おい、止めろ馬鹿・・・・・相手はTVで有名な人気声優で、いわばサイコフレーム搭載のユニコーンガンダムと旧ザクくらいの戦力の差があるんだぞ・・・・」

「お前、旧ザク馬鹿にしすぎだろ?・・・てかさ、普通人間って、目の前に憧れの人間が目の前にいたら取り乱すだろ」

「少なくとも、お前のような犯罪まがいの事はしない・・・・」

「・・・・・・・・・・・ちっ」

なんか九頭竜が俺に向かって目力で『お前が言うな』と言わんばかりに舌打ちするんだけど・・確かにこの発言完全にブーメランだな。




その後樹は、静かに応じ、後にざーさんも握手を堪能し、その後は一緒に記念撮影をとっており、俺と九頭竜は、静かにそれを覗いていた。







「はぁーーーーーーーーーー楽しかったーーーーー」

ざーさんは、満足した表情を浮かべ、両手にはイベントで買った、沖田総司ちゃんデザインの特製の幕クロの土産袋を振り回していた。どうやら見るからにご満悦のようだった。





時間を見ると、もうすぐ夕方のバイト時間まで迫っていた。そりゃ、公方寧々の握手もそうだけど、まだ見れてないブースをしらみつぶしで探したら時間が無くなるのは当然だよな。

そう軽く後悔し、俺達はバイトが間に合う時間帯の電車に乗り、その途中で樹と別れ、いつものバイト先の駅前に着き、そこで九頭竜と別れることになり、その別れ際に愛を囁いた。






そして残った俺と、ざーさんはバイト先の道中で学校の仲間に出会わないように、ロッカーに今日買ったグッズを入れ隠し、ざーさんは駅に止めた自転車を回収し一緒にバイトに向かった。






「あ~~~~~~これからバイトか~~~~~~憂鬱だ~~~~」

「うん。私も、なんでこの日バイトを入れたんだろ~~~~~」

「ほんとにな・・・・」

「うん、イベント会場途中にいかにもエロそうな感じのアダルトショップがあったのに、行けなかったよ~~~~」

「そこかよ!!!」

相変わらずのエロモンスター・・・以前揺らぎはないな・・・




「ねぇ・・・・・大河君、あの・・・・お願いがあるけど黙って、手を広げてくれないかな?」

「なんだ?もし、ゴム的なものを渡したら怒るぞ」

「そんなことしないよ。てか大河君実は、遠回しにそれを期待してるでしょ?」

「してない。いいから早くしろ・・・・」

俺は仕方なくざーさんに言われるがまま手を差し伸べ、なにか渡された感触が走り、それを見ると先ほどのイベントで買ったとされる俺が一番欲しかった芹沢鴨のホログラムキーホルダーだった。

二頭身のデフォルメながらも鴨さんの魅力である魔性の美貌が際立っていた。






「これ鴨さんの・・・・・」

「大河君これ欲しかったでしょ。いや~~~~~~苦労したよ・・・・イベント開始時に真っ先にブースに頑張って向かったけど残念ながら来た頃にはこれしかなかったよ・・・」

「いや、これで充分だ。すまんありがとう」

「あれ~~~~~そういう割にはあまりいい顔しないんだけど・・・・」

「そ・・・・・そうか」

言えない・・・・先ほど寧々のお陰で鴨さんを引けたからグッズを買ってもらってもいいリアクションがとれないな・・・・

せっかくざーさんが買ってきたんだから無理にでも喜ぼうか・・・



「ああ、これでいいか?」ニコリ

「気持ちわる・・・・」

頼んでおいて第一声それかよ?ホントこいつは・・・・・




「ああ、ごめんごめん。つい本音が出てしまったよ。だって大河君ってあんまり笑わなもん・・・」

「おい、思ってる事出てるぞ・・・」

「まぁまぁそんなに怒んないでよ。それよりもう、店に着いたからさ・・・・・それまで機嫌戻してよ・・・・」

「おい待てよ、俺だって笑うぞ・・・」

「ホントーーーーーーあんま大河君が笑う姿なんて見ないけどな~~~~~」

気が付くと店の裏口までたどり着いており、いつものようにこの調子のざーさんと日常を楽しんでる。だが、その楽しさは、店の裏口に立ちふさがってる以外の人物によって遮られようとしていた・・・・

それはここにいるはずがない鈴浦とバイト終わりの立野と那智田が立ちはだかっており重い雰囲気を漂わせていた。





「咲那・・・・・・バイトの前に話したいことがあるけど・・・」

「ギンカなんでここに・・・・」

そう、その涼浦とその後ろに今日はすでにオフに入ってる那智田と立野がなぜかうつむいており、なにやら険悪なムードが立っていた。



涼浦はなぜか俺達に敵意を見せるように見下しながらスマホを取り出し、ある画像を見せる。それは、ざーさんが先ほどのイベントで買いあさったグッズが入った萌袋を持ちながら、公方寧々と樹のスリーショットが写されており、それはすなわちざーさんが先ほど、仲間であるこいつらを裏切って、嫌いな萌アニメもののイベントを行ったことを証明されるものだった・・・・・

なぜこいつが、この画像を・・・・・






「なぁ・・・・・・サッサと教えてくんない。うちマジで怒ってるんですけど・・・・」

「あ・・・・・ああ」

その怒声によりざーさんはさきほどの陽気さは失せ、今まで築いてきた友情が崩れ去るように表情が曇っていた・・・・・



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