半透明【お題:外泊】
こんな深夜に押しかけて、嫌な顔をしないなんて彼女はどれだけ優しいのだろう。私は少し甘すぎるココアを飲みながら、何も言い出せずにいた。彼女も何も言わないから、部屋の中は静かだ。私はぐるりと部屋を見回す。ピンクのカーペットやベッドの上のぬいぐるみはいかにも彼女らしい。たたまれていない洗濯物がベッドの端に放置されているのも、大雑把な彼女の性格をよく表していて少し笑ってしまった。
ココアが甘いから、のどが痛くなった。文句でも言ってやったら笑えるかと思ったけど、少し口を開いただけで泣き出しそうだった。だから私はずっと口を固く閉じたままだった。
「お風呂入る?」
マグカップを空にした彼女が、小さくつぶやいた。
「んー、もう家で入ってきた」
けんかして、逃げるようにお風呂に入って、部屋に戻って、それでも何も変わらなかった。結局私はスウェットにコートを羽織って飛び出してしまった。連絡手段は置いてきた。今ごろ私のことを探しているんだろうか。
「ねえ」
ぐっと何かを堪えながら、声をしぼりだす。彼女は何も言わず、ただ私の目を見ていた。見つめられると、どうしても怯んでしまう。だけど、目を逸らしてしまったら何も言い出せない気がしたから、私も彼女を見つめ返した。
「悪い子って、たのしいのかな」
いつの間にか慣れてしまった、優等生という肩書き。こんなにも重いとは思わなかった。十位の次は三十位、その次は五十位だった。本当は実在しないんじゃないかと思うほど、成績が落ちた私は誰にも求められなかった。
「さあ」
彼女は笑ってごまかす。まるで私がそちら側に行くのを拒んでいるみたいだ。
「……そう」
わるいこ、というのは、優等生よりずっと色が濃いように思う。私の知らない世界を、きっとたくさん見てきたのだろう。
「ねえ、髪染めてくれない?」
「あんたには黒が似合うよ」
そう笑った彼女は、茶色い髪を揺らして、少し困ったみたいだった。
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