あい【お題:反対】

 目の前で泣いている少女に、思わずどきりとした。こんなにもうつくしい顔のままで泣く人なんて、あの人以外に知らない。

「ああ……やっぱり、そっくりだ」

 そう思ったら、思わず手を伸ばしてしまった。彼女は自分のことを嫌いだろうから、拒絶されるのならそれでもいいと思った。だけど彼女はいつもよりしおらしく、ただその腕の中に包まれていた。泣いているせいでいつもより高い体温が、妙に心地よい。

「……あんたなんか、きらいよ」

 腕の中の少女の声は、震えていた。気の強い彼女は、顔を見せてはくれなかった。

「うん」

「ばかね」

「それでいい」

 彼女のしあわせだけを願っていたい。そう言えば大げさに聞こえるけれど、本気でそう思っていた。だって、彼女はあまりにもあの人に似ている。

 数年前、姉が世界中のしあわせをかき集めたみたいな顔をして家を出て行ったのを覚えている。泣きながら帰ってきたのは、先月の話だ。結婚指輪も、新しい名字も、置いてきたらしかった。姉のあんなに幸せな顔は、それ以来見ていない。やっぱり実家がいちばんだと話す姉は、それでもどこかさみしそうにしていた。

 控えめな姉と派手な彼女は、きっと誰が見ても正反対だ。それなのにこんなにも重ねてしまう。家族を思って泣くのも、その泣き顔がやけにうつくしいのも、似ている。だから彼女に、泣いてほしくない。

「……ほんとうに、それでいいんだ」

 どうかきみが幸せでありますように。

 ばかだと言われても、そう願い続けていたいのだ。

 この気持ちが恋じゃないとするならば、一体なんだというのだろう。彼女をつよく抱きしめながら、そんな気持ちを心の奥にしまいこんだ。

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