さよならの後で【お題:カーテン】

 少し空いたカーテンの隙間から、光が漏れている。晴れたんだなと思いながら、淡い青の布を引っ張った。まぶしくてしかたがない。冬の朝は、空気が澄んでいるから光がほかの季節よりも白い。

「クローゼットは片付けたの?」

「ううん、まだ」

 彼の家に引っ越すと決まって荷造りを始めたはいいけれど、思い出に浸ってしまうから先に進まない。そんな私を見かねた彼が手伝いに来てくれたけれど、私の手があまりにも止まるものだからあきれた声だった。

 クローゼットを開けると、服は箱に詰めたから、上半分だけが空いている。下半分を占めるカラーボックスは、もういつから触っていないのかわからない。いちばん下の段に置いてある木箱に引きつけられるように、手を伸ばした。何を入れたんだっけ、と思って開けたら、淡い青の封筒が入っていた。

 ああ、これは、あのときのだ。かつて付き合っていた人は、何もかもを置いて、ある日突然いなくなった。あの人が私に残した、最後の愛情がこれだった。もうとっくに忘れたはずなのに、手が震えて上手く封筒を開けるとこができなかった。

「どうした?」

 優しい声が背中に降ってきた。私は思わず手の中の封筒を握りつぶしてしまった。

「なんでもない」

 すこしの後悔と、いまのしあわせが、私の中でいつだって葛藤している。大切にしまいこんで、見えないようにして、それなのにいざ出ていくとなると私は別れる準備なんてできていなかったのだと思い知る。

 あの人が戻ってきたらどうしよう。突然そんな思いにかられて、私は顔を上げた。優しい恋人の奥、カーテンが視界に映った。淡い青のカーテンは、ここでふたり暮らしをしようと決めたときにかつての恋人が選んだものだ。それに気がついてしまったら、あの人の色がたくさん残されていることに気がついた。なんだ、全然吹っ切れてなかったんだ。手の中で形を歪めた紙は、手のひらに当たって痛かった。

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