あさひ【お題:まどろみ】

 今日も電車は眠たい。電車に乗ることは、魔法にかかることだと思う。

 特に朝の六時代の電車は、みんなが眠たそうにしている。電車の揺れだけが明確な音で、ほかは些細だ。車体もソファもそんな色じゃないのに、朝の電車は白を連想させる。窓の外から差し込むひかりは、昼間ほど強いものではなくて、どちらかといえばふわふわと浮かんでいるようだ。始発駅から乗り込む私は、いつも早めに並んで角の席に寄りかかる。そうすると、いつの間にか電車に揺られて眠くなる。ときどき頭をぶつけるけれど、それだってとうに慣れた。

 朝の電車は、いつも眠りに包まれている。私はときどき寝過ごしてみたくなるけれど、きっちりと目的の駅に着くすこし前に目が覚めてしまう。ずいぶんと立派な体内時計だなと自分で感心しながら、私は少しだけがっかりしてしまう。

 乗り換えのために立ち上がって、改札に向かうエスカレーターでまた眠たくなる。乗り換えは忙しないはずが、やっぱりすこし眠たい。朝は不思議な時間だ。周りが動いているのに、私は別の世界に生きているみたい。立ちながらでも眠れそうな時間なんて、この時間くらいしかない。

 電車を乗り換えて、七時を過ぎたら人が増えてくる。途端に朝のゆったりとした時間が終わるようで、私はちょっぴりさみしい。

 朝が好きだ。抗えない時間の中で、そのときだけは私が持つ時間のように思う。だれにも邪魔はできない、私だけが持つ時間だ。

 大学の最寄り駅に着くと、私は友達を見かけて呼び止める。

 朝が終わる。ひとりの緩やかで白い空間は、もうおしまいだ。私は動き始める電車を振り返った。少しずつ加速していくそれは、昼に向かっていくみたいだ。

 私はひとつあくびをこぼして、友達と並んで歩き始めた。

 眠たいねと笑った彼女に、私は小さくうなずいた。本当は、眠たくはなかった。私の朝はもう、終わっているから。

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