眩しい背中【お題:カリギュラ】

「いい加減にしろよ!」

 言い返したいのを抑え、俺はうつむいた。手から滑り落ちたボールが足に当たって転がる。弱々しい動きに自分を重ね、俺は唇をかんだ。

「……帰ろう」

 彼の声が優しいから、俺は笑えない。

「おれは」

 言いかけて、言葉を飲み込む。彼はいつも俺に怒っている。言い返したことはない。だって、そんなことをしたら耐えられなくなる。主将でスパイカーの俺と、副主将でセッターの彼は、たぶんどこも似ていない。

「なに?」

 彼はボールを拾って、ボール籠に投げ入れた。彼の言葉がやさしいことに気がついて、俺はやはり何も言えなくなった。

 先輩が引退して、俺たちの高校のバレー部は一気に弱くなった。圧倒的なエーススパイカーと呼ばれるものが、俺たちの代にはいない。俺は公式戦にもほとんど出たことがなかったのに、エースだった先輩から背番号を譲り受けた。そんな力が、俺にあるとは思えなかった。その上主将だなんて、ますます向いていない。

「……帰ろう。おまえ、頑張りすぎるなって言っても聞かないだろ。一緒に帰ろう」

「ここで頑張らなかったら、俺は一生あのひとに追いつかない気がするんだよ」

 毎日ひとりで居残りをした。彼が付き合ってくれた日はセットアップしてもらって、ひとりのときはサーブを打った。オーバーワークするなよと声をかけられるたび、俺は練習時間を増やしていった。誰から見ても俺はきっと必死で、そしてかっこ悪い。

「追いつかなくていいよ。おまえのスパイクはあのひとみたいに強くないけど、しなやかできれいだろ。俺は、結構それが好きなんだけど」

 ネットを外して、ポールを片付ける彼を、俺はただ見ていた。

 おまえが好きでも、勝てなきゃ意味ないじゃん。

 俺はどこかで、このまま練習量を増やせば怪我をしてしまうと予感している。それでも何かが俺をつき動かしている。

 帰り道で、彼は何も言わなかった。泣かないように空を見たら、月明かりが眩しかった。

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