天使の涙【お題:ハッピーエンド】

 ある日、血まみれで現れたのは、ふたりの青年だった。ひとりは親友をかばって亡くなった青年で、もうひとりはその親友を殺した人間を殺し、自殺した。片方は地獄行きだったが、もう片方は天国へ向かった。ちがいはただひとつ、転生が早いか遅いか、それだけだ。

 人を殺した青年は、自分の命運を受け入れた。しかし殺された青年は、転生を何度も断り続け、親友が生まれ変わるのを見届けた。

「きみは、すごいな」

「そうかな。俺のために死んだあいつのほうが、ずっとすごいよ」

 私は彼の顔を、じっと見つめる。彼は笑っているのに、今にも泣き出しそうだった。

「俺はあいつのために生きることなら、できるんだけど。死ぬことは、やっぱりちょっと怖いじゃん」

 目を細めて、へへ、と笑う。こういう表情は、幼いと思った。

「おれ、生まれ変わってもあいつと出会えるかな」

「……同じ国には、送ってやるさ」

「今度はもっと平和な国に送ってよ。俺、戦争とか向いてないって」

「考えておくよ」

 もう何十年もの時が流れてしまったことを、彼は知らないのだろう。私は彼の手を取った。

「いよいよだね」

「ああ」

「ありがとう、大天使様」

 どうか、今度こそ君の未来がしあわせでありますように。

 目を閉じると、彼の姿はそこにはなかった。この瞬間に、彼は地球のどこかで生まれたのだ。

 そして数年後、私は笑い合うふたりの少年を見つける。一目で、あのふたりだとわかった。

 天界の決まりでは、転生を先送りにすることは許されない。それでも私がそれを許したのは、やってきた彼があまりに必死だったからだ。私は、だれかひとりのために生きることができない。大天使なんてものを世界につくったのは、いったい誰なのだろう。私は存在した瞬間から、大天使だった。

 私には終わりがない。いや、知らないだけであるのかもしれない。少なくともハッピーエンドなんてものとは出会えないのだろう。

 私は、彼らがうらやましかったのだ。

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