転校【お題:虹と雫】
学校なんて、くそくらえ。そう思って学校に行かなくなったのが、中学二年生のときだ。勉強なんて自分でできるし、人間関係は薄っぺらいし、ごっこ遊びみたいだ。
そんなある雨の日、突然クラスメイトの少女が家にやってきた。パステルカラーのドットが散りばめられた傘を抱えて(傘があまりに大きいので、本当に抱えているようだったのだ)笑顔を浮かべて、彼女はデートしようと、それだけ言った。
「どこへ?」
「どこでも!」
僕は彼女の名前を聞くタイミングを逃してしまい、なんて呼べばいいのかわからないままだった。そんな関係性のふたりが、本当にデートすることになったのは、僕の気まぐれのせいだ。僕たちは少ないお金をかき集めて、まずはバスに乗った。あんまり遠くに行くと帰れなくなるので、ほんの少し進んだところで停車ボタンを押した。
「なんだか楽しいね」
「そうかな」
僕たちはそれぐらいしか会話をしない。彼女は僕をよく知らないのに、どうしてこんなことを思いついたのだろう。
少し背伸びをして入ったレストランで、僕らの持ち金は半分くらいになった。雨も上がったので、僕らは公園に向かう。彼女はおどろくほど無邪気で、ブランコをこいで笑っていた。空が再び雫を落としたとき、僕らはレストランに傘を忘れたことに気がついた。遊具の下で雨をしのぐことにしたけれど、もう夜も遅い。黒い雲に隠された空から、太陽は離れてしまっただろう。
「どうしよっか」
「濡れたままじゃバスに乗れないから、ここで朝を待とう」
彼女は笑う。僕は答えることができずに、うつむいた。
彼女は一晩中しゃべり続けた。眠ったり、起きたりするのを繰り返した。僕は落ち着いて眠れず、彼女を一晩中眺めた。
気がつくと、空が明るくなっていて、晴れた空に虹がかかっていた。
「晴れたんだね」
僕は彼女と同じ道を歩けないと、どこかでわかっている。彼女も同じだったのか、僕の頬に口づけると、帰ろっかと涙をこぼした。
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