灰色に光を【お題:曇天】

 晴れの日に生まれたから名前も晴。この名前をつけたのは祖母らしいが、僕の記憶の中で祖母と会ったのはほんの数回だった。そんな祖母が病気で倒れたと聞いたのは、僕が二十歳を迎える少し前だった。

 それからは早かった。あるくもりの日、祖母は静かに息を引き取った。僕はもともと祖母と関わりが少なかったから、悲しいというよりは不思議な気持ちだった。家族が死ぬって、こんなに実感しないものなのだろうかとぼんやりと思った。

「ばあちゃんは、なんで晴って名前をつけたの?」

 僕が生まれた日は晴れの日だった。だから祖母は僕に晴という名前をつけたと、いつだったか聞いた。だけど、ずっと何かが引っかかっていた。どうしてあまり会わない祖母が考えた名前が選ばれたのか、わからなかった。

 突然そんなことを聞いた僕に、母はすこし眉を下げて笑った。困らせてしまったかもしれないと思ったが、謝ろうとした僕よりも先に母が口を開いた。

「難産だったのよ」

 初めて聞いた、僕が生まれた日の話だった。

「あの日は、ずっとくもっていたの。ちょうど晴のおばあちゃんが亡くなったときみたいにね」

 なんとなく覚えている。あの日の雲は、沈んだ灰色だった。

 それは僕が昔聞いた話とは違っていた。僕の名前は、晴天にちなんでつけられた名前だったはずだ。でも、母はさっきより明るい表情だった。

「突然晴れたのよ。ちょうど晴が生まれたタイミングで。そしたらね、おかあさんてば晴のことを一家に射し込んだ光だ〜って言い出して。だから、晴の名前はね、家族みんなを照らす光になって欲しいって意味なのよ」

 僕は自分から聞いたのに、なんて答えればいいのかわからなくなってしまった。この名前に、そんな愛が詰まっているなんて知らなかった。

 それ以来、僕はくもりぞらを見るとばあちゃんを思い出す。僕はちゃんと家族を守れてるかな、なんて心の中で呟いたらくすぐったくて、少しだけ笑ってしまった。

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