七章:日常パートは現実の中で

7章:日常パートは現実の中で


 この世界は、一日経てばスベテが元通りに戻る。

 NPCとの人間関係も、昨日の傷痕も、崩れ壊された文明さえも―――

 夕方五時―――世界に八ビットの単調なクラッシク音楽が流れ始めた。

 新世界より―――アントニン・ドヴォルザークの交響曲第9番。

 十九世紀の終わりに改革を渇望したアメリカの魂は、この国日本では夕焼けを示す懐古かいこ的な象徴しょうちょうになり果てていた。ボクらの時代も………おおよそ十年前―――両親を亡くなるまで流れ続けた時報チャイムであった。

 だが、この子供時代のおもい出は、はかなくも現代には存在しない。


「トーおい、ヤーマに―――ヒーがオ――チテ――――」アカリが呟く。

ボクは、この曲に歌詞があるなんて知らなかった。

「それは、アカリちゃんがオサムより頭がいいということです」

 アカリの無垢な冷たい声がした。


 世界中が、青白い光に包まれていく。

 それは雪のようでもあり、ホタルが飛び交う静かな川辺にもみえた。

 ただ違うのは、この霞の中から―――世界が再生されていく。二十一世紀初頭、ボクが知らない原風景は、おおよそ数秒せずに元の街並みへと戻っていた。


ボクはアカリに誘われて夕方のこの時間にもう一度、東中学校前駅へと訪れた。

このスベテが修復していく世界をボクに見せたかったのだとか。


ゲームの世界は美しいもんだ。

壊れたモノも、こうやってスベテが思い通りになる。

誰かを傷つけたとしても、ゲームの中でなら笑いごとで済むのだから。

「では、そろそろ戻りましょう」

アカリは手を差し出した。

この表情は無垢で―――何を考えているのか、ボクにはわからない。そして、どうしてこの景色を見てもらいたかったのかも、未だに謎のままだ。


それとまぁ……今から語る話は、ボクの豹変してしまった学園生活についてだ。

おおよそ時間でいえば、有栖を捕獲し、そのまま遅刻ながらも高校へと向かい……いろいろとまぁ問題があった。


**

 現実世界で、自身が一番にげっそりした原因は時間差タイムラグだった。

 IDEAでの数時間は、現実世界でのたった数分にしか満たない。懐古的武道マンガには、緑色した宇宙人の神さまが『精神と時を修行する部屋』なんてもんを創造したという伝説があったりもするが、まさにコレである。

 はたして、ここまでなるとこの伝説的なマンガがスポコンなのかSFなのか、ボクには判断が難しいが、

なにはともあれ、宗教法人 南無古に置きっぱなしにされていた電動スクーターを回収し、田んぼだらけの国道を直進する。


 埼玉国立越谷総合高校は、創立百年以上を超える由緒正しき高校だ。

 たしかに伝統がある。だが、現在の日本の立場と参照していうなれば、国が新しく教育機関を治めるだけの財力がなくなっただけ。そして、この高校にはもう偏差値という概念は存在しない。

 大昔、ウイルス事件が起こるよりもさらに古き時代―――東京は、自らの威厳を保てなくなる時代が訪れる。それは『第二次日本リーマンショック』と呼ばれる日本の中枢を支えていた大手企業の倒産が大元だった。それが、あらゆる方向へとドミノ倒しに日本の株式ならびに多くの企業は崩壊を迎えていった。

 その中で難を逃れたのが、農家などの第一産業や外資系企業のみ。

 二十二世紀初頭、日本の首相が『リターン発展途上国宣言』をおこなったことは中学の公民の教科書にも記載された日本の汚点でもある。

 そんな中、ウイルス事件が日本のさらなる衰退に向けた変換点を迎えさせた。

 だからまぁ、こんな田舎の低偏差値高校でさえ『国立』という名誉ある称号に値するのは合点がいく。それに、落ちこぼれたちの救済措置を模索してくれた国家とやらに感謝するべきなのだろう。

 

 教室に入るまで、ボクはそんな身に蓋もない感謝を国家に捧げていた。

「あぁ! きたオサム~! ずっと待ってたんだよ~ 一緒にお勉強しよ?」

 バタンッ‼ おもわず引き戸を閉めた。そして、必死に抑えつける。

 こういうのってなんていうんだっけ? 妄想………ちがう。二次創作か?

 いっておくが、この高校にボクの友達はふたりしか存在しない。ましては、こんな金髪オトナの女子高生なんて友達がいるはずが………。

「あのクソアマッ‼」

 あとでだれに文句をいえばいいんだ? んで、なんだよあのビッチは? アカリは  無口で、おとなしくて―――アホな子だったはずだ。

 それがどうして………ボクの理性を爆発させるほどの他愛たあいな笑みを………。

あれは、ギャルゲーや主人公合理主義的アニメにでも出てくる無条件の愛。オトコとして生まれたからには、誰もが欲する『欲望の終着駅』。

しかも、あの国家指定ジャージを纏うアカリは、ただでさえおおきな凹凸が余計に誇張してもはや大変なことになっている。なに? 新人だから成長過程がはやいの? オカしいだろ。

ただまぁ、しわひとつないキメの細かい白い肌や、成長期特有の幅のせまい肩身は間違えなくアカリがボクらと同じ年同等ということは間違いないだろう。認めたくないが―――高度経済成長期を生きる新人とリターン発展途上国の旧人の成長過程に差異があるのは仕方がないことかもしれない。

 必死で引き戸を抑えているが、その向こうにいるアカリも必死のようだ。

「え⁉ どうしたの?オサム~。わたしのことをわすれちゃったの? ひどいッ‼  昨日は家族にわたしを紹介したり……一緒にお風呂で洗いっこしたのに、ぜんぶ嘘だったのね? わたしなんて、どうせ――――――」

 ガラッ‼ 引き戸をおもいっきり開けた。

 無言でアカリを屋上へと連れ出すことにした。こいつ(アカリ)はどうも、ボクの学園生活をぶち壊したいらしい。


 この学園にありとあらゆるガセネタが蔓延まんえんするまで、そう時間は掛からなかった。

 ―――あの美女をお金で買収したらしい。

 ―――なんだって、鬼畜プロゲーマが考えることは違うよな。あ~、俺も酒池肉林してぇ。

 ―――妹ともヤッテいるらしいよ。最低よねぇ~。


 底辺高校をなめないほうがいい。イジメという域を超えて、もはやギャグとでもいうべきだ。それでもって、実際に国立高校生にまでになると、力でねじ伏せる暴力や村八分のようなシカトということはない。

 アイツらも大半はネタということを周知しているのだろう。通りかかってもクスクス横目で笑うだけ、いや………ゴメン。やっぱりムリ、

「――――――オッ、オエエエエェェェェェ………」

 国立総合高校の屋上で、口元から胃の中身をぶちまかす。

 あ―――ダメだ。重力。イヤでもヒトの目は気になる。一刻も早く帰りてぇ。

そして、隣にいたアカリも―――

「うげぇぇぇぇぇぇぇ」

 隣からもうひとつ、嗚咽がした。

 その目が痩せこけてはいたが、元の夢から覚めたピーターパンにもどっていた。

「な……なんですか、この無法地帯は? お付き合いという関係を―――彼らはすぐに欲しがります。それになんですか? あの、め回すような汚い目―――」

こ、コイツ、やはり自身が置かれている立場をわかっていないな。

 そりゃ転校生がこんな色白美人なのだから、どの学生たちもお近づきになりたいと思うのは世の理とでもいうべきか。ざまぁみろッ‼ 

「せいぜい苦しめッ‼ この学校はな、アカリが思うような理想郷じゃねーんだよ。ここがなんていわれているか知っているか? 猿の学園だよ! 在学中に3パーセントの女が妊娠を理由に退学、男は在学中から生殖活動しか考えていねぇ‼」

 まぁ、中学一年に繰り下げられた性教育、子供難の対策として挙げられた学生婚という制度は今では一般的なのかもしれない。

 ただ、あのIDEAで暮らしていたアカリにとっては、信じられることではない。

オドオドと眼球を開くアカリ、ガクガクと……全身が毛だつように震えはじめた。

「旧人………怖い」

 どうやら―――この時代の人間関係についてマッタク考えていなかったのだろう。

にしてもだ。

「よくIDEAでも人間関係を保てたな……。てか………そもそも、あの媚びるビッチはなんだよ? あ―――キモチワルイ、寄るな寄るな―――」

 思春期のボクには、どうにも毒だ。

 それを知らずか、アカリはちょっぴり歯軋はぎしりした。そのままポケットからIDEAの携帯電話を取り出す。

「銭形がコレを起動するよううるさくて―――」

 液晶には『友達作成キット』と書かれていた。……どんだけだよ。

 なんか―――便利を通り過ぎてお節介な機能だな。

「そうか、友達たくさんできればいいな」

「いりませんッ、多希は………多希はここにいないのですか?」

 昨日はあれだけ嫌がっていたのに。藁にもつかむ思いとは、まさにこういうことだろう。

 しかし残念ながら、

「多希は、違う高校に通っている。しかも学年が違うだろ。諦めろ」


 そう、時間ギレが来たようだ。休憩時間の終了を告げるチャイムが学園中に響く。

 最後に一言――― 

「ボクはただの知り合い………わかったか?」

 そう忠告をした。


 ―――はずなのだが、事件は起きる。

 クラス内でもアカリは人気者だった。

 そりゃ愛嬌あいきょうもあって美人、更にはどんなときも笑顔でキャッチボール。

「どこの高校から来たの?」「家はどこ?」「部活動は決まった?」なんておなじみの質問が飛び交う中で、アカリはどんな男たちにも勘違いしそうなほど魅惑な天使でいた。

「あっちの世界~、オサムと同居中だよ~、部活?なにそれ~」

 それが、忠告した昼休みの出来事だった。


 カビのほんのりとした香りがする。ここは我らの聖域。

 そうだねッ! 図書館だね!

 ここに来るまでに、三回吐いた。

 校舎四階、化学実験室やパソコン室などの特別教室の奥、ここへは昼休みや放課後さえ訪れる学生は少ない。まぁ、勉強してもムダな低偏差値高校に図書室なんて情報機関は不要な産物だ。ましては、調べごとはスマートフォンで十分な世の中ともいえるだろう。

 だが―――ボクは図書室が好きだ。

 授業の出席を確認したら、ここで授業をサボることもある。読書や携帯ゲームをすることもある。昼食も、誰もいない図書室でなら平気だ。

 いつも嫌な思いをしたときに、図書室へいくのがクセになっていた。

 そして、ここには古く干されたマンガやライトノベル、それよりも珍しい書籍がたくさんある。理由としては、時代によって失った図書館や教育機関、それら置き場を失った本がこの図書室には右往左往に集結しているから―――そんな噂を聞いたことがある。

 古くても彼ら(本)はボクにとっては宝の山だ。発行年数が何百年も昔であろうと、オモしろい作品はヒトの心を動かす力がある。

 無数の大棚に囲まれたその奥の奥―――周囲から隔離された場所にひっそりと木目調の読書用机がそびえている。ここがいつもの特等席だ。

 ただ……やはりというか、すでに先客はいたようだ。

 この高みにも似た秘境を知る同士は―――懐古なラノベを読みふける。

 黒い髪が長く、顔は日に当たったことがないと思うほどの不健康な色白の男。

 だが、彼は日本人だ。

「やあ、キミが昼に来るのは………何度目かな?」

深町ふかまち、来ちゃマズいか?」

 いや………と深町は、ボクを一目すると、すぐに目線を文字列へと戻した。

 深町は、ボクと同じくプロゲーマーをしている。

 特にこの図書室で、誰もが手に付けたがらない古びた本を黙々と読み続けることを生甲斐いきがいとする男だ。それに、どこで修行をしているのか、ゲームの腕前はすこぶる強い。

 そういえば―――昨日のことを思い出す。

 いつ来たかは知らないが、昨日の世界大会の賞金の入った封筒のことだ。

「昨日の賞金の件だが、強がりいってすまなかった。それと、届けてくれてアリガトな」

 生返事に、あぁ……と深町は手をブラブラさせる。

 そして、キリがいいとこまで読み終えたのか、『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』と書かれたライトノベルを閉じた。

 足元から、コンビニで買ったであろう菓子パンと野菜ジュースを取り出す。

 毎度ながら、コレだけでおなかはかないのだろうか。

「もっと……健康的なモノを食べないのか?」

「キミのように愛妻あいさい弁当を作ってくれるようなヒトはいないからね」

 ぁ……愛妻弁当だなんて、ちょっと照れるなぁ~。

「ぃ、妹がいつも作ってくれるから食べないワケにはいかないだろ?」

 本当はかなり嬉しい。が、それ以上はいいまい。ツッコみまい。

 深町は、ふう~んという具合に、右手に菓子パン、左手にラノベを添えた。

「そういや、キミのクラスには転校生がきたらしいね。どんなヒトなんだい?」

 食べるか、読むか、喋るかのドレかにできないだろうか……。というより、よくも三つのことをいっぺんにできるな。

 毎度ながらこんな感じでは、誰と話しているのかわからなくもなる。

「ただの美人だよ。だれにでも愛嬌がよくて、背がモデル並みで、しかも金髪」

 ホントは、スタイルはよいが無口で、アホで、異世界人だなんていえるはずもなく、

「へぇ、そうなの。私も、一度はお愛想あいそ願いたいところだな」

「あんなの………外見がいいだけだ。好意をふりまいているが、実際はどういう性格しているか―――」

「まるで、キミだけがかの女の心を理解している~そんな感じだね」

「――――――ッは? どうしてこうなるんだよ」

 どこでこんな言葉を覚えるんだ?

「いや、すまない。小説でもマンガでも、好意のある相手に冷たくしてしまうなんてよくある話じゃないか? でもまぁ、これはまるで竹宮ゆゆこ先生のとらドラ!とゴールデンタイムの両方を足して二で割った……みたいな。グヘッ‼ ぁ……スマン……鼻血が出てきた。ティッシュないか? あぁ、マズい。ちょっと興奮しすぎたようだ―――」

「おいおい―――大丈夫かよ」

さすがに中二病でも、ここまでバラ色な感じだと付き合っていられない。

 どの分野でも好きすぎて鼻血がでるほどになったら元もこうもないな。

 しかしまぁ話を戻して……アカリについてどう思っているか。

おそらく美人だからとかどうかとかではなく―――現状において、かの女の存在はボクの情けでしかない。

 今だったら、多希の他にひとりぐらいなら守れるかもしれない。そう思っただけ。

 本当に、いつから自分はこうも甘い性格になってしまったのか。

「………あいつにだけはゴメンだ」

 それに……アカリのことをボクはなにも知らない。

 銭形という社会更生者のボスがいうには、アカリはあのゲーム世界IDEA出身の人間なのだとか。なら、かの女は生身の人間といえるのか―――こんな謎さえあったが、アカリは全裸でありながらもこの現実へとログアウトすることができたのだ。

 おそらくもなにも……それはアカリがNPCではなく、人間である証拠だろう。

 てか………そもそもIDEAってなんだよ。

「おい、深町―――」 

 読書家でゲーマーの深町ならもしかして―――こんな予感が脳裏を蠢いた。

 ただ新約―――この法に則って、尋ねることにした。

「深町は、ARって知っているか?」

「AR………よく知っているね。オーグメンテッド・リアリティ、日本語に訳すなら拡張現実。日本では禁止とされるVR、仮想現実と対になる存在でね。現実世界に全く異なった画像や映像を重ねて映し出す技術をこう呼ぶらしい」

へぇ――わからね。

拡張現実。言葉でいうなら、現実を拡張する技術ということだろうか。

それにしてもだ……この言葉の意味と、IDEAというゲームがイマイチ合点しない。

もし仮に、IDEAがARだとしよう。だとしたら、ボクたちがいたあの世界はどこなのだろうか? 現実を拡張するというのであれば、それに似合った場所が必要になる。

そして、現実に作動していたのであれば、ボクら夢遊状態で越谷をさまよっていたことになるし………ましては、今朝のような行方不明事件に発展しない。

 まさか、異世界なんてありえないだろうし―――質問を変えよう。

「いちおうだが、日本に有名なARゲームってあるのか?」

「いや、まさか。ARはあくまで現実のある基点に対して情報を張り付ける技術、簡単なモノなら私の携帯電話のカメラ機能でも実現できるが、ゲームとなると―――キミにも想像できると思うけどね」

 まぁ、考えていることは同じというワケだ。

 そして、わずかに深町は考え込む。それは―――

「そういえば……ずいぶんと前からだけど、ARの実用性は多様だよ。海外では観光案内とかサバイバルゲームとか………新たな裏ビジネスにはちょうどいいかもね」

 またか―――深町はラノベ趣味以外にも、すぐにビジネスに付けたがる性格でもある。

 ただまぁ―――ヒトの才能というのは、偏りがあるものだ。

「ヤメとけよ。以前も日本に新たなる出版社を―――とかいって、有金ぜんぶ溶かしたじゃないか? ムリムリ、今やラノベは時代じゃない――――――」

 言葉が不意に止まった。

―――このとき、タイミングが悪くも着信音が鳴り響いた。

 馴染みのないリズムに、はじめは深町の携帯電話が鳴りだしたのかさえ思ったぐらいだが……どうやらそうではないらしい。

「メールが―――届いたみたいだね」

 深町の忠告に、それが自分のIDEAからの携帯電話だということに気づいた。

 にしても―――昔の携帯電話を模倣したガラゲーはメール一通にやけに着信音が長い。設定とかでどうにかならないだろうか?

 メールは銭形からだった。

『有栖の正体について、わかったことがある』

 簡潔な件名の下には、今からIDEAにてかの女について尋ねたいと記載されているが―――どうしてボク? 肝心な意図いとが抜けてやがる。

「スマン、先にヒルメシあがるわ」

 そう立ち上がり、ボクはたしか……と、ここから一番近くにある鏡はドコかを考えていた。

 そのとき、深町が一度、呼び止めるようにボクの名前を呼んだ。

 それがわずかな違和感が、深町のにこやかな表情を捉えさせた。

「もしもこの世界が魔王の手に侵されて、この世界を救いたければ―――」

「………なんのはなしだ?」

「最近の愛と平和のRPGゲームの話だ。話の続きだけど……この世界を救うためには、大事なヒトの命が必要なんだ。キミはこの状況に置かれたらどうする?」

 これは……どう考えても愚問だ。

「もちろん、大事なヒトを殺すよ―――妹以外なら、な」

 なにか矛盾している気がした。が、この言葉が一番に脳裏に浮かぶ回答だった。

 それがギャグでも、回答違反だとしても―――無意識のヒトカケラが、ただ残虐の未来を否定していた。

 もし、なんといわれようと、この結論だけは譲るつもりがなかった。

 しかし―――この言葉の罠に……なぜか深町の頬に皺ができた。



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