四章:アカリが加わった日常
四章:アカリが加わった日常
眩暈にも似た暗がりから目が覚めた。ここは……元の現実だろうか?
人々のざわめき、うっすらと街灯に照らされた見覚えある時計台。時刻は19時。たしか大会が終了したのが18時だから……そこまで時間が経っていないらしい。あれだけ、濃密な体験をしたのに……不思議な話だ。
公園からは電車が見える。電車のライトは街をほどよく照らすが、あの過去の秋葉原ほど明るくない。それは、自分が衰退した未来に戻ってきたことを明確にさせた。
そして、ずっしりと寄りかかる重み?に、あの世界で任されたことが夢ではないと思い出させる。そうだ、ボクは金髪の幼女ことアカリちゃんとふたりで現実に戻ってきた。
だから、このちょっと幼女だとは思えない重みの正体がアカリだと……
――なんだ? この大人な金髪美少女は……?
それは、針金に欲求不満男児がエロいがまま、粘土を盛っていったような超絶スタイル。かの女は全裸で身を覆う布が一枚もなく、こちらへと寄りかかる。
「――おい、起きろ? 起きてくれ」
「う…ぐぅ……」しょぼしょぼさせながら、どうにかアカリ?は目を開ける。
「ここは、どこですかタカハシ?」
かの女がアカリであることを確認すると、すぐさま近くの公衆トイレに駆け込んだ。てか、なんでスッポンポン? ぁ……思い出した。銭形が語っていた『現実に行くのが初めて』だから服なんて着ていないのかも知れない。
「いいから、この服を着てくれ」
バックに入っていた着用済、約一か月間以上不洗濯の体育をかの女に渡す。
「……わかりました」
一度個室から出て行こうとしたが、「どこ行くの?」アカリは、上着をヒラヒラさせながら個室から出てきてボクの行方を見守る。それを捻じ込むようにトイレへと中へと戻した。
こいつは、ボクのシスコンキャラを崩壊される気か⁉
「いいから、この服を着てくれ」
かの女の肩を押そうとした瞬間だった。ぶにゅっと明らかに違うシリコン染みた感覚が―――
「うわあ、ゴメン……」
「……へ?」
アカリは、どうしてそのことが謝れたかを理解していない。アッチでは、下ネタという概念は存在しないのか? 各国のルールが違うように、『IDEA』という国では、裸体を晒すことにそこまで羞恥心を持たない文化なのかもしれない。と思ったが違う理由だった。
「な、なんですかこのバグは? 全部肌が見えてしまっています。初めてです」
そ、そうか……。
どのゲームでも一般向けゲームなら全裸になることはできない。アカリは現実でのルール(普通は全裸)を知らなかった……のかもしれない。残念なヤツだ。
ただ、説明なんてあとだ。不思議そうな顔をするアカリをどうにか個室へと詰める。
が―――
「……タカハシ」
アカリはもう一度、個室からスッポンポンのままでてくる。
もう少しでかの女の桜色が見えるところで、体育着のカーテンを作る。……あぶねぇ。
「な……どうしたんだ?」
「あのね……この服ってどうやって着るのですか?」
いやいや、まさか文化の違いでこんなこともわからないようなことなのか?
「普通に頭通して……腕を通せばいいだろ?」
「……え? ここに? 頭……わたしって頭がデカいのかな?」
そりゃ腕を通す裾のあたりに頭をグリグリさせても、入るはずがない。少し考えれば、わかることでも、IQの低さどころか、なんかイケない常識の低さだ。
止む負えなく個室に入る。しかし、ここでもう一つ大きな問題が生まれた。
アカリにこの体操服を着させるには手取り足取り、あんなことやこんなことを教える必要がある。そうなれば……彼女のアレをあからさまに拝めることになる。それはどうやっても避けなければならない。
だからって、服を着用させられなければ帰れないワケで、
「……まず、上着を外したら、さっき渡した体操服ってのを着て欲しい。俺が今着ているシャツが分かるか? そうやって着るにはこの今さっき頭を擦りつけてた小さい穴じゃ入らん」
「手伝ってください」
「―――は?」
「一回やってもらわなくちゃわからないです」
そう言うとアカリは体操服を高橋へと渡し、上着を脱ぎ始めた。そこには、完全裸体の女の子が何の羞恥もせずに立っていた。
「腕を胸の前で折ってくれ」
「こう?」
「そう。それでここの左右の小さな穴に腕を通すんだ」
「……胸が引っかかって入りません。それにこの服、変わった匂いがします。クセに……」
「うわ……やめろ、バカ‼」
ごそごそと、目の前の凹凸が邪魔して身体を揺らす。
あ……なんか大人に目覚めそうだわ。シスコンがぁぁぁぁぁ。
そんな感じで、かの女を着替えさせるのにかなりの時間を要した。公衆トイレから出てきたのがあまりに釣り合わない男女だったのか、通勤帰りのオジサンがヘンな目でこちらを見てきた。まぁ、さらには体育着という悪趣味ときたからな……。
車の騒音が鳴りやまない国道を過ぎ、川沿いへと出る。葛西用水と言われる用水路の横には元荒川と呼ばれる一級河川がある。その間には、散歩用の狭い道幅があり、わずかながら夜道でも歩けるようにと街燈が立ち並ぶ。
昔のことだ。小学生頃、越谷の風土史についてのレポートを纏めたときに、XX年前の写真を図書館で何枚か見る機会があった。ここらは、XX年前の姿と全く変わらない。
「ここは……海ですか?」
アカリは、不思議そうに葛西用水を眺める。
「……海ではない。川と海の区別ぐらいはできるだろ?」
「わかります。ですけど川って、左右がコンクリート止めされた用水路をいうんじゃないんですか?」
おそらく、神田川のことをいっているのか?
どんな解釈か知らないが、よほど基礎教育が足りないことは理解できた。アカリはいったいどのような生活を送っていたのだろうか。そもそも、IDEAに教育機関はあるのだろうか。
「川ってのは地表に降った雨が地面を掘ってできた道。海ってのは……それが流れ着く場所で、地球表面の七割を占めているらしい」
小学生の頃にそのように習った。
習わなくても、それぐらいは知っていて当然かと思っていたが……。
「もしかして、あの街から出たことはないのか?」
「……わからない。そもそもわたしの住んでいる街がどこからどこまでがわたしが住む街かも知らない。でも、どうしてこの街は部屋の中みたいに暗いのですか?」
「……それが、普通の夜ってヤツだよ。東京都とは違う」
「そうなんですか?」アカリは夜空を見上げる。「未来は、もっと華やかで凄いんじゃないかって想像していました」
「そりゃ、こんな田舎の街がXX年経過しても東京の賑わいには勝てないさ」
まぁ、東京都はもうないんだけどね。
「なんで?」
「なんでって……、そりゃ人が集まる場所に文化ができるワケで、そういうところに資金が使われるのは当然だ」
そんな世間話をしながら、ふたりは歩いた。
そのボクの帰り路を……当然のようにアカリはついてきた。
「それで、アカリさんはどこで寝るんですか?」
「え? どこでもいいですよ」
「スマナイ。銭形に連絡をしたいんだが……やり方を教えてくれないか?」
アイツに一言、二言は尋ねたいことがある。
「……あ、携帯をあっちに忘れちゃいました」
なぜかアカリは手になにももっていないアピールをしてくる。もしかしたら、わざとかもしれない……ってことはアレか? なにこのラブコメみたいな展開。さすがに家族(妹)がいるボクにこの展開は喜ばしくはないぜ……?
マジで家に来てもらうのは困る。寝る場所もなければ、布団だって足りない。そもそも、断りもなく女の子(しかもボクの体操服着用)を連れてきて、今日一晩だけでも世話をさせてくださいってどう説得をしたらいいんだ。
間違えなく性癖を疑われるだろう。『お、お兄さんのエッチッ!』だなんていわれたら、もう生きていけない。一夜にして、やっとでつなぎ合わせた家族としての絆が切断されることだろう。
だからって……あぁぁぁぁぁぁぁッ! ふたりでホテルに泊まるワケにはいかないし。ジャージと体操服着用の高校生の男女が訪れても、泊めてくれる施設は存在しないし、どうみても倫理規定違反だ。
結局は、自宅が一番安全なのだ。気づくのは、そう遅いことではなかった。
運よく、まだ妹は帰宅していない。
自宅に辿りつくや否や、とりあえず、二階にある自身の部屋にアカリを隠す。できることなら、家族にはバレないうちに事を終わらせたい。銭形と連絡ができない以上、今日はアカリを自分の部屋に閉じこめる他にないだろう。
だとしたら、まずアカリには先に風呂に入ってもらうしかない。さすがに、女子に風呂にも入れずに眠れは……可哀そうだろうし。
だが、ここでもう一つ疑問が生まれてくる。
「アカリさん、アンタは風呂の入り方ぐらいは分かるよな?」
「……はい。わかります」
一度安堵する。
「よかった。それじゃあ、風呂の場所を教えるから、寝る前に風呂にはいれ。さあ早く」
「わかりました」
なぜか、アカリは無言でボクの手を繋ぐ。
それがどういうことだか、今までのかの女の行動で理解していた。だから、軽く揉みながらその手を
「……アカリさん? お風呂入れますよね?」
不安になってきた。
アカリは目を合わせずに「わかります。ですが、わかりません」と応えた。
「……は?」疑問文でもう一度訪ねたつもりだった。
だが、かの女は黙秘権を貫いた。……おそらく、これはどの時代の若者に限らず、誰もが自分の存在を誇張したいときにおこなう心理描写……『強がり』だろう。
どんだけアカリが無知だったとして、散々にわたって今までなにもできないかの女をバカにしてきたのだ。おそらくもなにも、この無表情の中には自身への
だからって………まずは、この歳の男女の在り方について、知らせるべきだろうか。そうアカリの碧い目を見ていると心のベクトルが―――変な方向にズレかけていく。
心の善と悪、その戦車が戦場を駆け回るようにガダダダダと轟き始める。そうだ……これは、けっして欲ではない。アカリが困っているから仕方がなくアカリのいうとおりお風呂に入るのだ。
そして、アカリが困っているから身体の洗い方を教える。髪の洗い方、脇の洗いかた、谷間の汗の流し方等々……。いや、いかん。これではただのトロイの木馬じゃないか? 善を示す戦車の中にはまるで理性を制御できない悪が存在しているようだ。
「アカリは、同い年の女の子で、そういう男女間はハレンチだッ‼」
心の中の言葉が、思わず声となる。同時に―――現実の世界へ舞い戻る。
生暖かく狭い空間で、ふたりは前合わせに腰を下ろして……目の前にはつるやかなゴム状の皮膚、見たことのない凹凸とふたつの風船……。
「く、くつぐったいです」
アカリは、それでも冷静にボクと見つめ合う。そして、抱き合うように身体を凝り合っていた。タオルで。お互いが泡まみれに……、
「ぎゃああああああああああああああああ」
エロいとかそういうのじゃなくて、ここまでなるともはや怖い。
理性に負けた不甲斐なさや自身の
それでも、冷静な碧い目でアカリはこちらをみていた。驚きもしないところ、肝が据わっているを通り越して何事にも関心がないのではないかと考えるほどにだ。
「どうかしましたか?」
アカリは未だに、記憶のないところでボクに教わったらしい身体の洗い方をボクに実践しようと試みる。こんな場所で逃げようのないだけに、このご褒美は……受け取るべきだろうか? チゲェだろッ!
いや……てか記憶がないって、まさか―――IDEAでの操り人形のようなコスプレ集団やいきなり殴りかかってきた榊原のことを思い出される。
「アカリ……」
「……どうしました?」
「あんた、魔術を使っただろ?」
アカリはなにも応えない。その代わりに、必死にこの碧い目を……目線をコジつけようとしてくる。さすがに
まるで、シャドーボクシングだ。腰をくねくねとさせながらお互いに必死に攻防を続けるが、クリンチするなッ!胸が…… 顔が近いッ……! くそッ⁉ いっそのことファミングで
あまりにふたりして騒いでいた……のが、原因だった。
突如として開かれた浴室。ガラガラ……という爪でも擦る嫌な音で、現状況に気がついた。
「ど……どうしたの? お兄さん? ……ッツゲェェェ!」
まどろく妹。名前は『
まぁ、浴室の中にいるのが兄妹である兄だけだったら、少しぐらい開けても平気だと思ったのだろう。だが、そこで目にしたのが全裸を
――バタンッ
扉を閉められると、とにかく無言でアカリの身体を洗い始めることにした。はやく終わらせたい。……てかもう、人生終わった。
共同スペースである
なぜかボクだけ正座させられて、アカリはソファーでテレビを見ていた。どんな関係であろうと、客人は盛大に扱うのがこの大黒柱の多希さんの一存らしい。
「オサムさん……、これはどういうことですか?」
「……ワケがあるんだ多希さん。そんで、かの女を何日か泊められないか?」
「それって……ワケがわかりません! きちんと説明してください」
多希は掌で思いっきりテーブルを叩くと、食器の揺れる音が部屋中に響いた。
愕然とイイワケを捻りだそうとした。というより、大会の帰りにヘンな別世界をさまよって、現実へと帰していただく条件としてアカリの世話をすることになった……だなんて、SF思考が消え去った日本人には通用するワケがない。
それでも、この時代に合った
「かの女、家族がいないんだ」
そう話すと、多希は一瞬に言葉を詰まらせた。
「……そ、それとアレとは少しちがいますよね。あ……いえ、もう……泊めるとしても、私に相談してくれてもよかったんじゃないですか?」
多希は怒ったフリをして、
「タカハシ………いつわたしが家族がいないことを教えましたか?」
アカリが腕を掴んできた。
そのときの多希の表情や感情を……アカリも理解してしまったのだろう。
「言ってくれるな。ていうかもしかして……
「……いちおうですが」
思えば、浴室でもなにかしら催眠術と思われる瞳術を使用したワケだ。その要領でヒトの心を読むのはそう難しいことではないのだろう。
だが、アカリが突っかかっていた問題は、こんなことではなかった。
「家族ってなんですか? わたしにはわからないけど、それを失うとどうしてわたしを助けてくれるんですか?」
アカリは急に顔を近づけてくる。見惚れるほどキレイな碧い目。まちがえなく、かの女は口ではなく心から無理やり真実を聞き出そうとした。それは完全に、油断だった。
そして、アカリの眉が少しだけあがる。
あとで知ったことだが、IDEAではHPでの死と生命としての死は別次元として存在する。だから、アカリは『死』についてわずかながら理解することができる。表情こそ見せないが、かの女も多希のように言葉を詰まらせてしまった。
なぜなら、ボクらは十年前の都内で起きたウイルス事件により親を亡くしていたから。
この出来事は多希にとっても……もちろんボクにとっても、あまり触れたくない思い出でもある。
「……アカリはさ」
そこで、ボクもアカリについて気になることがあった。
聞くのは
「アカリには家族とか、そういうヒトはいないのか?」
その言葉に、あからさまにアカリの唇は震えていた。
「だから家族ってなんですか? 辞書的な意味の血縁関係の小集団ですか?」
アカリの言葉の神髄を知るため目を瞑る。ただ、瞳術によってバレたくないという理由もあった。強がり、恐怖、苛立ち、無知………要するに、アカリにはIDEAや現実問わず、家族と呼べる人間がいなかったのだろう。または……いたとしても、彼らはかの女を捨てた。
ただ、それはボクの憶測でしかない。それ以上は、ボクとアカリの関係も考えて、尋ねることは控えておこう。
しばらくすると、多希は居間へと戻っていた。
思った通り、多希の目じりは赤く腫れていた。なんども顔を擦りつけたのかもしれない。
「……先ほどは失礼しました。でも、兄さん? あなた、アカリちゃんと一緒に寝るつもりではないでしょうね?」
待て待て……ボクはけっして美少女コンプレックスではない。
「そんなワケないですよ? 今それについて考えていたところですし……」
なぜ妹に……ボクは敬語を使っているんだろう。あ……嫌われるのが怖いんだ。
「そ……そうですか? だったら兄さんはソファーで寝てもらおうと思ったけど、そういうワケにはイカナイから―――」
多希は、ちょっと
「提案なんですけど、アカリちゃん、今日は私の布団で……一緒に寝ませんか?」
それは思いもよらぬ展開だ。
拍子抜け……というか、やっぱり妹はツンデレだが優しい奴だ。
「……いいのか? 多希さん」
「大丈夫だよ、オサム兄さん。アカリちゃんがよければだけど……」
一度、アカリに確認を取るために目を向けた。
なのに……なぜだ。アカリの手がボクへと絡みつく。そして、この碧い目が……まずは多希を洗脳した。
「ごめん、ひとりで寝ます」
おい、待ってください……なんて声は多希には届かない。
「タカハシ、あなたも我が眷属(けんぞく)になりなさい……」
眷属……それは、ドラキュラとかが吸血とかして自身の見方にしちゃうとか……アレだ。たしかに……ぴったりな言葉じゃねーか。
そして、またしても始まるシャドーボクシング。すでにアカリはクリンチ作戦で勝敗を仕掛けると決めていたらしい。体格的にも……アカリは大人になったせいかボクよりもわずかに背が高い……。てか……すでにレスリングになっていた。
もちろん、ボクは倒されたさ。気づいたらマウントポジション。あ……情けねぇ。
だってね、こんな男の欲まみれの女の子が必死でしがみついて、身体を擦りつけてたら、どんな男の子でも動けなくなる。ボク、いちおうには思春期なんだぜ……?
しかし……心の声がした。そうだ。ボクはシスターコンプレックスだッ‼
そして、こいつに洗脳されたら……家族が全滅する。こうなった場合……ボクら家族はアカリの眷属として、一生炊事洗濯など家事全般をさせられて……ヘタしたら、そのまま一生を終えるかもしれない。
まぁ、一度目はアカリが女性で手加減してやったというのもあるが、二度目はこんな現実チート的異能力をもっているかの女に手加減なんかしなかっただけのこと。
要するに、一度目は躊躇(ちゅうちょ)した格闘技全般における反則技を……ボクは、お見舞いした。だって、現実での取っ組み合いに反則なんてあるか?
チ―――ン
「目がぁッ! 目がぁぁぁぁぁぁぁッ‼」
な、なにいってんだよコイツ……意味わからねぇ。
ジタダタと知らない名言を吐きながら暴れる洗脳女を放置していると、もうひとり、洗脳が解けた妹が居間へと戻ってきた。
「あれッ? 私どうしたのかしら? オサム兄さんごめんなさい。お話し中に急にごめんなさい」
素直に何度も謝れる妹って、ツンデレ属性に入るのだろうか。
まぁいいか。かわいいし、キュートだし、ポニーテールだし。ボクより背が低いし。
―――イモウトバンザイッ‼
「いや、大丈夫ですよ。もぅ寝るらしいからそのまま寝かせてあげてください」
アカリの目隠しにそこらへんに落ちていたマスクで代用する。その上からさらにタオルを巻いた。なんか……ここまでやると、美女を拷問している気持ちになる。
そして多希といつもの、うっとおしいほど普通な生活が訪れた。
「勉強だとかそういうのは大丈夫か?」
兄として自慢でもないが、多希はこの地域では有数の進学校に通う身だ。頭脳明晰……というよりかは、一に努力、二に努力。予習を夜な夜な欠かさない努力の天才なのだ。
「明日は平気だよ? 最近は放課後に図書室で復習しているんだ。友達ともわからないところを確認しているし……」
「そうか。じゃあ、何かあったらいってくれ。明日には違う対策考えるから」
多希は、アカリを抱えるように部屋へと連れていった。その時ばかりは、多希より背の高いはずのアカリは子供のようにも感じられた。
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