由莉サイド
「ひよこ可愛いね〜」
「ね。ニワトリは少し怖いなって思っちゃうけど、ひよこは全然違うよね。賢二君はニワトリ好き?」
「うん。ニワトリに限らず、鳥類は割と好きだよ。あの凛々しい表情につい見入っちゃうんだ」
動物園に到着してから約二時間。夕梨たちの様子は分からないが、少なくともこちらはいい感じだ。
二人きりでこんなに長時間過ごしたのは初めてだったけれど、会話は全く途切れない。恋愛経験のない私(由莉)はたったそれだけの理由で、賢二君と付き合えるかもしれないと浮かれていた。
「由莉ちゃん、次はどうする?」
「次かぁ……。あ、そろそろご飯にしない? 沢山歩いてお腹空いちゃった」
「よし。じゃあ園内レストランに行こっか」
「うん!」
「うわぁ……やっぱり混んでるね」
レストランの扉の前で、賢二君がポツリ。
「まぁお昼どきだし仕方ないよ。気長に待っていよう」
「そうだね」
よっぽど空腹だったのか、しょんぼりと俯く賢二君。しかしその直後、何かを思い出したようにハッと顔を上げてこう口にした。「夕梨ちゃんの誕生日が今日なんだよね? じゃあ、由莉ちゃんはいつなの?」
「私の誕生日? ずいぶん突然だね」
「まあね。そういえば知らないなって、今ふと思ったから」
「あ〜確かに。友達に誕生日を言う機会ってあんまりなかったかも」
思い返してみれば、彼に限らず女友達相手にも誕生日を伝えたことなんてなかったような気がするな。「所詮ただの生まれた日」。なんて認識だったが、いざいつなのかと訊かれてみると嬉しいものである。
「え〜。でも誕生日って大事だよ。──で、いつ?」
「六月六日だよ。ゾロ目だから覚えやすいでしょ?」
「へぇー!! すごいねっ。実は俺もゾロ目なんだ。二月二日!!」
「え?」
賢二君が二本の指を立てた両手を笑顔で揺らしている。それを見て、私の頬は催眠術にかかったかのように紅に染まっていく。
ピッタリ同じ誕生日だった訳ではないけれど、共通点があった。たとえそれが偶然だろうが必然だろうが、今私の心がとてつもなく満たされているのは事実だ。
「嬉しい偶然だね」
「うん……。そうだね」
触らずとも熱いと分かる頬を賢二君の目に晒すわけにはいかないと、即座に視線を逸らした。「……あ、中空いてきたみたいだよ」
「お、本当だ。早く入ろう!」
「うんっ」
カランッ。
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