期待が胸を膨らます

『考え?』

 三人が声を揃えてそう質問してくる。

「うん。あんまり大したことじゃないよ? 姉さんと二人で出掛けるって、嘘をつこうと思って。バレないように、姉さんに付いてきてもらってね」

「なるほどね。でも、それだもお姉さんと三人で過ごすことにならない?」

 あまり納得がいっていない様子の杏奈。先程私が「二人でいたい」と発言したのと、考えが矛盾していると感じたのだろう。

「「付いてきてもらう」とは言ったけど、保護者みたいにぴったりくっついて同行するんじゃないよ。行きと帰り、目的地は一緒だけど現地では別行動って形にするつもりなんだ。姉さんもそれで良いよって言ってくれてるから」

「確かに、そうすればお姉さんと海斗が気まずくならないわね!」

 満面の笑みをこちらへ向けて、蘭は私の計画に感心したような声をもらした。加藤さんもその言葉にコクコクと頷いている。

 しかし杏奈だけは、笑顔を見せてくれなかった。何か憂いごとがあるのだろうか。

「……絶対に、お母さんにバレないようにするのよ」

 杏奈はそう言うと、「もう授業が始まるわ」と教室へ歩いていった。

 残された私達三人は顔を見合わせ、瞳をぱちくりさせる。

「と、とりあえず、教室戻ろっか」

「そうね」「そうだね」

 何とも言えない空気感の中私が発した言葉に二人が同調するかたちで、私達もそれぞれの場所に戻っていった。

(私の考えは完全じゃない。だから杏奈は、私を心配してくれているんだろうな。でも、戸山君と出会って初めての誕生日だし、思い出に残るものにしたいよ)

 杏奈の忠告を胸の中で反芻しつつもちょっぴり浮かれた気分で私は、授業開始のチャイムを聞いていたのだった。


 戸山君が部活に精を出しているため、一人で歩く帰り道。

 十三日のお誘いに無事「イエス」の返答を貰い、この上なく晴れやかな気分の私。

(楽しみだなぁ。どこへ行こう)

「どこかに行く」という事実はあるが、まだ細かいことは何も決定していない今回のおでかけ。

 遊園地などのレジャー施設に赴いたことのない私。折角だから、そういった所に足を踏み入れてみたい、という思いがあった。

(……そういえば、まだ付き合ったばかりの頃に戸山君、動物園に行きたがってたな)

 彼の手に握られたスマホの中の、動物園のホームページが頭に浮かんでくる。あの時は彼に応えることができなかったが、今は違う。

 一緒に居たいし、色々な場所で、思い出を刻んでいきたい。

 雨の日も、風の日も、あの空が、何色に染まろうとも──。

(よし! 行き先は、動物園にしようっ)

 一刻も早く姉にそのことを伝えるため、私は茜色の中を、突き抜けるように駆けていった。 

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