第四章

クリスマス、かぁ……

  友達が増えたり、戸山君と仲直りしたりと、バタバタしていた文化祭。沢山の思い出を与えてくれただけに、終わると少し物悲しい気持ちになる。

 しかし、私達には来年もあるのだ。次こそは事前準備だって戸山君と共に取り組むぞと意気込んで、私は家への大きな一歩を踏み出した。


     ○ ○ ○


 文化祭から数日が経つと、皆の話題はクリスマスへと移っていた。まだ十二月になって間もないというのに気が早いななんて思いながらも、戸山君と二人で過ごせたらどれほど良いだろうと考えている自分が居る。

「なんか、みんなクリスマスの予定について話してるわよね。でも、友達や恋人とお祝いするクリスマスってアタシ、おかしいと思うの」

 最近は休み時間になるとすぐに廊下に集まって、蘭・杏奈・加藤さん・私の四人で他愛もない話をするのが日課になっている。

 どうやら今日は蘭の不満から開幕のようだ。

「おかしいって、何が?」

「えっ」蘭が分かりやすく目を見開く。「夕梨分からないの!? クリスマス──まぁ正確に言えば二十四日のイブだけど、その日は家でいい子にして早く寝ないと、サンタさんにプレゼント貰えないのよっ」

「サ、サンタさん……?」

 私をからかっている訳ではないというのは、とてつもなく真剣な眼差しから見て取れる。ただ、高校二年生になってもまだ……。

 横目で杏奈と加藤さんを見ると、偽りの咳で誤魔化しつつ馬鹿笑い。まぁ気持ちは分からないでもない。

「だから夕梨もちゃんと家にいないとダメよ!」

 蘭のピュアな笑顔に心を掴まれ、思わず「うん」と答えてしまう。

(外で過ごしたくても過ごせないんだけどね、元々)

「でも、」すっかり笑いきった様子の杏奈が口を開いた。「サンタさんよりも恋人との時間を優先したいと思わない? 折角のイベントなのよ」

 蘭は「できたら考えが変わるかもしれないけど、アタシ今恋人いないもの」と即座に返した。しかし私はというと、俯いて言葉を詰まらせている。

「恋人とのクリスマス」が私にとって非現実的なのは言わずもがな、即答できないのにはもう一つの理由があった。

「私、クリスマスは恋人と過ごせなくても良い。け、けどっ、誕生日に、二人でいられたらいいなって」

「誕生日ぃ?」突然関係のない単語を出され少々困惑気味の蘭は、自分と同じように疑問で眉を顰めている加藤さんと目を見合わせ、首を大きく傾げた。

「あぁ、夕梨十二月生まれなのね」

 他二人がちんぷんかんぷんであったために回りくどく言い過ぎたのかと思ったが、杏奈には伝わったようで安心した。

「うん。十二月の十三日生まれなんだ」

「ええっ!?」分からなかった二人が驚愕の声を洩らす。「杏奈凄すぎっ!!」

「べ、別に凄くなんかないわよ、大袈裟ね」

 杏奈がちょっぴり照れくさそうに否定する。

 そんな彼女相手に蘭と加藤さんは激しく首を振ったが「だからそれが大袈裟なのよ」の一言で躱され、不服そうにただ彼女を見ていた。

「あら。今気づいたけど、十三日って土曜日なのね。それじゃあ海斗と会うことすらできないじゃない」

 指を折って曜日を数えてくれていたらしい杏奈が心配そうに言ってきた。

「あ。そっか、お母さんが厳しいんだっけ」杏奈につられてなのか、加藤さんの表情も心なしか悄然としたものになっていた。


「うん……。でも私、考えがあるんだ。多少のリスクは、伴うけど」

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