第26話 霧をも晴らす意志の光剣
「……すみません、ちょっと失礼します……」
優星は恐る恐る、制服のネクタイを緩め、胸元の釦を外していく。その間に、愛美から手鏡が差し出されていた。手鏡を受け取り確認すると、ちょうど鎖骨の真下にあたる部分に星形の痣が浮かび上がっていた。
「あ……」
「うん、優星は後発的な融合型だな。ペンダントとして身につけることはなくなったが、呼びかけに応じて武具として扱える。取り出すときは、手を翳して念じればいつでも発現させられるはずだ」
試してごらん?、と李土に促され、優星は痣にそっと右手を翳す。
(出てこい……! 星雨!)
初めての、未知のものへ対する呼びかけ。不安も感じるその右手に、自然と力が入る。すると、風の渦のようなものが右手首に巻き付くように発生する。それと同時に、右手がほのかに温かくなったと思えば、翳していた部分から光とともに剣の柄が伸びてくる。優星は一瞬驚いたものの、柄に手をかけゆっくりと引き抜いた。そのすらりとした刀身は、先ほどまで身につけていたペンダントと同様、黄金の装飾が施された柄に透明な刃を携えた、宝飾品に相応しい荘厳さを纏っている。その圧倒的な美しさに、周りの誰もが息をのんだ。
「こ、れが……星神器……」
「星雨……」
「うん、どうやら、発動するのも問題なさそうだ。体に異変もないか?」
「あ、はい。今のところなんとも……」
「そうか。ただ、今はまだ発動したばかりだ。今後戦闘練習もしていく中で、少しでもおかしいと感じたら、すぐに言ってくれ。無理だけはしないように」
「はいっ!」
その後、星神器の解除等、一通り優星に教えていく李土たち。優星も無我夢中になって自ら天星界の力をその体に叩き込んでいく。知らず知らずのうちに、時間は刻一刻と過ぎていった。
「……よし、今日は戦闘練習は無しで、このあたりで切り上げよう。まだ完全とは言い切れない状況で続けるのはリスクが高いからな。愛美、どれくらいこの空間にいた?」
「えぇ…っと……通常の感覚で言えば、およそ二時間ほどかと」
「わかった。じゃあ生徒会室へ戻してくれ。今後の話し合いもしないといけないしな」
李土の指示に頷き、愛美がペンデュラムを反時計回りに一振りする。同時に、体が吸い上げられる感覚で目が回りそうになるが、すぐに地面に足がついた。ゆっくりと目を開け周りを見渡せば、見慣れた制服姿のメンバーに、長机を中心に整然とした生徒会室に戻っていた。未知の体験をした後で、未だ夢心地の感覚の優星。李土たちは既にそれぞれの席に着席し始めている。
(そういえば、今何時……)
「……えっ……?」
先ほどいた空間でおよそ二時間。最初に、あの空間と現実世界とでは、時間の流れが違うと説明もあった。優星は時計を確認すると、驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。それもそのはず。授業が終わってすぐに生徒会室に来たあたりの時間から、たった五分ほどしか経っていないのだ。自己紹介をしていた時間を差し引いても、ほんの数分ほど。もっと言ってしまえば、生徒会室から離れていた時間は、一分もかかっていない可能性もあった。普通ならばあり得ない体験に、優星はどこか、胸を躍らせていた。
プラチナの星空 琴花翠音 @Koto87Sui07
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