第14話 日常と非日常の狭間

 優星は、未だもやもやと考えながらも家に入った。


「ただいまー」

「…ん? あ! 優星帰ってきた! お母さーん! 帰ってきたよー!」

「お、ほんとだ。兄ちゃんおかえりー。遅かったね」

「姉ちゃんに星太…なんだってこんなに集まってんの?」


 優星を出迎えたのは、彼の三つ年上で大学生の姉・星香せいかと、彼の三つ年下で中学生の星太せいた。優星は、何事かと驚き目を見開いた。


「え? あたしはたまたまお風呂上りでここ通っただけよ?」

「オレもこれから風呂入りに行くところ」

「あ…そゆこと…」

「とりあえず早く支度して夕飯食べたら? お母さん、あんたのこと心配して、ご飯何度も温めなおしてるから」

「えぇっ? なんだそれ…わかったよ…」


 母親の奇妙な行動に驚き、優星は慌てて靴を脱ぎ、リビングへ向かった。ふと、彼の脳裏に保健室での話がよみがえる。一見、仲の良い普通の家庭。なんともない日常のはずなのに、学校で起きた出来事のおかげで、すっきりしない感情を抱いていた。


 あれから夕飯も入浴も済ませ、部屋でゆっくりしていると、突然携帯に着信が入った。


──こんな時間に…? 誰だ?

「…もしもし?」


 不審に思いながら、着信に応じる。恐る恐る応答すると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「…あ、もしもし、優星?」

「しろが…ねさん、じゃなくて!…さ、沙月? なんで俺の番号…」

「勝手にごめんなさい! さっきあなたが気を失っている間に…ちょっと…」

「そう、だったんだ…いや、いつかは連絡のために聞かれるだろうと思ってたから、大丈夫。怒ってないよ」

「…冷静、よね…あなた」


 優星の予想外の返答に、沙月の方が目を丸くする。


「え? そう、かな…? 」

「だって…ううん、考えすぎるのも良くないわね、ごめんなさい。それでね、本題に戻すんだけど…さっきあなたと別れる前に、あなたの家の周囲に天星人の気配がないか、簡単にだけど見てみたの」

「どうだった…?」

「…やっぱりあなたのご家庭は、みんなごく普通の人たちだわ…力を隠しているような様子も感じられなかったし…」

「そっ、か…」


 詳しい調査でないにしても、沙月から告げられた言葉に、優星は目を伏せた。彼の声音を聞き、沙月は慌てて弁明する。


「でも…! 私もまだ未熟だから、詳しいところまで見られなくて…! もしかしたら今居ないお父さんが…」

「ありがとう、沙月。大丈夫、落ち込んでるわけじゃないから」

「優星…」

「あ、ねぇ沙月。明日も顔合わせがあるって呼ばれたけど、古金先輩たちの他にあと何人いるの?」

「えっ? えーと…同じ任務についてるメンバーだと、さっきの私たち三人と、他三人ね…どうして?」

「いや、地星界こっちに、どれくらい天星界むこうの人たちが来てるのかなぁって思って…別世界から来てるんだっていうのが、ほんと不思議な感覚だよなぁ、って」

「そ、そう…ふふ、やっぱり優星って、ちょっと変わってるわ」

「え。変…かな?」

「"ちょっと"、ね」

「…それ絶対変だと思ってるでしょ?」

「そんなことないわよ?」


 少し落ち込んだ空気から一変。他愛もないやり取りで、二人に笑顔が戻る。そして、どちらからともなく「おやすみ、また明日」と告げ、電話を切った。

 明日から、優星の"非日常的な日常"が始まる。それを考えた時、彼の中では、不安と高揚感とが入り混じった不思議な感情が芽生えていた。

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