第15話 交際騒動
次の日。普段と変わらず家を出て学校へ向かう優星。家では相変わらず、姉はバタバタと焦った様子で大学へ向かい、弟は余裕をもって朝食を食べている。母親も、子供たちの見送りを含め忙しそうに家事をこなしていた。
それが、いつもの銀条家の一日の始まりだった。
「…これが普通なんだよなぁ…」
優星は、いつも通り服の中にしまってある剣のペンダントに、服の上からそっと触れながら呟いた。学校に着いても、昇降口で靴を履き替え、荷物をロッカーにしまい教室の自分の席に座る。いつも通りだった。左隣の席の彼女──…沙月はまだ登校してきていないようだった。すると、優星のもとへ一人の男子生徒が声をかけてきた。
「ゆーうせい!」
「お、大地。おはよう」
「おはよ! お前…昨日早速あの可愛い転校生ちゃんと、放課後良い感じだったんだって?」
「…はあっ!?」
そう言ってやけに楽しそうに話す彼は、優星の幼馴染であり親友の"
「いやいやそれ誰情報だよ…昨日の放課後はただ校内を案内していただけで…え?」
「優星! あの白金さんともうそんな関係になったのか!?」
「俺たちが納得のいく説明をしてくれ!!」
「ちなみにどこまで進んだんだ!?」
「ちょっと待てーーー!!」
次々とありもしないことを質問され、とうとう優星も声を荒げた。ふと、ちょうどその時。タイミングが良いのか悪いのか、噂の相手が教室に入ってきたところでもあった。登校してきたばかりの本人は、状況が掴めず軽く驚いた表情を見せる。そんな彼女に容赦なくクラスメイトの女子が一斉に集まっていき、質問の嵐を巻き起こした。
「沙月ちゃん! 転校してきて初日で、銀条君ともうそんな関係になったの!?」
「彼のどこに惹かれたの!?」
「そもそも何で銀条なの!?」
後半の質問に対し、ひどい言い草ではないかと疑問に思う優星であったが、今は学級委員としてこの騒動を止めなければならないと感じていた。
そして女子を止めようと動こうとしたが、沙月の一言であっという間に治まってしまった。
「…ふふふっ。そういうことだったのね。みんな何を大騒ぎしているのかと思ったら…」
「えっじゃあ本当に…」
「違うわ、その逆。私と"銀条くん"の間には何もないわよ。昨日は校内を案内してもらってただけ」
「でも二人っきりで屋上にも行ったって…」
(そんなところまで見られてたのか!?)
「あぁ、あれは私が頼んだの。久しぶりの日本だったから、いろいろと見てみたくて。屋上から見る景色を、一度見てみたかったのよ」
「…なぁんだ! そっかぁ!」
沙月の話し方には少しもぎこちなさはなく、クラスの誰一人として彼女の話に疑問を抱く者はいなかった。皆が納得し笑い話で済んだことが、優星にとって幸いだったような、複雑な気分にさせた。
すると突然、優星の携帯にメールが届いた。メールは沙月からで、ただ一言『放課後、生徒会室で』とだけ記されていた。周りに人が集まっている中でどうやって送信したのか問いたい気持ちを抑え、大地に諭されないようすぐに携帯をしまった。
「あ、そうだ優星!」
「っ? 何だよ…?」
携帯をしまうと同時に大地が声を上げたおかげで、彼にメールを見られたかという焦りで優星の背筋が伸びる。
「今日の放課後さ、ゲーセン行かね? 久しぶりに勝負しようぜ!」
「おーそうだな…って…あーごめん! 今日、学級委員の仕事でやり忘れて提出してないものがあってさ、生徒会室に行かなきゃいけないんだった!」
「おいおい大丈夫かよ学級委員ー。じゃあ終わるまで待とうか? もし量が多ければ手伝うぞ?」
「ありがとう大地。嬉しいんだけど、今回のは生徒会に確認してもらう仕事だから、また今度頼んでいいかな? ゲーセンも、次行くときは絶対勝負しようぜ!」
「学級委員も大変だな…ん、わかった。あまり無理すんなよ?」
「おう」
生徒会室に行く理由に不自然さが無かったか不安だった優星だが、大地に納得してもらえたことで緊張がほぐれ、安堵の息をついた。
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