第4話 安息と襲来
沙月は優星の手を、さらに両手で包むように握った。彼女の夜空色の双眸には、今にも溢れんばかりの涙が溜まっている。朝に自己紹介をした時のようなクールな彼女からは想像もつかないような弱々しい表情に、優星もどうしたらいいかわからなくなっていた。
「ちょっ…ちょっと待って? 『メイセイ』って?」
「忘れてしまったの…? あなたが…!」
「俺は、さっき自己紹介した通り『銀条"優星"』だ! 誰と間違えてるのかわからないけど、俺は『メイセイ』じゃない」
「そんな…」
「…とりあえず落ち着いて。その『メイセイ』って人のこと、詳しく教えてもらえる?」
「………」
優星は愕然としている沙月を宥め、近くにあった段差に腰掛けるよう促した。しばらくの無言の後、ようやく落ち着きを取り戻した彼女に、そっと話しかけた。
「…落ち着いた?」
「えぇ、ごめんなさい…取り乱してしまって…」
「いやいいよ、放課後になってずっと俺のこと、何か気にかけてた様子だったから」
「……気にして…くれてたの、ね…」
「え、あ、いや! 別にやましい意味じゃないから!」
「…ふふっ」
優星が誤解を解くため慌てて弁解すると、彼のあまりの必死さに沙月は笑った。笑われたことに少しばかり恥ずかしさはあったが、彼女の笑顔につられ優星も笑った。
「…それで話を戻すけど…『メイセイ』を探すために、君はここへ転校してきたってこと?」
「確かにそれもあるわ…でも本当の目的は………っ!」
「? どうした?」
沙月は、何か言いかけたところで急に立ち上がり、辺りを見回した。突然の彼女の行動に、優星は状況がわからない。
そして、彼女が叫んだ。
「下がって!!」
「へっ!?」
彼女が叫んだと同時に、一体いつの間にいたのか、得体の知れない"生物"が何体も二人に向かって歩いて来ていた。
人のような姿で二足歩行しているが、手足は異様に長く細い。筋張った体で、ぐらぐらと頭を揺らしながら歩いている。顔を見ても、赤い眼だけが大きく占めていて、口や鼻といった他のパーツが無い。優星は、メディアでよく見かけるような宇宙人像を想像したが、明らかに違う。
"化け物"。即座にそう思った。
「なっ…何なんだよこいつら!」
「飢幸餓…」
「き、キコウガ?」
「詳しいことは後で話すわ! 今はとにかく逃げて!」
「逃げるったって! 白金さんは…!?」
そう言いかけた時、優星は目を見張った。どこから出したのか、彼女の手には美しい銀色に輝く大鎌が握られていた。
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