第3話 夕焼けに溶け込む街

 昼休みのうちに、彼女に学校を案内しようかと思っていたが、案の定、容姿端麗な転校生にクラスメイトが食いつかないはずがなく、授業が終わる度に彼女を囲み、男女共に質問攻めだった。さすがにその勢いには彼女も戸惑っていたようで、朝の自己紹介の時のような無表情さは無かった。


 結局、学校を案内するのは放課後になってしまった。一通り校内を見て回ったところで、彼女が口を開いた。


「…ねえ、屋上には出られるの?」

「屋上? 一応出られるけど…」

「案内してもらえる?」

「あぁ、いいけど…」


 妙に真剣な表情で聞いてきたものだから、俺も戸惑う。というか、一通り案内し終えた時から、何か思い詰めたように俯きがちだった。理由はわからないが、外の空気を吸いに行きたいのかと思い、俺は迷わず歩きだした。


「白金さんは、屋上好きなの?」

「…そうね、ちょっと考えすぎると、風に当たりたくなるから…」

「そっか…あ、じゃあ、一番いい景色が見えるところ教えてあげる」

「!…ありがとう」

(あ、笑った…)


 彼女は、少し困ったように微笑んだ。突然の提案だったものだから、お節介かと思ったが、今の反応を見る限り、一応喜んでもらえたのだろうか…?

 一目見た時から可愛いと思っていたが、笑うと更に可愛かった。


(…って何考えてんだ俺!!)

「…あ、ここだよ」


 屋上へ続く扉を開けて、彼女を促す。そしてさっき案内すると言った、俺のおすすめの場所へ向かう。この時、俺は少し優越感に浸っていた。今日来たばかりの美少女と屋上に二人きり。今までの自分では、全く考えられなかった状況だ。


「ほら、ここだよ。いい眺めだろ?」

「…っ!」


 少し高くなった所に立ち、彼女の方を振り向く。彼女は、軽く目を見開き、その景色に見惚れていた。陽もだいぶ落ち、赤と紫のコントラストに染められた街が眼下に見える。


「何か考え事があるなら、ここに来ればいいよ。気分転換にもいいだろ?」

「そう…ね…ありがとう」

「…よし! じゃあ帰るか。だいぶ遅くなっちまったからな」


 そう言って優星は、立っていた場所から軽く飛び降りて屋上を後にしようとする。しかし、沙月が彼の手を引き、それを制した。


「待って!」

「えっ?…どうした?」

「あなた…」


 沙月は優星の手を握ったまま俯き、何か言いにくそうにしている。先ほどの様子もあったため、心配になり静かに彼女の言葉を待つ優星。

 そして、彼女は目に涙を浮かべながら、ゆっくりと顔を上げる。


「あなた…『メイセイ』…よね?」

「…え?」

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