第7話 明かされない青年の正体

「…と、いう訳なんだ…信じてもらえないかもしれないけど…」

「いっ…いえ、そんなことは…! 確かに、最初驚きましたけど…」

「うん、突然こんな話をしてごめん…でも、ここで話しておかないと、今後機会が無いかもしれないから…」

「あの……えーっと…」

「ん?」

「私たちは、今後も"フィーズ"さんと呼んで接してもよろしいのでしょうか…?」


 突然背筋を伸ばして真剣に訊いてきたラテュルに、フィーズは軽く驚いたが、すぐに冗談ぽく笑った。


「ははっそのことか! 大丈夫、大丈夫! むしろそうしてくれるとありがたいよ!」

「そ、そうですか…? 失礼では…?」

「全っ然! 今じゃ正体を隠している身だからね。 さっきまでと同じように、普通に接してくれていいよ」

「そ、そうですか…では、お言葉に甘えて」


 ラテュルも、にっこりと笑顔で返す。それを見たフィーズも、満足そうに笑った…のも束の間。彼の背後で、殺気に近いオーラが感じられ、フィーズは恐る恐る振り向く。

 そこには、剣を片手に彼を見下すように見つめるリディルが立っていた。


「…何であんたがこの部屋でラテュルと一緒にいるのかしら?」

「りっ…リディル!?」

「リディル落ち着いて。私は何もされてないわ。ただお話していただけよ」

「…話?」

「そうよ。明日から、フィーズさんはどうするのかって」

「そうそう! そういうこと…うおっと!」

「今ラテュルに訊いてるの。あんたは黙ってて」

「…はい…」


 フィーズが話に入り込むと、リディルはすかさず彼に短剣を向けた。その威圧感に、フィーズも思わずたじろぐ。


「…それで?」

「それでね、フィーズさんが、さっきのお礼も兼ねて、私たちの旅に同行してくれるってことになったわ」

「だからお礼をされるようなことはしてないって…」

「そうかもしれないけど!…それに女の子二人で旅してるって、この先何があるかわからないだろ…さっきの盗賊団は比較的人数が少なかったから良かったけど、国内だけでもあれより大規模で凶暴な奴らだっているんだ。せめて情報屋として見てきたことは、旅の中で全て役に立つはずだ」


 先ほどまで、短剣を向けられただけで慌てふためいていたフィーズだが、リディルになんとか弁明しようと、真剣な眼差しで話していた。そんな彼を見て、リディルも武器を出さず、表情一つ変えずに話を聞いた。


「…あ…ごめん、急に出しゃばって…嫌なら嫌で俺は」

「…わかったわ」

「へ?」

「あんたがラテュルに何もしていないのもわかったし、ふざけていないことも、ちゃんとわかったわよ。ついて来てもいいけどその代わり、あんたのこと、思う存分こき使ってやるから覚悟しておきなさい」

「リディル…ありがとう」

「それじゃあフィーズさん、お疲れでしょうから、今日はもう休みましょう。明日の朝、ロビーで合流しましょう」


 リディルの合意を得た二人は、安心した表情だった。フィーズも部屋に戻り、その夜は十分に体を休めた。

 彼・フィーズと姉妹のこの出会いは、これが初めてではないと知るのは、また先のこと──…

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