第11話 酒場にて
「ようアイロ。お手柄じゃあねえか!」
「たまたまだよ。それに何人か死んだ」
先日ある魔物の討伐が終わり、酒場で飲んでいると後ろから熊のような大男が肩を組んで大声で俺に言う。
「確か大ナメクジの討伐だったよな。冒険者ギルドの資料にもないくらいの大物だったんだろ? 討伐体が組まれる緊急の討伐依頼なんてそうあるもんじゃねえよ。そうとう稼いだんじゃあねえか?」
「まあな。だが巨体と数を増やしていたせいで何人か犠牲になった。あの森もしばらくは禁足地だ。国の調査で良しと言われるまで出入りできないだろう」
「あそこは丁度いい強さの魔物が多かったからな。冒険者になりたての奴は狩場を一つなくしたようなもんだが、命あっての物種だ。依頼こなして生き延びたなら喜ぶもんだぜ。ほら乾杯!」
大男が口ひげを揺らしてガハハと笑い、中の酒がこぼれる勢いでジョッキをぶつけてくる。こういう時こういう奴がいてくれると助かる。
「で、なんのようだディラン。お前が絡んでくるときは何か頼みごとがある時か厄介ごとに巻き込む時だ。」
「そういうなよ、今回は何でもない」
「初めて会った時田舎者に都会の歩き方を教えてやるって絡んできて、借金取りとの喧嘩に巻き込まれたのは忘れてねえよ」
ディランの無駄にデカイ体には傷の数と同じくらい思い出が詰まっている。まあ良い思い出とは限らないが。
「そういうなよアイロ。俺たち親友だろ? いい話を持ってきたんだ」
「いいだろう。話だけは聞いてやる」
「冒険者ギルドの掲示板に、もう何ヶ月も張りっぱなしになっている塩漬け依頼があるだろ。最近ギルドが動いて報酬額が上がった。あれをやる」
「降りる」
「いやまだ話はあるんだ」
ジョッキに残った酒を飲みほして立ち去ろうとした俺の腕をごつごつとした手で掴まれ立ち止まる。
「実は刀を買った」
「ほう」
「刀自体も優秀だが、魔術加工されているから切れ味と自己修復はかなりのものだ」
「なら自分でやればいいだろ」
「ほら俺はこの通り方だがデカイ。刀振るより斧振ってた方が強いんだよ。で、この刀をお前にくれてやる」
渡された刀を少し抜き、刀身を見る。
「確かに。業物のようだな」
「ああそうだろ。これならワイバーンの鱗も斬れるだろうよ」
「まあこれだけのもの渡されたらやるしかねえな」
ディランが差し出した依頼書にサインする。
「出発は?」
「三日後だ。ところでよ、その刀買うのに借金しちまった。親友のために闇市まで行って買ってきた俺に免じて、金を恵んでくれねえか?」
「そういうのはサインする前に言えクソ野郎。最初から俺の金目当てだったな。これを買ったのはいつだ?」
「一週間前」
「大ナメクジ討伐の出発日か。あの日いねえと思ったらてめえ」
「そういうなよ。お前も無事に戻ってきたし、俺は業物を手に入れた。たったの百万だ。今のお前には安いもんだろう?」
「仕方がないから払ってやるが、今日お前が寝るのは外だ」
「また馬小屋生活か。まあ慣れたもんだ」
「勘違いするな。お前が寝るのは大ナメクジの苗床になった小屋だ。話くらいは聞いているだろ」
「参ったな。今更行っても何の稼ぎにもならねえんだが」
冗談を言いつつ今後の依頼について詰めていく。ワイバーンは竜種の中でも下級とはいえかなりの強敵だ。こいつの事だからきっと俺と二人で行くつもりだろうが、まあ死にはしないだろう。俺もディランも、そこそこやり手の冒険者として有名だからな。
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