第9話 這い出るもの

 ずるり。


 黒い何かから這い出たそれは、優に十メートルはあろうかという巨大なナメクジのようだった。


 ベチャ。


 自分の腕に何かが落ちたような感覚に寒気がし、腕を見ると数匹のナメクジが腕にくっついてた。地面を見れば落ち葉の裏からもナメクジが這い出ていた。


 言い表せないような気持ち悪さから、張り付いたナメクジを払って森の外へ走り出していた。


 あれほど大きな個体は見たことも聞いたこともないが、きっと寄生型の殻探しナメクジだ。ナメクジだがヤドカリのように成長と共に殻を替える種類で、時に貝殻や石の他に植物や動物に寄生することがある。ここに長居するのは危険だ。


 くそっ、さっきからナメクジが木から落ちて来たり地面から這い出てきている。確実に俺を獲物として認識している。こいつらが動物に寄生するにはかなり時間がかかり、宿主のスペックを完全に発揮できるには一か月ほど必要と言われている。だが、だからといって無視するわけにもいかない。何度か魔術を使ってナメクジに牽制する。


 巨大ナメクジはまだ俺を追っているようだ。バキバキ、ずるずると枝を折りながら這いずる音が聞こえる。もう少しで森の外に出れるはずだが……ッ!

 あれはブラウか? なんであんなところで立ち止まっているんだ。先に逃がしたはずの救出対象が十数メートル先で棒立ちになっていた。魔物にでも出会って怯んだか。


「くっそ、もうどうとでもなれ!」


 魔術で肉体を強化して加速し、ブラウを抱え森の外へ一目散に駆け抜けた。

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