第7話 夜歩き

 夜中にふとを覚ます。先ほどから何度も目を覚ましては眠りに戻ることを繰り返している。少年から感じた何かが今でも気になっているのかもしれない。こんな日はいっそ起きて見張りでもしている方が良いかもしれない。隣で寝る少年に気付かれないように小屋を出る。


 木々の隙間から月が見える。辺りは静かだが全くの無音というわけではない。鈴虫の鳴くような音とフクロウのホーホーと鳴く声がする。歩くたびに落ちた小枝を折るパキパキとした音や落ち葉やわずかに湿った土を踏みしめるギュムっという感触が伝わってくる。


 救出対象からあまり離れるわけにもいかないので、小屋の周りを軽く散歩しているときにふと木々を見つけ気付いた。木の幹に燃えた跡がある。たまたま月明かりに照らされた場所が黒く焦げていたのだ。その木を含め周りの木々が燃えていないことから火は大きなものではなかったようだが。

 おかしいのはその位置にある。最初は山火事になりかけたのかとも思ったが、周りにその原因になるようなものは見当たらない。魔術の痕跡だとしても少し奇妙な気がする。焦げ跡は5m位上にあるのだが、この森にはあんなに背の高い魔物はいない。鳥を狩ろうとしたにしても枝ではなく幹に焦げ跡があるのは奇妙だ。

 さらに辺りを調べてみると所々に同じような焦げ跡を見つけた。枝に焦げ跡があるものもあったが、多くは木の幹に集中していた。何か意図的なものを感じる。


 嫌な予感を感じ小屋へと急ぐ。先ほどまで静かに感じられたはずなのに、自分の吐く息さえうるさく感じる。

 とにかく子供を起こしてすぐ動けるようにはしておかなければと思ったその時、視界の端で何かの気配を感じた。


「がッ……!」


 気配を感じるのと俺が派手に吹き飛ばされるのはほぼ同時だった。もっと周りに気を配っていればとも思うし、気づいても間に合わなかったとも思う。

 横薙ぎに吹き飛ばされ、肺の空気が無理やり押し出されたのを感じながら、出来る限り早く体勢を立て直した。骨がきしむのを感じるが、魔術を組み込んだ装備をしていなかったら内臓をやられていたかもしれない。

 俺が先ほどまでいた場所には大きな黒い塊があった。良く見ると月明かりに照らされたそれは、近くの木から伸びているようだ。バキバキと音を立てながら気が内側から割れてゆき、中から黒い液状のものが広がる。

 黒い液状のものは魔物のスライムに似ている。しかし俺の知り得る限り、スライムは今のような強烈なダメージを与える強襲を行えるような魔物ではない。動きは遅く、物理的なダメージを与えられるような肉体は持たない。多くは木々から落ちたり水たまりに潜むことで狩りをする。決してこんな動きができる魔物ではないのだ。


 ずるずると何かが這う音がする。スライムの亜種だとは思うがここは逃げておこう。あの樹皮を纏いながらこちらに迫るものは樹木全体をみれば十五メートルほどある。そんな巨体で一撃で俺が吹き飛ばされるような相手に真正面から挑む気はない。謎の魔物に気を配りながら小屋へ走る。

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