第3話 弟と儲け話

 とりあえず帰国しないと弟に金渡せないし、なによりかわいい俺の弟に会えないってことで帰国して休むことなく実家に帰省した。弟は体を激しく動かすことはできないが、魔術が得意で俺に魔術を教えてくれる。弟ほどではないが、教えてもらった魔術で戦闘が有利になる程度には使える。


 俺は冒険者ギルドに所属しているが、弟は頭の良さと魔術の才から魔術師ギルドに所属している。魔術師ギルドからも金銭的支援は望めるが、それ相応の魔術の研究結果が必要なので弟の負担になるという事から、あまり頼ることはできない。

 体を激しく動かせない都合上、戦闘面での有能さは判断がつかないが、多様な魔術を使用できることと、複雑な魔術スクロールを作成できる。それらがギルドの利益になると判断され、五年前に当時十歳という若さでギルドに勧誘され、所属するに至った。

 俺の生まれた国の民は着物を着ることが多いが、それに刻む魔術的模様も弟が書く時がある。俺の着るものは大体がそれだ。


「ただいま、キーロ」

「おかえり、兄さん」


 えっ、無理尊い。病に侵され床に臥せても、俺が帰ると身を起こして返事をしてくれる弟尊い。俺の弟とは思えない純真さ。かわいいかよ。

 だが弟に気持ち悪がられるわけにはいかないので、冷静を装わねばならない。


「ごめんね、僕のために」

「いやいいんだ。俺は死なない、こうして必ず帰ってくるよ」


 なんだこのかわいい生き物は。童顔なことと線が細いのもあるが、心が綺麗だ。病に侵されてなお人を心配し、ごめんと謝れるとか心が清すぎて魚が住めなくなるレベル……。ひょっとして世界で一番かわいい生き物なのでは?

 

 いつか弟と一緒に戦争に参加したり、冒険者稼業をするのが夢だ。弟が二十歳になる五年後までには実現したい。


 魔道具等を受け取り、しばらく弟とイチャイチャし終わったので首都に戻る。母国であるクレール王国のエスポッタという町が俺の拠点。国の歴史や宗教的な問題から、この国は様々な種族が住んでいる。そうそう、俺はヒト種の人間だ。

 この国より西には獣人が多く、東には少ない。というか、隣国を超えてさらに東に行っちゃうと獣人は殲滅対象になる。長くなるのでまたの機会があれば。一応前回の戦争も同盟国の獣人の国が宣戦布告されたことから始まってる。そんな世の中だから他種族が共生できるこの国の需要はとても高い。


 さて儲け話は町中どこでも聞けるが、俺みたいなやつが望むようなものはやはり冒険者ギルドだったり酒場だったり、路地裏の薄暗い場所になる。裏家業の方々にはお世話になりたくないから今回もギルドに寄って依頼見てから酒場に行く。


 依頼は常に潤沢なわけではない。決して平和とかそういうわけではなく、目撃情報がなければ依頼は発生しないし、金欲しさに一人でやっているのでできることに限度がある。

 こういうとき無理して上のランクに手を出しちゃう奴から死ぬのがこの世界の掟だ。本当にやることがなかったら何か依頼を受けよう。


 酒場に行けば大抵知り合いがいるので楽しい。しばらく会ってなかった仲間に会い、温いビールで乾杯する。


 儲け話は聞けたには聞けたが、こういう話には二種類ある。一つはロマンからくる噂話のようなもの。砂漠に埋もれた財宝があるとか、遥か西に黄金の島が存在するとか。

 もう一つは現実味のあるもの。どんな魔物を狩れば儲かるとか、どこで傭兵やれば稼げるとかだ。


 現実味のない噂話では実行には移せない。ロマンを追って稼げず終わったり死んだりするのは御免だ。

 霧の濃い日に現れる館や、霊峰に咲くという難病を治す花の噂話なんかが聞けた。ロマンを感じさせるが、場所が分からないことと実力的な面から今回もスルーしよう。霊峰は場所はわかっているが本当に攻略しようと思ったら国家レベルの軍が必要だろう。やはり地味だがギルドの依頼を受けている方が確実性が高い。


 戦争もとりあえず終わったし、今回は地道に依頼をこなすしかないかね。今日は悪友たちと飲んで寝てしまおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る