転校生
2-1
今までの十六年にも及ぶ人生の中で、僕が恋愛感情というものを抱かなかったかと言えばおそらく嘘になる。おそらく、と断言できないのはそれが本当にそうなのか判断しきれないからである。
仮に、二人三人と好きな人が年齢とともに順調にできていけば、こうもこじれることはなかっただろう。他と比較して迷いなく、これこそが恋心であると断じられたはずである。
しかし、事実は(仮に恋心があったとして)僕が好きになった子は一人だけなのだ。あの妖精さんただ一人。
無論僕だって、じゃあコレが恋心ということでいいや、という風に何度か投げやりに考えたことはあった。しかし、妖精さんとの記憶を掘り起こしてみても、その思い出は友達の域から全く出ないのだ。ただ一つ。ある一日の思い出を抜かして。
だから僕はこの感情に決着をつけられないでいる。
僕にとってこれは、恋であると言えば恋であるし、恋でないといえば恋ではないのだから。白とも黒ともつかない、グレーな境界線であっちこっち揺れているしかないのだ。
そんな心中複雑な僕の右手に赤い糸が結びつけられた。
赤い糸と聞けば、それはそれはたいそうめでたいもので、その人と付き合えば幸せになること間違いなしと太鼓判をくれるものである。百利あって一害なしと言っても過言ではない。
僕も昨日まではそう思っていたし、世間一般の人達にアンケートを採ってもおよそ百パーセントに近い割合でそういう回答が得られるに違いない。そんなわけで、年頃の男の子らしく僕も少々わくわくしていた。
この先に運命の人がいるのだと思えば(それも神様の言い分から考えるに妖精さんである)、そうならないはずがなかった。
好きな子と付き合えるのと同時に、長年のもやもやした感情に一つの答を提示することができるのだから。
そして、学校に登校するのと同時に僕は絶望することとなる。それこそ、長年のもやもやがうやむやになるほど酷いものであった。
――僕と赤い糸で結ばれていたのは、
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