「崩壊したんじゃ、、、?」

「うむ。だが、お前が消えてからすんなりと再生した。お前が消えたおかげだと言っていい」

「こちとらが消えたおかげ、、、で?」

「いつの間にそんな口になった?顔になった?何故、戻ってきた?聞きたいことは山ほどある」

 内側で何かがざわついた。

 痛みを伴うそれは、なんだったか。

「戻って来ないままでよかった。だが、お前は、戻ってきやがった。わかるな?」

「わからないわけがないよな?裏切り者」

 声が新たに増えた。

 其が、突き刺してくる声で言う。

「お前がお前じゃなくなるほどに、お前にとっては今更だっただろう。だが、今更であっても関係はない。もう、お前は我らの知るお前でなく、お前が消えた瞬間から、お前は我らに必要はない。」

「、、、嗚呼、そうだろうね。けど、再生したんなら良かった。じゃ、用は済んだし、消えますかね」

 なんだか、感情がわからなくなった。

 今、何を感じているのか、理解が出来ない。

 それでも、口角は下がりはしない。

「お前の罪は、何で消せる?我らに何と償うつもりか?ここまま消え失せようと楽に可能と思うのか?」

「じゃ、ここらで一つ間を開けるとする。その内で答えを出せばいい」

「ふん、まぁ、待ってやろうぞ。だが、忘れるな。お前は無事では済まんぞ」

「消えた時からそれくらい、覚悟はしてたさ」

 影を呼んで入り込む。

 裏切り者。

 裏切り者。

 裏切り者。

 何度も繰り返す。

「わかってたさ。わかってたんだよ。なんだこれ。なんだよこれ。なんで、痛いの?」

 胸が苦しい。

 息が詰まる。

 意味が分からずに、引っ掻いた。

 記憶を辿れば、辿れば、辿れば、辿れば、、、それは無を表す。

 吐き気がした。

 酷く逃げたくて仕方がなかった。

 恐怖か?

 それともなんだ。

 大好きだから、大好きだったから。

 逃げちゃいけなかった。

 きっと、一緒に。

 死ななかったのなら、戻るか。

 戻れば変わるか?

 そうすれば、才造にも会えなくなるってことだ。

 戻るか?

 戻れるか?

 つまり、つまりは、なんだ。

 何を失う?

 己を失うのと、その他を失うのは、どちらがいいか。

 当然、己を殺すのがいいんだろう。

 それでも、怖かった。

 覚悟は出来てたはずなのに。

 呑まれる。

 恐怖から、逃げたかった。

 身が焼ける臭いと、激痛が内側で暴れる。

「おやめなさい!」

 そんな声が聞こえた。

 何を?

「身を殺すのは、おやめなさい!」

 肩に何かが触れる。

 目を見開けば、見覚えのある恐怖が立っている。

 それが手だと気付けば、弾いた。

「今すぐ術を解きなさい!このままじゃ、本当に死ぬ!」

 何を言っているか、わからなかった。

 術、、、?

「大丈夫だから、落ち着きなさい!死なないで!」

 抱き締められて、体の痛みが和らぐのがわかって、尚更恐怖を得る。

 楽になるのが、怖い。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 暗闇に、逃げ込みたくて。

 消えたくて。

 死にたくて。

「お願いだから、もう、やめて、、、」

 離せ、と言えなかった。

 助けて、と言えなかった。

 怖かった。

 とてつもなく、どうしようもなく。

 怖いんだ。

「いい、任せろ」

 何処かで、愛しい声が聞こえた。

「でも、この状態は、」

「いい。どうにかできる」

 何が、だ。

 何の会話だか、理解が出来ない。

 その手が離れても、恐怖は変わりはしなかった。

 それでも、すぐさま抱き締められる。

 それを弾くことは出来なかった。

「夜影、、、わかるか?」

 誰だ。

 愛しい声。

 手を伸ばせば、その背中。

 触れていいのか、わからずに、そこに留まる。

「ワシが、怖いか?」

 違う。

 違うから。

「そうか、なら、いい。消えてくれるな。ワシの生きる意味になってくれるんじゃなかったか?ワシに、死ねと、言うのか?」

「あ、、、ああ、、、、あああああ」

「ワシの代わりに笑うんじゃなかったか?ワシの代わりに、泣いてくれるんじゃなかったか?」

「さ、い、、、、ぞう、、、」

「ワシの影はお前だろう?消えるなら、道連れにしてくれ」

 それが出来るなら、どんなに楽なことか。

 それが許されるなら、どんなに幸せなことか。

「辛いなら、ワシが一線ひいてやる。戻ってこい。お前の術は、優しすぎる」

 涙があふれでて、止まらない。

 悲しい。苦しい。辛い。怖い。死にたくない

 叫びたいのを、無音にして、叩き付けた。

 本当は、違うんだよ。

 一緒に、居たかった。

 大好きだった。

 わからない。

 一緒に居たいんだよ。

「ごめんなさい」

「言いたい事は言え。尽くせ。ワシの声も言葉も使って、言え。溜め込むな。」

 泣きじゃくった。

 泣きながら、囁いた。

 決して大きくは言えないが、それでも彼にだけ届けばいい、と。

 逃げたから、償おうと消えたがってた体が、体温に溶かされて、まだ消えたくないと逆らう。

 駄目なんだろうけど、それでも、それでもまだ、一緒にいたい。

 幸せのまま、いたかった。

 才造が一線、辛いという字にひいてくれるから、ただただ、それにすがりついて。

「大した人間。妖の術に影響も受けずに。よく影猫に術を解かせるとは」

 その声に、もう、恐怖はない。

 それでも、このまま終わっていいとは思わなかった。

 望まれは、この答えではない。

「才造、今まで、ありがと、ね」

「夜影、、、?」

 影に喰われる。

 血が才造に飛び散ったのも、暗くなる視界で最後に見た。

 痛みさえ麻痺して、笑った。

 ありがとう

 ごめんね。

 消える覚悟は、今度こそ出来たから。

「止めろ!!!!」

 そんな怒鳴り声が愛しい声が追い掛けてきた。

 心地良いその声に、目を閉じる。

 最高に、幸せだった。

 幸せだと、思ったまま、死ねて良かった。

 幸せ、、、、だよ

 才造

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