「長話のご清聴、ご苦労さん。理解の方は?」

「お前が妖術使える理由は理解した」

「そりゃ良かった」

「で、あやかしの中では結構な立ち位置だったみたいだが、それらは強弱で決まるのか?」

「それはその属される中で決まるからね。鬼は強弱、狸は信頼、狐は技術、からすは賢さ、猫は総合的にってね」

「ほう、、、。」

「けど、今の時点じゃ何にも手出し出来ないかんね。さっさとクナイを鍛えるかね」

 視線が俺に集まる。

 今まで放置気味だったのに。

「当然、隠密でも活躍してくれたんだから多少は出来る口だよね?」

「なんだ、赤子からかと思ったが、どうやらそうでもないみたいだな」

 二人から凄いプレッシャーをかけられてる気がするんだけれど、、、。

「じゃ、さっさとやるよ。結界張って周囲の被害は出ないようにはする。けど、それを上回ることはしなさんな」

「逆に聞くが、お前の結界が破壊されたことは?」

「そうさね。大昔に十本頭じゅっぽんがしらの誰かさんに破られたくらいかね。ま、狐も百足むかでもそういうことは十八番おはこでしょうし」

 二本の指を真っ直ぐ立てて組み、黒い片目を閉じ、赤い片目を不気味に光らせながら笑む。

「猫は総合的バランスが良い。だからといって、他と違ってこれといった特化したもんはない。でもその代わり、苦手分野なんざない便利さは誰にも劣らず勝らせず。安心してお頼りよ。弱い内はね」

 俺にそう言うと、フゥーッと息を吐く。

 黒い霧が立ち込めて、瞬く間に辺りを黒く暗く染め上げた。

ァッ!」

 そう短く叫べば霧は一気に掻き消えた。

「こんなもんかね。結構久しゅうしたけど」

「見えん結界か。厄介だな」

「やーね、戦国時代でも似たよな結界は張ってたじゃない」

「あの時よりも厄介だ」

「あっはっはっは、そうだねぇ。あんたも結界に捕まった口だね。さ、いつまでも誰かのサポートやってないで、逃げ方でも覚えて生き残ろうや?あんたはまだ、生き残れない」

 指を差しながら俺に言う。

 生き残れ、と。

 なんとなく、これからどう動くかが予想出来る。

 背後をとられr、、、

 耳に風が僅かに揺れた。

 振り返り様に双剣を手に、弾くイメージで振るった。

 ガッ、と刃を掴まれる。

 鋭い爪が刃を背景によく映えている。

 銀色の刃を背景として真っ黒の爪が、俺の首を刺さんとして伸びるかのように。

「良い反応じゃないの。やっぱりあんたの能力は便利だねぇ」

 クックックッ、と喉で笑う。

 弾けなかったその手は掴んでいた刃から静かに離れて、その足は地面を蹴って素早く後方へ下がった。

 砂煙さえ上げないで、音さえ立てないで、まさに猫の密やかさを目の当たりにしている。

 数々の戦いを生き残った瞳は、それでも「逃げる」ことに執着とまではいかないが意識を強く置いているように見えた。

 立ち向かうのではなく、逃げる。

 それが、この人の生き残り方なのだというのかもしれない。

 決して好まれはしない、誉れもないようであっても。

 それに恥じらいもない。

 次にどう動くのか、予想する。

 背後をとろうとする狡さは見えない。

 真正面にはこない気がする。

 考えてる内に、もう姿は見えなくなっていて、何の音もしない影を防ぐ為に、俺は左に目を向けつつ双剣を交差させてガードを作る。

 それには鋭くも強い蹴りが入り込んだ。

 それに耐えられず俺は弾かれて後方へ蹌踉よろける。

 その隙を突かれて首を掴まれて、地面に叩きつけられ、はしなかった。

 倒された先は膝の上。

 痛みは首と手に留められた。

「あんたは厄介だ。だから、危うい。今までで一番、厄介で敵に回して殺したくない相手だ」

 そう俺を見下ろしながら言った。

 手を離されれば、そこに空気が流れ込んで首に残った手の冷たさが消える。

 触れて初めてわかる、相手の体温は篭手こてが外されているのに関わらず酷く冷たかった。

 防具を外して戦うという行為が、余計に俺の弱さを知らせる。

「本来なら、地面に叩きつけるんだけど、今のでやると威力は弱くても痛いだろうかんね」

「俺って厄介なんですか?」

「、、、ちょっと、ね」

 まるで言うのを遠慮した返答だった。

 ハッとして起き上がる。

 いつまでも膝枕状態になってていいわけない。

 起き上がればまた戦闘態勢に戻るかのように音も何も感じさせない素早さで距離を置かれる。

 一つが済めば逃げ戻り、二つ目済めば再び逃げ戻る。

 間に間に。

 それが、「避ける」でもなく「逃げる」ように見えてしまうのは何故だろうか。

「ねぇ、こちとらは次にどう動こうとしてるの?」

 そう問い掛けられる。

 どう動こうとしてるか?

 何で、本人がそう問掛ける必要があるんだろうか?

 俺が操作してるわけじゃない。

 じゃぁ、何故?

「どういうことですか?」

 そう返答する頃には背後でヒュンッと風を切る音が聞こえた。

 首ギリギリに爪が迫っている。

 そこでピタリと止められた。

「どういう意味かって?それを考えるのはあんたの仕事。こちとらが答えを持ってるはずが無い」

「え、」

「罠なんだよ。正しい答えとして、考えちゃいけなかった。そこに意識思考が持ってかれれば、こちとらは容易く首を刈り取れるでしょ?」

 ゾッとするような囁きと、その答え。

 理解しきる前にその爪は引っ込んだ。

「妖も、忍も、騙し討ちは十八番。ついでにいえば、化猫ばけねこ九尾狐きゅうびのきつね古狸ふるだぬきともなれば言葉だけじゃない罠をたんと仕掛けてくる。」

 俺からすれば、猫というよりは狐みたいだと、ケラケラと笑う向こうの上司に思った。

 もう、俺の背後でもなく真正面、距離を置いて立っている。

 生き残り方が「逃げる」ことなのか。

 そう思えば思うほどに、納得がいかない。

 でも、向こうの上司はそうするから今の今まで生き残れてる。

 過去が崩壊しただとか言った時も、内容には過去から現在へ「逃げた」のだと。

 だから生き残れたんだと。

 だからって、、、俺は、、、。

「一旦やめろ。多分、これ以上今続けても意味無い」

 上司がやっと口を開いた。

 っていっても黒いマスクで見えないけど。

夜影ヨカゲ、詳しく聞きたいことがあるんだが」

莎羅クグラサンがこちとらに聞きたいことと言やぁ、まぁたおっかないことかな?」

「いや、それは後回しで。さっきの話だ」

「いや、冗談のつもり、、、さっきの話?」

「あぁ、取り敢えず場所を移すぞ」

 二人はそう会話してここを離れた。

 溜め息が聞こえる。

「厄介、、、か」

「え?」

「いや、確かにお前は厄介かもしれん。」

 厄介、、、。

 いつだったか向こうの上司が話をしてくれた時に、厄介に思われたとしての話があった。

 もしかして?

「夜影にとっては、お前は戦い辛い厄介な相手だ。」

「俺が、向こうの上司にとって?」

「お前の能力は次を予知出来る。未来にしては短いがその時その時で役に立つ。未来予知とは言い難いが、それと類いは同じだな」

「だから、厄介なんですか?」

「そうだ。夜影は戦いの最中相手に予想させない動きとを特徴とする。それをぶっ壊すお前が厄介なんだ」

 相手に予想させない?

 確かに、俺の能力がなければ俺は向こうの上司の動きなんて絶対予想出来ない。

 でも、それは俺だからじゃ?

「アイツは、言葉や見た目で相手を惑わせたり騙したりするのが得意だ。その罠に捕まらない相手はいなかった。だが、お前はどうだ?」

「俺は、さっき、」

「違うな。お前はそういった罠を能力を使いさえすれば捕ることはない。さっきは能力が使えなかった。そうさせていたのはお前自身だ。夜影は突破口を探り当てようともした。それがさっきの問掛けるに当たる。わかるか?」

「あの問掛け、が?」

「あぁ。夜影が言った通り、罠だ。可笑しい問掛けを投げつけ考えさせる。それによって鈍った相手の首を刈る。流れだな。」

「わかってるってことは、向こうの上司のその罠っていうやつに捕まらないんですか?」

「わかってても、意味が無い。ワシの弱点も何も把握してる夜影が、わざわざワシが避けられる手を使うわけがない。それに、わかっていても使う言葉や話によってはどうしても捕まるもんだ」

 それじゃぁ、どうしようもないんじゃないのか。

 どうすれば、、、。

「だからといって、わからんままでいるよりかはいい。別に夜影に勝てとは言わん。大概の敵を相手にして死なん程度になればいい。」

「勝てなくていい、って言いたいんですか?」

「そうだ。勝つことを目的とするな。生き残れ。それだけだ。」

「じゃぁ、そんな入り組んだようなこと、わからなくても、、、」

阿呆あほか。あぁいう罠に捕まった時点で死ぬのは確定だ。動きを鈍らせるな。考えるな。だが、考えろ。」

「どっちですか」

「それを今から掴め。敵を前にして、いちいち敵の言葉に耳を傾けるのか?それとも敵の動きに頭を働かせるか?そういうことだ」

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