実験

「それで、その世に出来た穴の場所と、それに関するアレコレはわかってるんだろうな?」

「場所は良いけど、それによって生じる問題についてはこれから起きるのを見りゃいい。だけど、なんだろう?」

「何がだ」

「こちとらは、本当に今までその穴と同類の門を開けてきた。穴を見つけた時、まるで、、、」

「まるで?」

「こちとらが開けたような感覚だった」

 その言葉に皆がピタリと動きを止めた。

 瞬きも、何もを。

 ただ、不思議そうに首を傾げる一人を除いて。

「どういうことだ。なら、お前が開けたっていうのか」

「そうなる。もしくは、こちとらとまったく同じ類いの奴か。けど、違和感がない。こちとらがもう二人いるってこと?」

「意味がわからん。もし、そうなら、」

「厄介だって話。ソイツに会わなきゃわかんない。もし、もしもが、合ってたら」

「合ってたら、お前は何なんだってことだ。お前の正体が関与するならば、お前を探らねばなるまい」

 そうだろう?と目を向けるも、ただ、伏せられた顔は一点を見つめている。

 何かが引っかかるのだと、言うように。

「取り敢えず、佐々木ササキ家の忍を探さなきゃ。」

「佐々木にも呪いの契約を?」

霧ヶ峰キリガミネと佐々木だけ。だから、探さなきゃいけない。」

「忍を集めてどうするつもりだ。何に使えると思ってるんだ?」

「有能な味方を増やすこと。それだけ。こんなんじゃきっと、太刀打ち出来ないから」

「だが、塊になって立ち向かうとでも言うならば、」

「なわけないでしょ。わかってる。」

 溜め息をついて、ただどうにも気になって仕方がないというような表情をする。

 こうなれば、後回しすると鈍るだろう。

「先にお前を優先させるぞ。どうせ、その忍も何処かで会うだろうからな。案外、世界は狭い」

「ワシも同意だ。どうせ、ワシらに隠れて調べそうだからな。隠すくらいなら、と思うが。」

「バレてたか。そうね、確かに隠れて調べる癖は認める」

「それに、わしからしてもお前の正体については気になるからな。厄介事は先に片付けるぞ」

「本当は宮内クナイに答えを見せたかったんだけど、話がそうなら仕方ないね。で、構わない?」

「あ、はい。いいですけど」

「そりゃ良かった。っていっても、自分探りは好きじゃないなぁ」

 何故この一般人を共に連れての行動か、よくわからんが。

 まぁ、夜影ヨカゲの考えることだ。

 何か持ってるのかもしれん。

「さて、こちとらのことだけれど、こちとらが一番気になってんのは記憶がないことなんだよね」

「ない、だと?」

「一時は転生するたびに忍として邪魔だから捨ててるような感覚を持ってた。けど、それじゃ違和感があるわけよ。あるじから人間の感情を植え付けられてからは記憶をなくしたことはない。けど、その前からの記憶が捨ててるんじゃなく、封じてるようなもんだってわかって、ずっと色々やってみた」

「封じる?お前がしたように呪いだとかの類いか?」

「そうかもしれない。そうなら、無意識に捨てようとして封じたってことになる。それが面倒で、無意識となると何処にどう封じたかがわかんないの」

「自分の中、ではないってことか」

「そう。自分の奥底なら、封じた時に残るもので察せられる。となれば当時、身近にあったものだと見ていいはず」

「身近にあるとすれば武器か」

「そう考えたけど、ないの。当時からずっと持ってたはずの武器が。全部。何処にもない」

「じゃぁ、それと定めるぞ。可能性はなんだ」

「何者かに抜き取られたか、それともこちとらが何処かへ捨てたのか。」

「捨てることもあるのか?」

「そりゃ、気に入りなら兎も角、そうでもないもんは敵の死体に刺したままにして捨てることもあるさ」

 難題にぶち当たるのが早すぎる。

 武器に記憶を封じたという可能性ばかりか。

 いや、そうでないのなら?

 だが、無駄なものは持ち歩きはしない奴が、武器以外に何を身近として持っている?

「武器以外には?」

「封じた時に残るもんがないからねぇ。多分武器以外に当てはまりそうにないね」

「そうか。なら記憶はこの際置いとく。次に気になるもんはなんだ」

「こちとらが、本当に転生をしてたのかっていうこと」

「怪しいのか」

「そもそも転生っていうもんが存在するものなのかってことからだよね。っていっても、事例はあるんだけどさ。」

「あるんなら、お前もありそうだが」

「けど、そう何度も何度もする?こんなにハッキリと。けど、確かめる方法はあるね」

「なんだ」

「今この場で死んでみるってこと。」

 シン、とこの場に沈黙が訪れた。

 死んでみる?

 それで何がわかるというのか。

 仮に転生したとしよう。

 何処に転生するのかわからないし、どんな姿かもわからん。

 だが、転生を繰り返しているらしい夜影の姿は確かに変わりはせん。

 だったら最大の問題は一つ。

 転生しなかったら?

「正気か?」

「言うけど、魂さえ死ななけりゃ大丈夫だから。死んでみて、もし、目に見える何かがあったら、」

「なかったら?転生さえしなかったら?お前はそのまま消える。それだと、もともこもないだろうが」

「賭けだよ。だから、二人にはこれを使ってもらう」

 手渡されたのは、瓶と札。

「は?」

「ただの瓶でもないし、ただの紙切れじゃないかんね?ちゃんと呪いかけといたから」

「逆にそれは大丈夫なのか?」

「さて、じゃぁ、死のうか!」

「いや、待て!」

 最初からこのつもりでした、というようにバタリと倒れこんだ。

 その口からは、血を流している。

 忍が、情報を守るために自害する為にある口の中に仕込んだ薬だろうか。

 吐血するような薬ではないはずだが、夜影独自の薬ならわからん。

 ただ、どうしようもない。

 少しすれば、夜影の体から紫と黒の入れ混じるぼんやりとした何かが浮かび上がった。

 影を巻いてゆっくりと上昇する。

 まさか、と思いつつ瓶で捕まえすぐさま蓋を閉め札で抑えた。

「これ、、、か?」

 問いに答えられる奴はいない。

 やがて、肉体が消滅していくのが見えた。

 これからどうすればよいのかが、まったくわからない。

 仮にこれがそれだとして、どうしろというのだ。

「貸せ。飲み込んでやる」

「は?」

「飲む」

「馬鹿か?」

「いいから。ワシには見えんが、捕まえたんだろうが。なら、ワシに思い当たることがある。」

 渡せば瓶を開けて、口の中へ本当に入れた。

 飲み込もうとするが、その瞬間その中で消滅したようだった。

 さて、怒鳴ろうかとする時に、才造サイゾウに異常が走った。

 床に伏せて、ビクビクと痙攣する。

「おい、」

「夜、、、影、、、」

 止んだかと思えばその目は色を変えていた。

「飲み込むとはね。けど、まぁ、そういうこと」

「夜影!?いや、才造はどうなった?」

「一応いるけど、自我的にはこちとらのが強いからね。でも、長居すると才造が消えちゃうからこれから戻る」

「消えたが、、、」

「あ」

 しまった、というように固まる。

 珍しく、そこは計画には入ってなかったらしい。

「で、どうするつもりだ?転生ではないとわかったはいいが」

「ちょっと待ってて。野良の何かに入ってくるから!」

 バッと出ていったのを止める暇はなかった。

 なるほど、夜影並みに速かった。

 ということは、夜影の影響力は強いのか。

 戻ってきた才造の手には黒猫が抱かれていた。

「にゃぁーん」

「コイツが夜影だ。生きてる奴に夜影の魂を入れれば転生のようなことが可能だということだ」

「それはいいとして、どうするんだ。わからんぞ」

「猫語は流石のワシでもわからん。だがまぁ、しょうがないだろう」

「にゃぁん?」

「あぁ、、、誰かわかる奴いないのか?」

「そのわかる奴が猫になってるんだがな、、、。」

 黒猫夜影は、儂らを見上げているだけ。

 猫の言葉が理解出来ん以上は、どうともいえん。

「にゃ」

 スルリと腕から降りると、尻尾を上に揺らめかせながら、外へと降りていく。

 目で追えば、地面にガリガリと文字を書き始めた。

 そうか、中身が夜影なら。

「[取り敢えずは、妖力が戻り次第喋れるように自分でやるからそれまではこのまま]。可能なのか」

「それにどれくらいかかる?」

[早くて三日]

「うにゃ」

「三日か。」

「案外お前らは計画性のないような進め方をするんだな。よくそれで今までやってこれたな」

「いや、流石に戦国時代はまともだったぞ。だが、段々雑になってきたな。背負うモンが減ったからか」

 黒猫夜影の頭を撫でながら、溜め息をついた。

 取り敢えず、で三日待つが。

 しかし、こう呑気でいいのか?

 一般人は置き去りにされたような顔をする。

 そうだな。

 話に混ざってはいないからな。

 だが、いつまでも雑魚を連れてはられん。

 コイツを、鍛えてやらんとならんか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る