「さてさて、生き残る為にはどうするか。今後の動きについて、あんたに答えを見つけて貰おうかね」

「え?答え?」

「そう。隠密機動隊、一応やってたでしょうが。思い出せば、動けるって」

「でも、」

「そういう鬱陶しい無駄な自信の無さアピールは要らないから。」

 バッサリそう言われる。

 うん、、、確かにそうだ。

「神様としては、出身世に帰って様子見もしときたいけども、コタがいるからね。何かあったら知らせはくるはず。」

「そうとも限らねぇかもな。どうせ、嫌な予感はしてんだろ」

「まぁね。だから嫌なんだよ。それに、こちとらにゃまだ帰る体力が無いんだ。だったら、どうにかしてこっちでやるしかない」

「忍が生きてりゃいいんだがな」

「2020年辺り、まだ生き残りはいたんだけど」

「霧ヶ峰家と、」

「佐々木家ね。長生きする忍だこと。で、2025年にその両方の忍と契約を結んでおいた。けど、子孫を残せなかったんなら終わりね。」

「霧ヶ峰家の誰に?」

「そりゃ、あんたとあんたのお兄様」

「なるほどな。勝手に、か」

「けど、お兄様は子孫残せず。今でも何処かで生きてるはずさ。あとは、佐々木家の双子。アレの消息は不明だけど、まだ生きてる」

 二人でトントンと話を進められる。

 けど、他の忍者が生き残ってる?

 契約?

「他とは結べなかったのか?」

「だって、こんな美味しい話は疑われるでしょ。忍としての仕事はしつつ、極力お互い敵対しない約束が取り付けられたのは佐々木家のみ。子を作れば子にもその契約は産まれた瞬間から自動的に、」

「あの、つまり、その忍者の生き残りを探すのが目的でいいんですね?」

 長くなりそうだから、そう遮ると静かに頷いた。

「いったい、幾つの忍が生き残ってるかわかんない。とっくに忍辞めてるかもしんないし、子を忍として育ててないかもしんない。こちとらがそうしたように。」

 指と指を忙しく絡めて、眉間にシワを寄せる。

 面倒事ではあるのだと、その様子で察せられる。

「不老不死ではあるけれど、生きてない可能性もある。不死といえど、殺す方法はいくらでもあるからね」

「じゃぁ、佐々木って人と霧ヶ峰って人を探せばいいんですね?」

「そう。今はどっかの雑魚より有能な腕のいい忍を集める必要があるわけ。ただ、見つけても手を貸してくんない場合もあるだろうし、」

 自信の無さそうな言い方だった。

 どうもハッキリしない。

「生きてるかどうかってわかるんですか?」

「いくら契約者だろうが、契約の内容が内容だから、ちとわかりにくくて。多分、死んでないとは思うけど」

 頭の上の猫耳をピコピコと動かす。

 それの意味はないんだろうけど。

 上司は胡座をかいて座って、ただ、それを黙って眺めている。

 そして、少しの間をわざと作っていたのか、やっと喋り始めた。

「ワシの兄に契約を結んだんだな?」

「そうだけど」

「なら、兄が先だな。」

「あぁ、兄弟だから居場所くらい検討つくんだ」

「いや、まったく。だが、おびき寄せられるかもしれない。お前で」

「何、こちとらに脱げっての?」

「そうだ。全裸とは言わん。だが霧ヶ峰家の好みそのまんまのお前なら兄くらい惚れさせられるだろ」

「才造さーん?冗談ですよねー?霧ヶ峰家の忍さんがそんなチョロいわけ、」

「霧ヶ峰家は代々、どうも薬だけじゃないようでな。惚れた女には弱い」

「あんたはそれでいいわけ?」

「良くない。だから、食わせはせん」

 聞けば聞くほど、上司のイメージが崩れていく。

 けど、本当にそうなら向こうの上司には悪いけど、餌になってもらえば早くも1人目を捕まえられる。

「そう簡単に行くかね?」

「行く。ワシがそうだからな。」

「あのねぇ、、、だいたい、お兄様があんたと同じじゃないかもしれないでしょ?」

「それはない。どうせ、契約結ぶ時顔を合わせてるんだったら既に惚れていて可笑しくない。それが何十年何百年も昔だったとしても、な」

「一途な忍だこと。餌にされるのは嫌だけど、仕方ないか。じゃ、お色気の術でも仕掛けてみますかね」

「食われそうになったら全力で抵抗しろ。」

「あんたら霧ヶ峰家は狼か」

「狼だろうが忍だろうが、そういうもんなんだ」

「意味わかんない」

 ケラケラと笑いつつも、やっぱり気が進まないんだろう。

 少し顔色が沈んでいる。

 夜になるのを待つ。

 俺と上司は離れた小屋で待機する。

 向こうの上司は、ただ一人でおびき寄せの為に何処かにいるらしい。

「かかったな」

「え?」

「気配が聞こえた。多分、今アイツのとこにいる。」

「行きます?」

「いや、行きたいのは山々だが、逃したら面倒だ。任せて待機だ」

 ただ、ロウソクの火の明かりに目をぐるりと見回させて、待つだけ。

 静かだ。

 本当に、こんな作戦にかかったんだろうか?

「才造!」

 途端にそんな声が響いた。

 上司は素早く立ち上がる。

 突然、天井からスタッと降りてきたのは布一枚体に巻き付けただけの向こうの上司だった。

「助け、」

「待て、夜影」

 遮るようにそう声が聞こえて、黒い物体が降りてくる。

「嫌!嫌だ嫌だ!なんなの本当に!霧ヶ峰家って狼さん!?」

「契約結んで何年経ったと思ってる?お前を探して何十年?逃してなるものか!」

 上司はただ、突っ立ったまま助けようともしないで顔を伏せている。

「あ、あのぅ、、、」

「今すぐ、」

「黙って待ってりゃワシの嫁に手を出しやがるたぁ、いい度胸だ。こンのクソ兄貴ィ!!」

「あ?才造か!?嫁だと?笑わせる。ならお前から奪えばいい話だ!!」

 どうやら俺の声はまったく届いていないようで。

 しかも、取り合いになっている。

 可笑しいな。

 協力の為なんじゃないのかなぁ?

「霧ヶ峰兄弟、喧嘩をやめんか!しょうもないわ!」

「「しょうもなくない!!」」

「あらぁ、仲が良いこって。取り敢えず、お互い落ち着きましょーや。ね?」

 二人の服の端を指で軽くつまんでクイクイと引き、座れと無言で指示を出す。

 睨み合いながらでも、やっぱりそれに従う二人は本当に似ていた。

「後で、お兄様にはこちとらの服を返して貰うとして、大事な話があるんだけど」

「なんだ」

「さっきの身のこなしを見れば、忍は辞めてないと見て間違いはないね?」

「あぁ。人間はどうも性に合わん」

「で、子は?」

「作っとらん。そもそもお前以外の相手なんざ眼中にないからな」

「うーん、、、難しいお人だこと、、、。まぁ、どうでもいいや。この世で問題が起こってることについては?」

「それについては調べてるところだな。お前のことだ。どうせ儂より知ってるだろ」

「さぁて、どうだろうね?他の忍の生き残りは?」

「見とらん。どれも死んだからな。だが、いるのか?」

「佐々木家の忍とも契約は結んでる。だから今度はそれを探すわけ。けど、お兄様にゃ協力を願いたいんだよね」

「断る」

「早いなぁ。こちとら、流石にショックだわ。」

 腕を組んで黙りこくる。

 それを営業スマイルで向こうの上司は眺めている。

 取り引きでもしてるのか、それとも。

「ねぇ、どうしてもおいや?」

「条件がある」

「なになに?」

「儂の、」

「それは許さんからな」

 先を言う前に察したのか、上司が遮った。

 向こうの上司はきょとんとしている。

「お前の返事は聞いてない」

「旦那として、許せるものじゃない」

「知るか。これは、」

「こちとらを退いて話をされると困るんだけどなぁ?で、条件はなぁに?」

「条件を聞いて素直に応と言えるか?」

「内容によるね。けど、協力してもらわないとこちとらも困るわけだから、極力条件には応と答えようとはするかな」

「儂の嫁になる気は?」

「うん、あのね、なんでそんな話になるのか察せないんだけど?それに、こちとら既に旦那さんいるからね?子も何度も作ってるからね?」

「だろうな。だから、断る」

「思わぬ難易度、、、。他にないわけ?なんでそうなるのさ。」

「他に何があるんだ。お前の消息が測れなくなってからずっと、」

「あぁ、それはわかったから。忍ってこんなに自由だったかしら?」

 困ったように苦笑して肩を落とす。

 条件が困る。

「旦那さん二人ってのは?」

「許さん」

「あはは、、、才造が許すわけないか」

「寧ろお前はそれでいいのか?」

「え?あぁ、まぁ、構わないけど?実際旦那さんって位置にいたとしても中身までそうとは限らないってね」

「それを儂の前で言うな。というか、コイツと手を組むのが気に入らん」

「お兄様を選ぶんじゃなかったよ、、、。もうちっと楽そうな忍選べば良かった」

 本当に面倒だというふうに溜め息をついて、布をぎゅっと握る。

 そして少しの間の後に、ニヤリと笑んだ。

「あぁ、こちとら、、、得意なんだった。」

 それにはなんのことやらと首を傾げる。

「お兄様、ちょいと今夜二人きりでお話致しましょ?」

 腕に両手を絡めて、身をピッタリつける。

 上司はピクリと反応した。

 ギロリと睨むのも無視して、誘う。

「ねぇ、朝まで、ゆるりと。」

 胸を押し付けるように身を離そうとはしない。

 それにはカチンコチンに固まって動けなくなっている。

「だめ?」

「いや、朝までと言わずいつまでも構わん」

「そ、なら、早速♪」

 何が早速なのかわからないけれどご機嫌だ。

 そして俺たちにしっしっと虫を払うように部屋を出ろと示す。

「何のつもりだ?夜影」

「やーね。何のつもりって、そんなの、聞かなくても」

 完全に怒ってる上司を引っ張って部屋を出た。

 じゃないと、ヤバそうだったし。

「夜影、、、」

「一旦落ち着きましょう?多分、説得してくれてるんですよ!」

「なら、わざわざああもしなくていいだろうが」

「よくわかりませんけど、ほら、得意だってさっき言ってたじゃないですか!」「その得意がどんなもんか知ってるから嫌なんだ」

「え?」

「色だ。自分に惚れているとわかれば誘って説得させるくらい簡単だからな。その説得方法が気に入らん。兄貴のことだ。どう手を出しやがるかわからん。最悪、夜影も説得するためなら抵抗さえしねぇ可能性もある」

「そ、それは考えすぎじゃぁ?」

「忍だぞ。よくあることだ。情報を得るために体を使うのも、何を仕掛けるも。夜影ともなればある意味手段を選ばんからな。」

 舌打ちして別の部屋に行く。

 それについて行く。

 結局翌日まであの忍二人は出てこなかった。

 朝、目を覚ますと、上司の抱き締められる向こうの上司がいた。

 なんかあったのだろうか。

 というか、あの忍者は何処に?

「霧ヶ峰って、、、凄いね、、、」

 ポツリとそう呟く声が流れた。

「何がだ」

「手加減っていうか、なんていうか、そういうのが一切ないね」

「何の手加減だ。まさか、」

「けど、才造と同じだよね。最後は寝てしまえば勝手に一人で寝てる相手で何かやらかすんでしょ」

「、、、やらかすってなんだ」

「化粧で隠さなきゃいけないんだからもっと見えないとこに付けてよね」

「それじゃ意味が無い。だが、そうか、お前付けられたのか。何処だ。見せろ。上書きしてやる」

「いつもみたいに、寝てる間にしてよ。」

「お前はいつもそうだな。たまには構え」

「嫌よ。才造ってば、そういう時の目が怖いもの。見えない方がいい」

「なら目隠しでもするか?」

「あは、いいねそれ。でも、夜の間だけ」

 俺は起き上がれずに壁の方を向いて目を瞑っていた。

「都合良く、目を閉じるな。見ろ。お前は器用過ぎて駄目だ」

 寂しそうにそう言う。

「苦手、だもの」

 何か含んだような声色で、そう返答する。

 ただ、空気が酷く甘ったるい。

 それでもまだ何処か寂しげのある空間だ。

 何か欲しがり求めるのを、寸で止めて顔を背けるように。

 忍者でも、人間と同じなんじゃないかって思う。

 きっと書物に残っている事は本当だ。

 だけど時代は変わる。

 時間は流れる。

 忍者は次第にそれに合わせて変わるんだろう。

 人間が進化を求めて歩く結果のように。

 感情が許されるようになったのかもしれない。

 それとも、もう耐えられないのかもしれない。

 ズレた感情の訪れも、やっと花を咲かせるのに十分な世の中に染まりつつある、かもしれない。

 忍者が実際本当に書物通りかはわからない。

 忍者というこの上司たちは、本当に忍者なのかもそういえばわからない。

 だって、普通戦時代くらいから生きてるままなんてありえない。

 あったとするならば、それはもう骨としての存在か何かだ。

「見てくれ。一方的じゃ、わからない。隠すな」

 その切ない声が落ちていく。

 それには何も答えないで沈黙がゆっくりとこの空間を満たしていく。

 外で、シトシトと雨が降る。

 水が跳ね、何処かへ流れていく。

 やんわりと暗過ぎず明る過ぎもしない光加減で窓に風景を伝えてくる。

 壁だけの視界も、それだけは音で想像出来た。

 無言の二人に背中を向けて、ただ寝転がる。

 ここにいていいわけないんだろうけど、動けない。

 風景の一部になった気分だった。

 少し時が進めば、雨音に紛れそうな優しいキスの音が耳に届いた。

 俺は二度寝を決め込んでこれ以上の情報が耳に入り込んでこないように静かに暗闇に残った眠気で入り込んでいった。

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