名血

宮内クナイ、、、冬獅郎トウシロウ、、、」

 実家に何故か残っている書物を片っ端から読んでいく。

 名前を繰り返し呟きながら、忍者を探す。

「あ、宮内!、、、小郷コゴウ?」

 また別の忍者の名前。

 違う。

 宮内、宮内、、、。

「宮内、冬獅郎。これだ」

 一冊の書物を広げて文字を追う。

 流石に読めない。

 十勇士の書物は実物じゃないから現代語訳があったんだけど、、、。

「あぁ、宮内の書物か。小郷、、、冬獅郎の孫に当たるな」

「孫!?」

「冬獅郎がギリギリ生きてた頃か。小郷を夜影が冬獅郎から受け取っていた」

「受け取る?」

「自分がもうそろそろ死ぬ頃合いだとわかっていたんだろうな。冬獅郎の子であり小郷の親が早死にしたせいだ。懐かしい。そうか、もう、そんなに経ったか」

「悲しいですね」

「そうか?」

 まったくそういった感情なんて持ってないっていうように書物に目を落としたまま言う。

 なんだか、冷たい。

「小郷の子は、仁郎ジロウだったか。アイツはワシが殺した。」

「え!?」

「敵に仕えてたんだ。当たり前だろうが。」

「小郷さんは?」

「別に。忍として、何も言わん。子をどうにかすることは出来ん。敵に仕えた以上は、いつかそうなるもんだ。仁郎の子は既に何処かに預けられてたらしいが」

「じゃぁ、その辺からわからないんですね?」

「夜影なら知ってそうだがな。夜影は他人の子をいくつも育てたからな。」

「忍者の?」

「どっちもだ。武士である主も育てたんだぞ。」

「夜影さんに育てられた人って皆強そうですね」

「実際全員、腕がたつ奴になった。まぁ、良かったと思うのは、夜影が育てた奴を夜影が殺すことがなかったってことくらいだ」

 っていうか、刃向かえなさそうなんだけど。

 皆の母って感じなのか。

 確かにしっかりしてそうだし、子供も皆強くなりそうだ。

「だが、自分が産んだわけではないからな。反抗期になれば一番にそれがくる。」

「まるで父親目線ですね」

「みたいなもんだ。言われてみれば、夜影が仕事で手が離せなくなったらワシが相手してたな。」

「反抗期って、どうしてたんですか?だって、本当の親じゃないんだって言われると悲しくなりません?お互いに」

「あぁ、アイツはそんな感情ないからな。[じゃぁ、親の元に逝きな]って放置してたから」

「つ、冷たい。しかもそれって死ねって言ってるじゃないですか!」

「まぁ、忍の子を甘やかすほど馬鹿じゃない。子もだんだん察するようになるらしくてな。だが人の子になると夜影も忍の身だからな。勝手がわからず困ってたな。」

「どうやってたんです?」

「知らん。ワシも結局は忍だ。忍の子しか見とらん。」

 そこで、ノック音が声を止めた。

 区切りは良かったから、別にこれといったことも思わずに扉を開けた。

 そこには一匹の黒猫が座っている。

 猫がノック?

 引っ掻くのならわかるけど。

 突然、上司がその猫を抱き締めたのには正直引いたけれど。

「嗚呼、この馬鹿!」

「にゃ、ぁ」

 猫は身をよじってどうにか逃れようとする

 けれどしっかりと抱き締められていて逃げ出せない。

 ボフン、と煙が上がって猫は姿を変え、、、って向こうの上司!?

「わかったから!わかったから離して!?」

 バシバシ、と上司を叩きながら呆れた声で言うと、やっとその手を緩めた。

「もぅ、悪かったって。そう取り乱されても困るんだよ」

「死んだかと、、、心配させるな」

「無茶言わないの。忍なんだから」

「馬鹿、、、」

「子供じゃあるまいし。いつまで経っても変わんないんだから」

 感動の、再会、、、なんだろうけど。

 なんだか、上司のせいかそうは見えない。

 あれ、俺のイメージと違う、、、。

「あんたも、生きてるね。お疲れさん。まだ終わっちゃいないけど」

 乾いた血がついたままの姿でも、落ち着くような安心感があるのはなんでだろうか。

 俺のせい、、、だったんだ。

 なのに。

 少し前の記憶がぶり返して、泣きそうになる。

「よく、、、ここまで生きてたね。死なずにこれたね。いい子、いい子。よく頑張った」

 俺の頭を撫でてそう言う。

 子供扱いだけど、不思議と嫌だとは思わない。

 寧ろ逆?

「あ、あの、宮内について聞きたいんですけど」

「宮内、、、冬獅郎?」

「はい」

「あんたの先祖の忍がどうかした?」

「え?知ってる、、、んですか?」

「そりゃぁ、ウチのなんだから。それに、宮内家の子は長いことこちとらが育てたからねぇ」

「さ、最後は?」

「順に行こうよ。冬獅郎の子は、」

「仁郎からわからないんです」

「あぁ、なるほど。仁郎の子ね。くノ一になった。春日かすがっていってね、一度こちとらを殺しに来たよ。捕まえて吐かせれば、仁郎の娘だった。だから、教えてやった。親を殺した恨みをこちとらに持ってたようだけど、それで消えたみたい。殺したのはこちちらじゃないってのに、可哀想に」

「それからどうしたんです?」

「春日が赤ん坊連れて来て、[そろそろ死ぬと思うので、父を育てた貴方にこの子をお願いしたい]なんて言って置いてった。宮内家は皆、自分がそろそろ死ぬ頃だってのを察するのが得意なんだろうね」

「悲しくないですか?」

「そう?便利だと思うけど?」

 また、上司のような答えだ。

 やっぱり、忍者となると普通の考えとは違うのかな。

「で、その子は双子でね、ユウシン。負けず嫌いで競い合いが耐えない二人。でも丁度こちとらにも子がいたから大変だったね。喧嘩はさせないけど、裏でしてたらすぐわかる。」

「子がいたんですか!?」

「この際どうでもいいからそれは後でね。勇がそろそろ死ぬって顔をするもんだから、大人になるまでは死なせちゃ勿体無いと思って懐近くで守ってはいたけど」

「けど?」

「なるほど、って思ったよ。こちとらを刺した。でもまぁ、簡単にガキが殺せる相手じゃないわけだから、頭撫でて褒めといた」

 え?

 自分を殺そうとした子供を褒める?

「なんで?」

「度胸あるじゃないの。初めてその子は味方を刺した。忍なら、味方を殺さなきゃいけなくなる時がくる可能性が高い。だから、よくやったと褒めたんだよ。」

 そんな心の広い人なのか

 って違うのかな。

 立派な忍に育てる為に、惜しまない人?

「けど、芯は勇に殺されたね。それぞれ、違う主に仕えたから。勇も死にかけだった。こちとらとも違う主に仕えておいて、こちとらに助けを乞うんだ。」

「それから?」

「放置したよ。助けるわけにはいかないんだ。子を育てるのは隠しながらは出来る。けど、もう大人だ。自力でなとかするのが当たり前。忍となれば尚更」

「厳しい」

「甘やかせないんだよ。人の子と違って。感情じゃ生きてけない世界だもの」

 溜め息をついた。

 きっと、思い出したんだろうな。

「勇の子も、育てた。死ぬとわかるとやっぱり連れてくる。名の無い子だった。勇もその妻も名を与えなかったんだ。」

「じゃ、名付けたんです?」

蒼希ソウキ。宮内家は早死にする分、子を作るのも早い。無意識にそこはわかってるから、あんたまで血が流れてる。蒼希の次も次も育てた」

「めっちゃ長いじゃないですか」

「そうね。村上家と子を作るまでは、ずっと」

「村上?」

「そう。あんたの父親が村上家の末。あんたの母親の親の親の親くらいが宮内家の末」

「俺の母が木之下だから、、、」

「木之下家と子を作ったから宮内家は出てこない。けど木之下家と宮内家は深い繋がりがあるんだよ。それは後々。ひぃひぃおばあちゃんが木之下と子を作って、その子が村上家と子を作る。その子があんたなわけで」

「な、なんでそこで木之下が出てくるんですか?」

「いや、それは当時のなんか面倒なアレコレでしょうが。知らないよ、いちいち」

 そういって手をヒラヒラと振る。

 どうでもいい、らしい。

「でも、さっきも言ったように、宮内家と木之下家は繋がりがあるから。だって、血は同じだもの。何か、惹かれあうんじゃないの?」

「同じ!?」

「そうそう。木之下家は偽名の血。宮内の子が偽名で木之下と名乗り、そのまま子を作り、子孫を残した結果なだけなの。これは冬獅郎よりも前の話ね」

「かなり昔、、、。ってなんで知ってるんですか?」

「こちとらが、木之下という偽名の生みの親だから」

「、、、は?」

「話してたら思い出したんだけどさぁ、名乗ったのはこちとらなんだよね。それまで木之下家じゃないし、こちとら宮内家に養子として一時いたし?宮内の血はなけれど名はあった。仕事で偽名使ったはいいけど、」

「お前、もしかして!?」

「才造は察しがいいねぇ。こちとら才造と子を作る前に一度だけ子を他と作ってたんだよね。かなり遠い前世になるけど。」

「あぁ、そうか。お前何回も死んでたな」

「うん。この人生では才造だけー。だから怒んないでね」

 ケラケラと笑う。

 けど、木之下家を生み出したのが宮内家の、、、養子?

「待って下さい!それじゃ血は繋がって、、、」

「こちとらは木之下家を産んだだけ。そこで繋がり一つ。今度は冬獅郎の四つ前に宮内家と木之下家で子を作る。そこで繋がりを深めた。そっからだよ。かなーり気が合ってかなーり仲良くなっちゃってんの。気が合わないわけがないんだよ。だって、どっちも宮内家の考え方してるもの。こちとらがそう宮内家の常識で繋げたもの。」

「なんか、、、かなりの歴史を残しましたね」

「こちとらがいなかったらあんたもいなかったわけよ。」

「だから、俺を選んだんですか?」

「うん。ウチの子だもの。生き残りたいじゃない?木之下家」

 無邪気な笑顔を浮かべてそういう。

 でも、その言い方だと残したいのは俺じゃなくて木之下という血だ。

 宮内に繋がる木之下の。

 まったく同じ血、ではないけれど偽名に代わりはない。

 だから、そうなんだ。

 俺はまだ、生き残れない側にいる。

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