「ここかぁ。へぇ、眺めいいじゃーん」

「確かにそうですね。他の部屋よりは」

「あ、、、待って、カーテン閉めていい?」

 焦ったように振り返りそう問いかけてくる。

「え?はい」

 答えるなりシャッと勢いよく閉めた。

「あ"ー、嫌なモン見ちゃった。」

 フードを脱ぎ捨ててそう溢した。

「何か見えたんですか?」

「何かは見えたけど、何かは見なかった」

 わざと、そんな表現をする。

 難しいな。

「それで、話とはなんですか?」

「あー、そうそう。天狐の話。あんた、天狐に名を与えた。それって結構厄介なことでね、、、困るんだよねぇ」

「困る?」

「そ。だって、アレを含めた天狐は全てこちとらの所有物。神の遣いってわけじゃないけど、それに近いもの。神の目の代わりみたいなもん」

「所有物、、、?まるで物みたいな言い方しますね。」

「所詮、アレも零と同じようなもの。だた、アレだけはちょっと特別だった。所有物と外野の間に産まれたアレの所有権は、どちらにあるか。それがハッキリしてない。でも、確かにこちとらの力は働いている。その証拠にアレは何年、何十年と生きてる。成長しないまま、ね」

「ということは、所有権は」

「当然、こちとらの物というわけ。微妙でハッキリしなかったけど、それがわかればこっちのものよ。そもそも天狐を捕まえて兵器につかった時点でこの罪だわ。この機関には天狐を使う権利もない。力もない。だから、天狐は焦ったんだろうね。自分の子を残さなければ、継いでくれる天狐がいない。そこで天狐は最後の力を振り絞ってそこにいた竜と、アレを産んだ。それがいけなかった。天狐は天狐とでないと、狂った天狐を産んだしまう。その狂いがどこに出るかは産まれるまでわからない。アレの場合は、成長に狂いが出た。」

 裏音が、成長が止まってしまっていたなんて知らなかった

 いや、をれだけじゃない。

「あんたが名を与えなけりゃ良かったのに」

「なんでですか?」

「それが天狐のルールだから。それを破ればこっちが困る。天狐は名前を欲しがる。だから、人の言葉は教えてない。けど、人の近くにいればいるほどに喋れるようになるだろう。だから、人には姿を見せないようにさせてた。だからこちとらは仕方がないから、、、」

「この機関を乗っ取った、か?まさか、向こうの上司の顔が見れるとは」

 ドアを静かに閉めながら、そう笑った。

「いや、乗っ取ってはないかな。けど、盗み聞きは好ましくないな。聞くなら堂々と聞いてくれないと」

「あ、いいんですね」

「天狐を回収するつもりで今日やっと来たんだけど、どうやら手遅れだったみたいで。だから、あんたに押し付けるわ。名を与えられた天狐は徐々に力を失っていく。翼も失うことになるし、ただの狐にがた落ち。妖ですらなくなる。ただの珍しい狐」

「それでも、俺は構いません」

「うん、そういってくれて助かるわ。これで断られたら呪術でもかけるとこだった」

 本気か冗談かわからない言い方をする。

 でも、目が鋭いから多分本気だったんだろう。

「で、盗み聞き男、何の用でノックもせずに?」

「ロビンです。」

「名前は聞いてない。聞いても覚えないから」

「酷いですね」

「どっちが?」

 不機嫌にそう返す。

 人によっては対応というか、態度というか、、、を変える性格なんだろうか、それとも機嫌が悪いせいなだけなんだろうか?

「この機関について調べていたんですが、どうも姉妹機関の上司とこっちの上司の二人が怪しいと思ってな」

「そりゃ結構な話だね。そんで?」

「だから、確かめに来た」

「あぁ、そうだ、こちとら此処に暫く留まるからね。クナイ、宜しゅう」

 パッと振り返り様に、思い出したかのように言った。

 気まぐれにクルクルと変わるような人、かな。

 不機嫌なんて、もう表情にはない。

 不思議だ。

「留まるんですか?それって、大丈夫なんですかね?」

「あぁ、向こうにはそれなりに万事対処可能のことはしてる。最悪、この足なら間に合うだろうし。それに、こちとらの担当はあんただ」

「なるほど。わかりました」

「で、何て言ったかな、、、ロビー?」

「ロビンです」

「あっそ。ロビン、あんたは確かめに来たって言ったけど、邪魔だけはしないように。無駄な殺傷はしたくないからさぁ」

「殺すと問題になるんじゃなかったか?」

「なると思う?どうとでも出来るさ。あんたさえ生きていなければ、あんたの殺害については闇に放られる。」

「本気で、か?」

「こちとらは、そういう仕事の方が得意なの。そういう、影の仕事が」

 クックックと喉で笑って、フードを手に取った。

「あぁ、そうそう、滞在中はクナイを鍛えることに専念したいから、覚悟しとくように」

「はい、、、え?鍛える?」

 また、クルリと話題を持ってひっくり返す。

 何処で話の道が変更されるか、予想もできない。

「ロビン、だっけ?あんたとはちょっと話でもしとかなきゃいけないね」

「何の?」

「決まってる。影のお仕事をするためだけの、簡単で、くだんない、お話だよ。ね?拒否権はないからさっさとついておいで。クナイは、ここで待機。天狐は呼ばないように」

「は、はい!」

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