差
「質問してもいいですか?」
「なんでもいいよ。答える保証はないけど」
「
「ある意味そうだけど、ある意味ではそうじゃない。だから、その答えはあんたが作ることだよ」
なんだか難しい返答だ。
零が
だって、結局は実際そうなんだろう?
この向こうの上司が、そうだって言うんなら。
「それがあんたの答えなら、そうなんだろうね。けど、もし、
そこで言葉が止められて、それ以上は沈黙に変わっていった。
俺の考えていることは、顔をみなくたってこの人にはわかってしまう。
余計な声は使わないでいいのかもしれないけど、それだとどうも不公平みたいな、柵や壁を無視した関係。
「それは、あんたもだ。けど、こちとらの此は能力なんかじゃない。」
「どうしてわかるんです?」
「人間のアレコレくらい、察せるさ。そういう訓練も、そういう経験も、何もかもがあんたらとは天地の差ほどある」
「訓練、、、ですか?」
「そう。ガキの内に色々と何度も仕込まれてね。そういう時代だったから」
「時代?皆、ですか?」
「いや。ごく一部のガキだけ。そのまたごく一部の中のごく一部が、こちとらと同じことを仕込まれてた」
「じゃぁ、探せば他にもいるってことですか?」
「生きちゃいないさ。残念ながら、こちとらの出身地だったらそもそもそれを仕込まれてる最中に皆死んじゃったからね。生き残ったのはこちとらだけ。」
何の感情もないようにただ、事実だけを述べられる。
冷たい、とかいうもんじゃなくて、無。
無、以外のなにものでもない。
それにたいして、何とも思ってないんだ。
「死んじゃったんですか?そんなに、危ないってことですよね?」
「そりゃぁ、危ないっていうか、地獄に慣れさせる訓練でもあるからねぇ。今思えば、甘くなったもんだ。簡単に強い人間を産み出そうとして、どんどん笑えない状態になっていってる」
「その、時代と今ってそんなに違いますか?」
「あぁ、違うね。あんたは今の時代にしか生きていないから分からないだろうけど。」
「甘い、ですか?その時と比べたら。」
「甘い。状況とかじゃなく、人間の中身が甘くなった。簡単に強くなれても、簡単に強い人間を産み出せても、デメリットとして」
不思議だ。
この人は一体、何歳なんだろう?
だって、今の時代だけじゃないってことはかなり長生きしてるってことだ。
それに、甘いってやっぱりわかんないな。
どういう意味なのかが、イマイチ。
「異世界って本当にあるんですか?」
「ある。言うけど、こちとらはあんたらにとっちゃ異世界からきた者。ここは、こちとらにとって異世界なの。信じない?」
「いいえ。信じます」
「嘘。上の人だからって別にいいから。そういう返答が一番無駄」
「すみません」
「ま、信じなくても信じても、どっちでも構わないんだけどね。どっちにしろ、こちとらが人間ではないことにゃ、変わりないんだから」
「人間、、、じゃ、、、ない!?」
「猫耳見たでしょ。飾りに見えた?触ってみる?」
「化け猫とか、書物に載ってた類いですかね?」
「さぁね。多分、そういう類いなんだろうね。いつから生えてるかわかんない」
ただ、施設に入るでもなく、外から眺めて終わり。
それを繰り返して、通り過ぎていく。
「見ないんですか?」
「見ても仕方ないからね。外から見てわかる。見た目さえ悪くなけりゃいい。あとは、ソイツらの顔やらを見ればそれが今日だけ作られた見世物かどうかくらいは察せる。」
「此処に来たのは何度目なんです?」
「これが初めて」
「それなのに、わかるんですね。入り組んでるって言われてるのに」
「施設が何処にあるかは、ちょっと考えれば予想出来るし、地図も見て機関内は把握してる。迷うほどのこたない。」
そうか、、、。
俺も見習ってちゃんとそれぞれを覚えるくらいはしないとなぁ。
「全ての施設を把握してたりします?」
「んなわけないでしょ。でも、あっても可笑しくないだろう施設とか、ないと可笑しい施設は知らなくてもわかるからあとは現地の人間から探りゃいい。必要な施設だけを頭に叩き込めばいい」
「まるで、仕事ですね」
「癖になってるっていうか、そもそもそういう風にしかなれない。」
エレベーターに乗るのか、立ち止まって振り返った。
乗り方、、、なわけないか。
「こちとら、いちいち鈍い乗り物にゃ乗らないから、あんたはエレベーターにキチンと乗っておいでね。一番下の階だから」
「え?」
そう言い終えるなり、バッと服を舞わせながら飛び降りた。
俺はゾッとしてしまった。
だって、かなりの高さになるんだ。
いくら忍者だとか、人外だとしても、無事じゃないだろ!?
「取り敢えず、追わなくちゃ、、、だよな?」
相手もいないけど、ついそう問いかけてボタンを押した。
床は上から降りてくる。
一番下の階にレバーを合わせて、降りていく。
着けば、腕を組んで待っていた。
「無事だったんですね、、、安心しました、、、」
「忍舐めてる?たとえ死ぬ高さであっても、それなりに工夫するからまず死なないから。」
「プロってことですか」
「さぁて、この階見たらあんたの部屋行こうかね。飽きてきた」
俺の会話を続ける気もないみたいだ。
紙を裏返したような避け方をする。
ちょっと悲しいな
「話戻すけど、零はあんたにとってどんな存在?」
「そりゃ、大事な仲間ですよ!」
「じゃぁ、零があんたのことをそうとは思ってなかったとしたら?あんたの一方的なソレだとしたら?」
「変わりません。俺を仲間だとか思ってなくても、俺にとっては仲間です」
「ふぅん。それはどういう状況になれば裏返るわけ?」
「それって、どういう意味ですか?」
「例えば、零があんたを殺そうとしたとしよう。勿論、零はあんたを敵視している状態が前提で」
「うーん、、、多分、そうなると敵だと言わざるを得ませんよね。仲間を殺すのは敵ですから。」
「じゃ、その場合で話を進めるね。零がなんであんたを敵視して殺そうとすると思う?」
「俺が何かやらかしたか、零がそもそも俺だけじゃなく、機関を敵視しているとか?ですかね?」
「じゃ、設定を追加する。零はあんただけを敵視して殺そうとした。その他の者には危害は加えないものとする。そうしたら、あんたは何故と考える?」
なんだろう?
何か、深い意味があるのだろうか?
俺を敵視して、他には危害は加えない。
俺が零を殺そうとした場合?
「それはない。あんたは何もしてない。今この現状で言ってるから。それともあんたは既に零に殺意でもある?」
「ないです。じゃぁ、喧嘩的な?」
「そんなことで人殺すほど人間って易い生き物だけど、あんたは零と過ごしてそう感じた?」
「いえ。」
「零が
命令、、、?
「正解。あんたは
「俺には無理だと思います」
「やけにキッパリいうね。力の差はこの際置いといて。」
「本体、、、いや、やっぱり零を先に殺すべきなんですよね。気持ち的には嫌なんですけど」
「まずは一個ギリギリ合格。零はあんたが手を下さなくても、本体さえ殺せば消える。けど、本体を消されないように零はあんたを邪魔するだろうね。そうなれば先にそれを殺さないことには先には進めない。二対一は分が悪いからね」
合格?
なんの試験に?
俺は試されてるってことでいいのかい?
ただ、答えるだけの簡単な試験でも、何処か内面を掘り出される感覚だ。
「じゃ、次。上司があんたを殺そうとする理由は?」
「俺が機関に対して何かヤバイことでもしたんですかね?」
「可能性はあるかもね。けど、違う。」
「わかんないです」
「あんたが厄介だったからだよ。敵に回れば面倒だから、味方の内に処理して不安の種を潰す。」
「でも、それって」
「零を使う意味、わかる?」
「近いからですか?」
「それは違う。近いんじゃない。近付いて置かせておいただけ。あんたの油断を突くのもついで。あんたの逃げ場はどこ?」
「仲間の問題は上司に、、、ですよね?」
「そのルールを利用して、上司に報告に行かせる。零はあくまでも殺そうとしただけであって、殺してはいないから、余計にね。けど、あんたにはこの方法は効かない」
「能力のおかげで?」
「そう。あんたは気付かざるを得なくなる。けど、手遅れだ。あんたは上司に厄介だと思われた時点で生き残れない」
指をさされる。
目を突きそうなほど近く、鋭く。
その長い鋭い爪が、あと数ミリを保って止まっている。
「生き残る為にどうするか」
「厄介だと思われないようにする?」
「具体的には」
「、、、えっと、、、」
「あんたがするべきことはただ一つ。逃げろ」
逃げる、、、?
どうやって?
「あんたの能力に限界はない。どんな絶望的状況に陥っても必ず死ぬ道を見せて、死には至らない道を残してくれる。あんたはそれを駆使して逃げろ。機関を敵対してでも逃げろ。信じるな」
「ど、どうしてそんな話を俺にするんです?」
「それはあんたが見つけること。聞けば全て教えられると思わないこと。答えを出されても、それはあんたの答えじゃない。あんたは生き残れない側か、それとも生き残れる側か。死にたかなけりゃ、走れ」
そう言って、手をおろしてエレベーターをボタンで呼ぶ。
床は降りてくる。
俺は、まだ、わからない。
この人が何故、俺を選んで、俺にそんな話を覚えさせるか。
俺は、まだ、生き残れないのか?
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