上司
「
「何を?」
「この機関の姉妹機関の上司が、様子見にこっち来るって話」
「そんな知らせあったか?」
「あ、また寝てたのかぁ。じゃ、一緒に行こうか」
「行く、のか?」
「気になるし、隠密機動隊ならいいんんだってさ」
「あー、、、そうだな」
「何かあった?」
「いや、上司と言うと、緊張するな」
「そうかい?俺はただ見るだけなら、」
肩に手を置かれて振り返る。
その人は初めて会う人だった。
「木之下、護衛を頼むぞ」
「え?」
「何か、問題があるとでも?」
「、、、あ!いえ!了解致しました!」
「準備が出来たら、来い。部下を忘れてくるなよ」
「はい!」
上司だ。
上司の声だ。
初めて見るから、わからなかった。
何処か、零に似てる気がする。
でも、やっぱり顔はフードで隠れていて、わからなかった。
零に振り返れば、目を見開いている。
「どうかした?」
「あぁ、、、なるほどな」
「え?」
「いや、こっちの話だ。護衛頑張れよ」
そうヒラヒラと手を振って俺に背を向けて何処かへ去っていった。
何かに気付いたんだろうけど、わからない。
何が、「なるほど」なんだろうか?
いや、今はさっさと準備を終わらせて護衛をしなくちゃいけない。
でも、
「
「
裏音は、直ぐにソファから立ち上がり、俺の傍に来た。
俺は上着を羽織ると、双剣を持って自室から急いで出た。
「上司の護衛だから、油断はしちゃダメだからね!」
「
廊下を走り抜けて、人を飛び越えすり抜け、ぶつからないように上司の部屋の前までくる。
ノックをしようとすると、ドアがひとりでに開いた。
「行くぞ。待たせたくないからな」
「はっ」
歩くスピードが速いから、小走りでついていく。
失礼がないように、余計なことをしないように、、、緊張するなぁ。
「木之下、これから偽名で呼ぶ。間違えるな。覚えろ」
「はっ」
「[
「はっ」
宮内、、、。
偽名が必要ってことは、やっぱり危ういってことか。
俺じゃなくてもいいように思えるんだけどなぁ、、、。
「あらま、真っ黒なこって」
からかうような声が聞こえたと思えば、階段からゆっくりと降りてくる。
「悪いか?」
「まさか。嬉しゅうてね。」
親しそうな様子だ。
もしかすると、この人が?
迷彩のフードで顔を隠す相手は、性別さえ判断出来ない。
その人に遅れて、多分護衛の人が二人降りてきた。
「迷彩でくる意味あったのか?」
「そりゃ、山を走ったからね。目立ちたくなかったんだって。護衛の足が遅いのなんのって。車乗ってたクセに」
「も、申し訳ございません」
ククク、と喉で控えめに笑ってから、俺を見た。
「あぁ、それを護衛にしたんだ?」
「居るだけなら、近い奴でいい」
「確かにね。よろしゅう頼んます、名は?」
「宮内、と申します」
返答に、また、クククと笑った。
「覚えといてあげる。クナイ、ね」
なんとなく、もう、嘘がバレてるような感じな言い方だなぁ。
ひょっとして、俺って、嘘が下手?
「移動しましょ。ここで喋っても、ね?」
「そうだな。そろそろ面倒だ」
溜め息が聞こえる。
不思議だ。
近くのドアを開けて、上司が入った。
続けて、その人が入って、その人の護衛にしっしっ、と虫を払うように手で払った。
俺も、外で待機しようと思ったら、手を引っ張られる。
「あんたは入りな」
裏音を置いて、中に入ると、鍵が閉まる。
そして、やっと上司たちはフードを脱ぎ捨てた。
「あー、暑っつい!」
俺はどうしたらいいんだろう?
取り敢えずで、ドアの前に立っている。
「クナイ、あんたさ、こちとらたちの素顔とか話とか、他言するんじゃないよ?」
「はっ」
「あー、いや、もうそう堅くなんなくていいよ」
「お前は自由か」
「だって、気を抜きたいじゃん。いっつも見てる奴より、こう緩い子が有難いの!」
「だ、そうだ。宮内、お前のいつも通りでいい」
「え、あ、はい、、、?」
え、いいのかな?
こんな、緩くして。
っていうか、凄い意外な感じ。
素顔って言っても、俺の方の上司は黒いマスクで表情が目でしか察せない。
逆に、向こうの上司の人は、目元に赤い化粧と、両頬と鼻の上に緑の化粧があった。
「あ、化粧落とすから待って」
「別に良くないか?」
「花魁化粧と忍化粧って気持ち悪くない?」
「そうか?って、お前は何を探りに、」
「怪しい動きがあんの。だから、嫌々潜り込んだわけ。」
「収穫は?」
「異世界と現世、やっぱり繋がっちゃってるわ。この機関も
よくわからない液体で、綺麗に落としていく。
器用に、緑の化粧だけを残して。
化粧を落としても、白い肌はあまり変わらなかった。
「お前以外、異世界と現世を繋げる方法を持つやつがいたとはな」
「それも、下手にこじ開けたような雑な、ね。開けたはいいけど閉められなかったのか、悪意か」
「にしても、そんな奴がホイホイ出てくる時代になったか」
「普通の人間が気を使って能力持ってるなんて、戦国じゃなくて良かったって思うわ」
「あの頃だったら、忍か呪術師か占い師くらいのか?」
「まぁ、そうだね。あ、でも、こちとらの方の世界だったら既にそういうのいたから、遅れを感じるね」
「と、なると、あっち側からも既に何かしらしてくることも可能になってるはずだ。もし、それが重なれば、」
「現世も異世も、滅びの一途、、、ってとこかね。人間って余計な進化で自ら死にに行く。だから神もお困りだっての」
会話についていけない。
異世界だとか、そういう話は二次元の話じゃないのか?
本当に存在するものなのか?
でも、この人が言ってることは、そういうことだ。
その異世界とこの世界が繋がった?
それに、そもそもこの人にはそういう力があった?
まさか、そんな、信じられない。
そうなれば、凄い強力な能力者だったことだ。
上司になるのもわかる。
でも、それにはかなりの気が必要になるんじゃないのか?
俺達とは比べ物にならないほどの。
「塞げたり、出来ないのか?」
「奴さんが邪魔でね。ま、そうじゃなくとも、まだ場所までは把握出来てないし、こちとらは自分で開けたものしか閉めらんない」
「だが、出来そうだな」
「そりゃ、まぁ、頑張れば可能だろうね。でも、場を整える必要があるし、早く
「忍の仕事がしたい」
「あー、もう、そういうこと言うの止めてー?主が欲しくなっちゃうじゃん」
忍、、、?
忍者だっていうのか?
あ、さっきも忍化粧とか言ってたよね。
俺、今、凄いこと聞いてるよね!?
え、いいのかい!?
寧ろ怖いんだけど!
「クナイ、あんたって、能力何?」
「え!?能力、ですか?わかんないです」
「じゃ、教えてあげるからよく聞きな」
「は、はい」
「あんたのは、常時発動型なの。だから、そういう奴って自覚持ちにくいんだよね。でさ、あんたって勘が百発百中当たるの、可笑しいと思わない?」
「確かに」
「それだよ。それがあんたの能力ね。サポート向き。勘じゃなくて、能力だったわけ。予知とも違うから注意ね」
「そうだったんですね。有難うございます!」
頭を下げれば、クククと笑う。
「いい子じゃん」
「あぁ。だから、連れてきた」
「嘘。こちとらに会わせたかったクセに」
「使えそうか?」
「鍛えればね。現時点で言うと、雑魚もいいとこ。能力に頼って生きてきたんだろうね」
容赦ない言葉だけど、俺もそう思う。
けど、使えるってなんだ?
何に?
鍛えるって、どういう?
俺の頭の中にはハテナばかりが浮かんでいる。
「どーする?姉妹機関っての利用したはいいけど、ずっとはキツイよね。バレたら怠いのなんのって。クナイも鍛えて使ってやりたいとこだけど、そんな暇ある?」
「分身を延々と泳がせても仕方ないからな。そろそろ撤収するか?」
「幻影ちゃん、自我あるだけ辛そー。消されるのわかってるから余計にね」
「自我があれば放置出来るからな。いちいち自分の分身に慈悲持ってられない」
「あんたってば本当、冷たいよねぇ。」
「どうせ、お前も思ってもないくせに」
「あ、バレた?まぁね、忍自体がそれと同じだし、そんなこと考えてたらキリないし。でも、偽物は偽物で恋愛中よ?」
「は?」
ケラケラと狐のように笑いながら、飾りだと思っていた猫耳をピクピクと動かした。
あれ、生えてたの!?
「やーね、分身の様子を分身で見てきたんだけどさ、どーやらタイミング良かったみたいで。告白見ちゃった」
「はぁ!?なにしてんだ
「あ、言わなくてもわかったんだね。あんたの分身から告ってたんだよ。いやぁ、分身といえど相変わらずカッコイイんだから♪」
「やめろ。ふざけんな。クソ恥ずかしいだけだろうが!」
「そう怒んないでよ。分身じゃん。
「嗚呼、性格変えときゃ良かったか、、、」
「プロポーズの時の思い出しちった。あー、幸せー」
ケラケラと笑いながら向こうの上司は言うけど、こっちの上司は項垂れている。
っていうか、今の発言だと二人は付き合ってるんじゃなくて、もう結婚までいってそうだ。
絶対そうだよね。
分身、、、か。
本当に書物にあった忍者なんだね。
忍者っていうと、主がいるとかなんとか書いてたけど、主が欲しくなっちゃうとか言ってたから、今はいないんだ。
「クナイ」
「はい?」
「余計なこと、考えない」
「え」
「わかるよ。忍、今じゃ最早幻くらいのもんだって。だから、そのまんま幻にしといてよ。ね?」
「、、、はぁ」
「ここだけの秘密。ま、他言出来ないようにはしといてあげるけどさ」
「そ、それは」
「あー、大丈夫。痛くも痒くもないから。怖がんなくても、術かけられてることにすら、気付けないくらいだしさ。ね?」
「はい」
ね?、という声が強調されて、圧がかけられている。
これ以上考えちゃいけないんだ。
でも、そうなら、なんで俺だけをここに?
「さて、そろそろお外にでも行こうかね」
「勝手に廻ってろ。ワシは行かん」
「あら、分身を見たくなくなったんだ?」
「当たり前だろうが!見たらそのまま消しそうだ!」
「あっはは、あんたのそれが治るまでここで待っとこうか?」
「行け」
「じゃ、クナイ借りてくねー」
「勝手にしろ。その代わり、お前のは置いていけ」
「勿論。」
手招きされて、一緒に部屋を出た。
こっちの上司が来ていたフードを取って、着る。
迷彩だと、目立つからかな?
「天狐、あんたは呼ばれるまでここに居なさいね?」
裏音を撫でながら、そう言った。
「キュゥ」
「いい子」
裏音のことを、知ってるのかな?
慣れてるような感じだ。
「あの子に名を与えた?」
「はい」
「あれを部下にしたんだ?」
「はい」
「じゃぁ、後で話があるからクナイの部屋行くけど、構わない?」
「はい、大丈夫です」
クスリと笑ったのが聞こえた。
顔を隠す意味はあるんだろうか?
地下通路を歩いていれば、零がいた。
今は気軽には声をかけられない。
「クナイ、あの子呼んできて」
「はい」
零を?
駆け寄って、声を落とす。
「なんか、零呼ばれてるよ」
「、、、わかった」
二人で戻れば、クスリとまた、笑った。
「あんた、髪切ったんだ?」
「はい?」
「いや、あんた、ここでは何て名なの?」
「零、です」
「分身にまた、カッコイイ名あげちゃって、どうすんのかね」
「あの、」
「喋るな。言いたいことはわかる。けど、余計だ。」
「、、、、」
「命令を下す。もうウチの分身とは会うな。知ってるからね。早々に消さなきゃなんなくなるでしょ」
「何故だ」
「それをあんたが知る必要はない。好きなのはわかるけどさ、邪魔されちゃたまったもんじゃないのよ」
「好っ、」
「好きだろ?こんな、風なの」
口調が一瞬変わった。
フードを少しだけ上げて零に顔を見せた。
その瞬間顔を真っ赤にして、零が目を見開いた。
「ま、こっちが本物だからねー。」
「やめてくれ。本物の方がヤバイ、、、」
「あは、流石。んじゃ、そゆことだから宜しゅう。
「了解」
「あんたってば、本物と同じ反応するから。あ、でも、その真っ赤な顔は治しときなね?」
「なっ!?」
ククク、と笑うと手をヒラヒラと振って先へと歩いていく。
俺は慌ててついていった。
零が、、、分身、、、?
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