陰口

 天狐はこのまま仲間になるということはなく、事が終われば1時間くらい頬擦りをしまくってから満足したように飛び去った。

 その時に、その天狐の羽根を一枚貰った。

 別に、記念だとかそういうもんじゃないが、コレクションとして会う生き物の一部を集める趣味を持っているというだけのことだ。

 羽根でもいいし、皮膚でもいい。

 毛でもいいし、なんなら眼球、内蔵、骨なんかでもいい。

 取り敢えず、そいつの一部が欲しい。

 保管方法は様々だ。

 そのままの状態を長く保つ為ならば、結構手間をかけても構わない。

 一応、写真や記録もノートに記し、それと一緒に置いてある。

 俺の保管庫は部屋のすぐ横にある金庫部屋だ。

 様々な生き物の一部が溢れかえっている。

 異臭を放つモノは、その匂いが外にでないように工夫はする。

 この悪趣味は、サブ拠点に入る前からあった。

 勿論、俺のこの趣味の範囲には人間も含まれていたこともあって、それから察することが出来るだろう、既に殺人を犯している。

 それを知る奴はいないし、俺の悪趣味が評価されて隠密付きで此処本拠地に連れてこられたんだ。

 生き物については誰よりも触れているし、誰よりも詳しい自覚だ。

 そいつが偽物かそうでないかを見れば判断出来るくらいには。

 一度でも目にすればその判断は容易い。

 俺のこのスキルを頼る奴もいるが、俺の仕事内容に合わない仕事は、木之下キノシタでもないし、全般サポートでもない俺は手伝う気もない。

 裏音リオンと木之下のお陰で動きを止められた奴を片っ端からぶっ倒し、気絶させ、他の奴らが手を出せるまでには天狐と協力してガスマスクを着けたまま動き回った。

 味方をぶっ倒したことに関しては今回は仕方が無いとして目を瞑って貰えた。

 溜め息をついて、タバコに火をつける。

「タバコは止めたんじゃなかったか?」

「いい。どうせ後で彼女と会うから。」

「彼女、居たんだな。タバコの匂いは嫌われるぞ」

「だからいいんだ。嫌いだから、匂い消し持ってる」

「彼女を何だと思ってるんだ、お前は」

 呆れた声でそう言いつつ、隣に腰を降ろされる。

 隣に誰かがいるのも、背中に誰かが居るのも、好きじゃねぇ。

 気持ち悪い。

 彼女なら、構わねぇっていう俺も、いつか彼女に殺されそうだな。

「未だにこの時代、忍者がいるとか信じるか?」

「いいや、あれは空想の職業だ」

「書物は信じねぇのか」

「人間が書いたんだろうが。嘘が一つや二つ、あるに決まってる。その内の一つがそれだ」

「じゃぁ、忍者が使っていたとされていた暗器もか」

「そうだ。それがどうした?」

「信じてみねぇか?」

「馬鹿か。無駄を覚えてどうする」

「そういうことだ。その無駄を覚えておけば、そうじゃないもんと見分けがつきやすくなる」

「つまり、お前の悪趣味を認めろっていうのか?」

「俺に頼りに来たんだろ。何度言われても、やらねぇぞ。俺を頼らなくてもいいように、似た目を持て」

「バレてたか。なるほどな。無駄を覚えてついた目だってことだ。」

「忍者は例えだがな。戦時代戦国の時代にいたっていう武士とやらも、残っちゃいねぇ。だが、刀は確かに今でも使われている」

「何がいいたい?」

「忍者も武士も、当時はいたっつぅことだ。」

「武器だけで言うか?」

「なら、本物に会えるとするなら?どっかの誰かが作った2次元的な話になる。異世いせがあるとして、そこへの行き方も存在するとしたら?そういう遠い話と並行して、忍者が生きた時代に戻れるとはいかないにしてもその忍者がいる場所へ行く方法を俺が知ってると、」

「[言ったとしたらお前はどう思うか?]とでも?頭でも打ったか?夢語ゆめがたりが好きだったとはな」

「そうか、お前は現実さえ落としそうな目をしてやがる。残念だ。他を当たるとするか」

 立ち上がり、タバコを投げ捨て踏み潰した。

 相談でもしよう、というわけでもない。

 ただ、それだけをどの性格が本気にするかを知りたい。

 その本気にした頭を使えば、喜ぶのは俺ではなく彼女だが。

 ここまでのめり込んでおいて、バレないとすればまだ腕は落ちていないってことだ。

 彼女が今どうしているか、何処で潜んでいるのかは知らない。

 調査だと偽り、外へ出る。

「お疲れさん!調子はどう?」

「問題はない。が、無駄に疲れる」

「ま、仕事だから仕方ないって思って頑張って!って、昔からそうじゃん」

「お前以外に口をきくのが疲れるんだ。いつまでこうしてるつもりだ」

「この時代が変わるまでか、何か事が起きるまでか。で、趣味の方は?」

「天狐の羽根を入手したくらいか。で、仲間に天狐がいる」

「その天狐は黒竜の血の子だよね」

「調べたか?」

「いいや、まさか。繋がってるってだけ」

「神の使い、ってやつか」

「古くから神の使いだって言われてる、、、なんていうのは嘘だって広まってるけど、天狐は皆こちとらの子だし、そっちのいる天狐もちゃんとこちとらの力だし」

「それを早く言え。使っただろうが」

「いや、いいよ。使っちゃってよ。自我持たせてるからバレにくいし、天狐だっていちいち反応しないから」

 笑顔でヒラヒラと手を振った。

 この時代は二人で生きにくい。

 人物設定通りにするのは面倒だ。

 それでも、別人にならなければ重なってしまう。

 まったく、器用な本体をしてやがる。

 自分とまったく同じ自我を偽物に持たせておきながら、要らない趣味まで追加し、あろうことかまったく同じ自我を自分と同じように持たされた偽物とセットにするなぞ。

 で、案の定偽物だとわかっていながらも、惚れて付き合うなんて、本体と何が違う?

 偽物の相手は偽物。

 本体の相手もその偽物の本体。

 一番わからないのは、本体の居場所だ。

 分身であるこの身が、本体が何処にいるかわからないのは、仕様だろう。

 どうせ、分身がバレても追えないようにしている他ない。

「本体の気持ちもわからないでもないなぁ」

「そうか?」

「こちとらの予想ね。本体もさ、同じようなとこにいるんじゃないの?本体にしてみれば、自分の分身に居場所バレたって支障は出ないでしょ?わざとわからなくしたのは念のためなだけだろうし」

「流石、本体と同じ思考。ワシも、いるのか」

「上司くらいな位置にいるんじゃない?今は本当に情報収集だけってね。けど、本体の体力が何処まで持つかわかんない。こちとらの本体だったら、数匹の天狐までずっと動かしてんだもん。いくら神でも休憩か、何か新しく事を進める時には消すでしょ」

「その時にバレるか、もしくは隠すかだな。ワシがサブ拠点から呼んだのは本体の可能性もあるってことにもなるか」

「いや、それはないかも。本体も分身や天狐の居場所は消すまで記憶すらわかんないわけだし、望んでなかったかもしれない。でもわざわざ言う必要ないから黙ってんでしょ。そっちの機関と姉妹のこっちの機関じゃそんな動きはなかったはず」

「じゃぁ、」

「そう。こちとらは格下のとこでお仕事。上へ上がることは先ずないね。格下に潜り込ませたってことだけしか知らない本体が、やるとしたらただ器用に選ばないことでしょ」

「可能か?」

「あんたの本体は失敗なのか放置なのか知らないけど。上司に本体がいるならそういうことは出来るよ。こちとらの本体となれば長年の経験がものを言うでしょ。完璧なんだよ。でも、これだけはどっちかわかんない。分身同士がこうやって情報交換するために会ってるってこと」

「お前の本体なら予想内だと思うがな」

「かもね。何処まで策を立ててるか、同じ脳ミソ持ってても謎だよ。だから、本体は自分でも自分が厄介で恐ろしいってことくらい思ってるさ。」

「お前なら、どう考える?確かに位置ややってることは違う。だが、近い答えは出るんじゃないか?」

「それが出来るならいいよ。だから厄介で面倒なんだよ。たとえ、自分自身でも近付けやさせないとこがさぁ。ロックされててここから先ってのが無理。つまりは、自分さえ信用してないってことだよ。」

「まぁ、たとえ偽物であっても自我は同じ。その厄介で便利な奴が自分を邪魔したらたまったもんじゃないってことだろうな」

「邪魔なら消せばいいんだけどね。本当に、素晴らしいくらい慈悲がない」

「取り敢えず、お互いにあんまり離れない方がいいな。そろそろ疑われる頃合いだ」

「じゃ、また次に」

 ぐっ、と伸びをすると本体と変わらない消え去り方をする。

 さぁ、ワシ、、、いや、俺はどうする?

 上司が部下にこれでもかと姿を見せないのには、自分なら自分に気付く可能性があるという慢心か、もしくは念のえとやらか。

 暗闇の向こうが見えないのは、恐らく霧だろう。

 あれだけ条件が揃っているなら。

 もし、上司に本体がいるならそれはそれでいい。

 そもそも偽物が本体を探してしまうように作り出したのが間違いだ。

 わかっていても、逆らえないのは、偽物には本体に勝てないそれぞれがあるからだ。

 所詮、本体を真似て作られた偽物。

 同じ性格を元にいくら様々なスキルを加えたとしても、することはたかが知れてる。

 本体には勝てないと、わかっていながら殺しにかかる分身はいない

 本体が消えれば自然と分身も消える。

 消されたくないのならば、生きていたいのならば、生き残る術を探せばいいなんて立場でもない。

 そう、「素晴らしいくらい慈悲がない」んだ。

 精々出来ても早めに消されないように大人しく、本体の意に沿うことだけ。

 自我を持たされた理由は簡単だ。

 自然を騙り、完璧に目的を果たす為。誰がどうなろうと知ったことじゃないし、味方も敵もない空間で、どれだけ本体の糸に操られ続けられるか、だ。

 隠密が得意な本体の、本職は言わずもがな、その分身であるこの身の得意はわかるだろう。

 今夜も変わらず無駄なくやり終えれればそれでいい。



 いざ、忍び参る。

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