新入

「さて、海斗カイト君と言ったかな。俺の部下志望の子だ。裏音リオン、構わないかい?」

「、、、いな

「それは残念だ。海斗君、他を当たってくれるかい?」

「ちょ、ちょっと待ってください!!なんでですか!?」

「貴様、悪鬼ガラクタ、匂う。我、信じる、出来る、いな

「えっと、、、?」

「裏音は、君から悪鬼ガラクタの匂いがするって言ってる。だから、信じることは出来ないってさ」

 海斗君は途端に顔色を変えて、俺の胸ぐらを掴んだ。

「なんですかそれ!!意味わかんないです!!悪鬼ガラクタの匂いってなんですか!!」

「俺に言われてもただの人間だからわかんないかなぁ。あと、乱暴は良くないよ」

 海斗君の手を出来るだけ丁寧に解いた。

 なんとなく、裏音の言ってることは正しいと思う。

 だから、間違ってたら可哀想だし他の人に回って欲しい。

 もし、本当ならここで潰さなきゃいけないんだけど、証拠がない以上は手は出せない。

「じゃぁ、裏音さん!なんですか!!どういう意味ですか!!」

「我、貴様、悪鬼ガラクタ、作る、出来る、思う。何故、わかる、いなゆえ、信じる、出来る、いな

「訳すと、裏音は君が悪鬼ガラクタを作ることが出来るように思える。何故かわからないから信じることが出来ないって言ってるよ」

「あ、そういうことですか!確かに悪鬼ガラクタを作れますよ!集めた部品と倒した悪鬼ガラクタの部品を使って味方の悪鬼ガラクタを作って戦わせるっていう実験をしてました!」

 元気よく説明してくれるのは有難いけれど、裏音は首を傾げている。

「何故、カイト、此処、来る?他、有る」

「確かに、なんでそういう実験や研究をしてる部隊に行ったりしないんだい?此処はそういう所じゃないんだよ?」

「研究とかそっちじゃないとダメなんですか?」

「ダメではないけど、望ましいかな。個人の得意分野が生かせる部隊に所属した方が、仕事もしやすいし、君のような特殊な分野だと助かる所も他にあると思う。だから俺の部下になんかならない方がいいと思うよ?ここではあんまり生かせられないことだと思うからね」

 早口でそう伝えたけれど、ちゃんと聞き取れたかな?

 海斗君は難しい顔をする。

 勿論、どうしてもっていうんであれば俺の部下に置いておくし、なんなら紹介状でも書いてあげられる。

「でも、弱いし、他って言ってもよくわかりません。怖いし」

「うーん、そもそも何処の隊もそれ相応の覚悟くらい持っていないとお断りだと思うけど。流石の俺も覚悟がない者を部下として受け入れられないかな。本拠地で働くならサブ拠点以上に覚悟をしてかからないと早死にするか遅れを取るから、誰も欲しがらないかな。厳しいことを言うようだけれど、命に関わる仕事だからね。」

 俺は取り敢えず、何枚か紹介状を書く。

 裏音は既にもう興味を無くしてしまって、定位置ソファに座って欠伸を噛み殺していた。

「取り敢えず、覚悟が出来てからでいいから行きたい所、自分の得意分野を生かせるような部隊に行ってみてくれないかな?紹介状はいくつか書いたから、このどれかに行ってみればいいと思うよ。言っておくけれどこの紹介状は必ず入れる切符じゃないからね」

「はい、、、すみません」

「強さなんて関係ない。それをよく覚えておいて。弱くても活躍出来る場所は必ずあるよ。上司に指名されたってことはそういうことだ。紹介状の期限は1ヶ月が限度。もし1ヶ月かけても駄目なようなら、サブ拠点に戻って出直すか、やめてしまうかした方がいいと思う。本拠地での仕事は甘くない。舐めちゃいけない。だから1ヶ月内で覚悟を決められないようなら、やっていけないよ」

 ノックが聞こえたので、裏音に目を向ける。

 すると裏音はドアを開けてくれた。

木之下キノシタにしては珍しいことを言うな」

「言う機会がないからね。でも、そうだろう?」

「あぁ、間違ってはない。だが、一週間内で覚悟出来ないとすればもう特殊にはいけないな」

ゼロはどのくらいかかった?」

「覚悟はサブ拠点で死にかけてから本拠地に行くと決めたと同時に」

「器用な覚悟だなぁ。俺は覚悟する前に36番隊に組み込まれたからなぁ」

「器用な覚悟言うな。お前はタフでいいな。そんなことより非番か?」

「あー、いや、昼からお仕事入っちゃって、裏音と一緒に行くよ」

 海斗君は固まって俺たちを見つめている。

 あぁ、放置しちゃってたな。

「さて、海斗君は自分で動いてね。部下じゃないし、これ以上は何もしてあげられない」

「はい、、、」

「海斗、といったか。いい加減な覚悟は持つなよ。木之下は優しく甘い。それを基準に見るな。地獄と化すぞ。研究部隊も特殊となればサブ拠点とは天地の差だ。特殊でなくともそれなりにキツイ。指名されたと言ってもそれは雑魚の中では上だと言うだけだ。既にお前は遅れをとっている状態だということを知っておけ。逃げるならさっさと逃げろ。死ぬ前にな。特殊な特技も此処本拠地では当たり前と化す。普通の人間はどの部隊にも居ない。肝に銘じろ。足でまといは捨てられるぞ」

 長々と冷たく海斗君に重たい声で、零はそう言った。

 そう、俺は甘い。

 零の言う通り、基準を下回る俺を普通だと見てたら生きていけない。

 勿論、俺だって海斗君みたいに未熟者だし、なんとなくでギリギリ生きている。

 特殊な特技を持った、海斗君や零たちとは違ってなんにもない。

 それを再確認させられるくらい厳しいことを零は言った。

 悲しいなぁ。

 でも、忠告するくらいなら優しい方だって後々海斗君は気付くと思うな。

 零も、優しい。

 隠密となればもう一つ厳しいから、零は言える。

 わかってない奴がいい加減に言っていいことじゃない。

 だから、俺は危うい。

 泣きそうな顔で頷き、海斗君は部屋を出ていった。

「俺だけだなぁ。特殊な特技なかったり力持ってないのー」

「本当にそうなら俺はお前を頼らない。お前の勘は強いからな。それと無意識」

「それってどういう意味だい?っていうか、頼ってくれていたんだね。知らなかった」

「お前は無意識へ全てを捧げたかのような鈍さだな。逆に尊敬しそうだ」

「俺は皆を尊敬してるよ。なんとなくだけど、皆凄いんだなぁって」

「お前のそういう所を把握してないと、誤解を産むな。まぁ、その本人が誤解してるから何とも言えんが」

「だから、それはどういう意味だい?」

「いい、こっちの話だ。」

 俺がまだ口をつけてない冷めてしまった珈琲を勝手に飲むと、溜め息をつく。

 そういえば、裏音がオールバック風の髪型になったのは零のせいだって聞いたけど、何かあったのかな?

 まぁ、似合ってるから俺は構わないんだけど、仲が良いんだなぁ。

「あ、そういえば、何か用があったんじゃないかい?」

「もういい。非番じゃないらしいからな」

「そっか、ごめんよ。裏音だけでも空いてるなら、、、」

「いや、今回はお前の方が必要だった。急ぎじゃないから別の日でいい」

「予定は空いてるから、明日でもいいよ」

「なら、明日またくる」

 珈琲を飲み干して机に置くと、部屋を出ていった。

 零はだいたい俺相手だと遠慮がない。

 勝手にノックだけで部屋に入ったり、今も勝手に俺の珈琲飲んだり。

 構わないんだけど、他の人にもそんな風に接してないか心配だ。

 評価を落とすきっかけにもなるうるから、あんまりしない方がいい。

 それと、零の腕は怪我していたから軽く何処かで引っ掛けたのかもしれないし、いつもより機嫌が良かったから何かいい事があったんだろう。

 希空ノアは仕事で今日はお茶をしに来る余裕はないだろうから、準備は要らないだろう。

 あとは、昼近くまで待つだけかな。

 書類の整理をするとするか。

 勘、無意識、そんな言葉で俺を頼るんだったら、相当今は足りてないってことになるんじゃないかな?

 上司も、俺の何処を雑魚の中で上だと判断して指名して、36番隊、しかも隠密付きで、、、。

「トウシロー」

「ん?」

「我、食べる、気、要る」

「あ、そうだね。俺の気で大丈夫かい?」

おう

 そういえば忘れていた。

 それでも今まで空腹を我慢してくれていたのか。

 頭に手を当てて、気を送り込む。

 目を閉じて気を吸い取っていく裏音は、どのくらいの気が必要なんだろうか。

「キュウ、、、」

 そんな鳴き声を出して、満足そうに俺の手から離れていった。

 思ったより少なかったな、、、。

 っていうより、あれが天狐の鳴き声か。

 いつもの声よりちょっと高かったな。

 地声がそっちなのか、それともいつもの声の方なのか、、、。

 いやいや、そんなことはどうでもいいか。

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