挨拶

 朝になり、裏音リオンを起こしにソファへ行くと、そこにはいなかった。

 何処へ行った?

 キョロキョロと部屋を見渡して、後ろを振り返ったら、天井に座る裏音が居た。

「裏音、ビックリするから、こういう部屋の中では逆さまになっちゃダメだよ」

おう

 翼を広げるので、飛ぶのかと思ったら、そのまま床にしゅたっと降りただけだった。

 変化に体力は要らないみたいに、相変わらずその姿のままだ。

 構わないけど、仕事時にバテちゃったら意味が無い。

「さて、挨拶にいこうか」

おう

 音もなく着いてくるから、時々チラチラとちゃんと来ているか確認する。

 そんなに静かに歩くのか。

 気配もさっき無かったから、敵に気付かれずに仕留めるのも出来るんだろう。

 廊下を歩いていると、裏音を見た人がヒソヒソと何かを言っている。

 裏音は俺の半歩後ろを歩く。

 チラと見れば、目の色が青く変わっていた。

 目の色は何を示すのだろう?

 希空ノアの情報を待つとするか。

「皆、トウシロー、味方?」

「うん、一応ね」

 ドアの前に立ってノックする。

「36番隊の木之下冬志郎キノシタトウシロウです」

「入れ」

 ドアを開けて入る。

 裏音がドアの前で固まって、入っていいのかどうか迷った顔をしているので手招きをした。

「新たに部下として、36番隊に加わりました、裏音です」

「そうか。獣人族だな?」

「いえ、裏音によれば、変化している姿なだけであり、あやかしのようです」

「妖?敷地内にいない筈だが。何処から連れ出した?」

「地下の最奥の牢屋です」

「何!?そこにいるのを連れ出しただと!?危険だと、思わなかったのか!?」

「裏音はいい子ですよ。俺に任せて下さい」

「いいや、認めん。事が起こってからでは遅いのだぞ」

「ですが、貴方は敷地内であれば誰でも良いと許しを既に俺に与えています。ですから、変更は致しません」

「、、、フン。なら、ソイツを使いこなしてみろ。過去にソイツが何をしたか、勉強するんだな」

「はい、有難う御座います。それでは失礼します」

 一礼して、部屋を出る。

 相変わらず、姿すら見せてくれない上司だ。

 わからない。

 あんなに暗くして、ライトを俺だけに当てる必要はあるんだろうか?

 まぁ、いいか。

「裏音、仕事場に行こうか」

おう

 目の色は赤に戻っている。

 もしかして、感情が目に出るのかな?

 そうだったら、さっきは緊張とかしてたのかもしれない。

「おはようございまーす」

「おはよう、冬志郎。遅いじゃん!」

「ちょっと上司にご挨拶に」

「何そいつ。いたっけ?」

「裏音っていうんだ。新しい部下だよ」

「へぇ。獣人族を部下にするなんてあんたやるじゃない」

「妖だけどね」

「嘘でしょ!?だってそんな珍しいの普通いないよ!!」

「嘘じゃないさ。なぁ?裏音」

おう

 まじまじと見られて、裏音は顔を背けた。

 嫌そうだ。

「そんなに見ないでやってくれ。嫌そうだろう?」

「ふーん、ま、妖だろうが獣人だろうが仕事出来なかったらしばくけどね!」

「それはやめてやってくれないかい?」

 大きな銃を抱えて不機嫌そうに、アイは顔をフイッと向こうへ向けた。

 愛は、36番隊の中でも結構強い。

 俺はやっと部下を持ったくらいだから、そんなに強くはない。

「ほら、悪鬼ガラクタが来ちゃうよ!そいつに教え込んどいてよね!」

「わかったよ」

「敵、来る?」

「うん、そうだよ。悪鬼ガラクタっていうのは敵の総称だ。様々な姿をしているけど体内は歯車でいっぱいになっている。つまり、機械なんだ」

「機械。水、効く、か?」

「それが、効かない悪鬼ガラクタもいるんだ。何が効くかはそれぞれだから。その時その時で臨機応変にね」

おう

 裏音は目の色を様々に変えて、尾を揺らした。

 やっぱり何を表しているかはわからない。

[36番隊、出動せよ]

「行くわよ!」

「街のど真ん中だね」

 裏音を振り返ると、翼を広げてバサバサと羽ばたいて閉じた。

 飛べないのか、準備運動的な何かなのか、これも謎だなぁ。

「裏音、行くよ。街の中心部で悪鬼ガラクタが出たんだ。」

「遠い?」

「うん、遠いよ。だから、」

「我、飛ぶ。トウシロー、我、乗れ」

 裏音は姿を大きな獣へと変えた。

 獣、、、で合ってるよな?

 翼も倍以上に大きくなる。

 凄い、、、。

 飛び乗ってみれば、裏音は走って飛び出し、翼を広げて滑空した。

 他の36番隊の皆よりも出遅れたのに、直ぐに追いつく。

「なにそれ!ズルくない!?」

「俺の部下だからなぁ」

「乗せなさいよ!」

「裏音が良いっていったらね」

 ヘリを追い抜いて、目的地へ一足もふた足も速く向かう。

 風を直接受けるけど、その風が気持ちいい。

 双剣を構える。

 見えてきた。

「裏音、わかるかい?アレだよ」

おう

 裏音はまっすぐ悪鬼ガラクタへと飛んでいく。

 俺が切り刻みに離れようとした時だった。

 裏音が火玉を悪鬼ガラクタへ飛ばし、燃やし尽くした。

「裏音って、炎を扱えるのかい?」

おう

 クルリと向きを変えて、ビルにガシリと足をついて停った。

 翼をたたんで、キョロキョロと周囲を見て探している。

 裏音が透けていることに気付いたのはその時だ。

 ビルの中の人達は、裏音に気付いていない。

 裏音を透かして外を見ることが出来ている。

 それのついでに俺のことも見えていないようだった。

 妖の力なのかもしれない。

 裏音はまた空中へと飛ぶ。

 ガバッと大きく口を開けて、悪鬼ガラクタに噛み付いた。

 そして首を左右に振って食いちぎる。

 バキ、バキ、と音を立てて噛んでいる。

「飲み込んじゃダメだよ?」

おう

 吐き出すと、それはドロリと溶けて消えた。

 待ってくれ、俺、全然働いてないぞ!

 裏音が狙うのとは別の悪鬼ガラクタを見つけて斬りかかった。

 首を落として、核を狙って突き刺した。

 核が何処に埋め込まれているかは経験の目でしか探せない。

 裏音のように全てを一気に潰せるのなら早いけど、俺はそうはいかない。

 落下する俺を裏音がその背中で受け止め、上昇した。

「もう終わりよ!」

「あれ?早いなぁ」

「あんたンとこのがほぼ片付けたからね!あんたより有能よ!」

「酷いなぁ」

 笑いながら帰還する。

 やっぱり、裏音は速い。

 誰よりも速く戻れたが、出入りの穴に入り切れない裏音はそこでガシリと掴まって、翼をたたんでよじ登った。

 翼をたたんでやっと入れる。

 狭く感じたのはきっと、変化へんげを解いた裏音が思ったより大きいせいだ。

 これじゃぁ、俺の部屋には入れないなぁ。

 味方も遅れて帰ってくる。

「無駄に大きいわね」

「変化を解いたからね」

 裏音の頬を撫でながら、どうしようかと考える。

 今回この程度で済んだけど、もっと動くとしたら肉が必要だな。

 でも、裏音はどっちの姿で食べるんだろう?

 ガバッと口を開けたので、なんだろうと思ったら、パクリと頭を食われた。

「わー!?裏音!ダメだって!食べないで!?」

「食われてどうすんのよ」

 解放されたと思ったら、翼を広げようとする。

「ちょちょっ、裏音!此処で翼広げたらダメだって!!」

おう

 広げかけた翼をたたんで、伏せをする。

 裏音で凄いこの部屋を取ってしまっているが、仕方が無い。

「その新入りをどうにかしろ」

「どうにかって言われてもなぁ」

「片腕食われてるぞ」

「裏音!?」

 ガジガジと左腕が噛まれている。

 お腹が空いたんだろうか。

「人を食べちゃダメだよ?」

おう

 口を離して尾を揺らす。

 よく見れば尾で隊員が巻き込まれている。

「あー!?大丈夫かい!?」

「いや、構わないでいいから。凄い、、、ふわっふわ、、、」

「楽しんでいるなら、、、いいのかな?」

「で、新入りは小さくならんのか」

「裏音、変化してくれないかな?こう、小さく」

おう

 ぼふん、と煙を上げて小さくなった。

 のは、いいけど最初出会った時とは違う。

 というか、さっきの獣の子供版みたいな、猫くらいの大きさになっている。

 やっぱり翼も大きさに合わせて小さくなってるんだな。

「小さくなると可愛いもんだな」

「うちの子を連れ帰ろうとしないで欲しいかな」

「安心しろ。世話は出来る」

「そういう問題じゃないんだけど!?」

「裏音と言ったか。俺のところへ来るか?」

 首をかしげている。

 そして、口を開けたかと思うと火を吐いた。

 もう少しで顔面火傷を負うところだったのに、ゼロはフッと笑った。

「火を扱うのか。それは便利だ」

「おう」

「このサイズになると、声の調子も変わるな」

「もうそろそろうちの子返して欲しいんだけどなぁ」

 溜め息をついて、抱っこしていた裏音を返してくれた。

 のは、いいんだが何故かよじ登って頭の上で満足げに落ち着いた。

「俺も腕の中に収まってくれよー」

「いいじゃねぇか。頭の上でも」

 クックック、と抑えた風に笑われる。

 小さな翼をバサバサと羽ばたかせながら、尾を揺らす。

 サイズはいくらでも変えられるのなら、本当に便利だなぁ。

「あ、そうだ、食堂に行こうか」

「その前に頭を食われるなよ。既に噛まれて血が出てるぞ」

「うわぁ!?ダメだって言ったのに!」

「お前、痛覚が鈍すぎないか?」

 零にそう呆れられながら、食堂へ向かった。

「よぉ、なんだそのチビは?」

「部下ですよ、先輩」

「部下?ペットの間違いじゃねぇのかぁ?」

「いな!」

「喋ってるのか、鳴き声わかんねぇな、おい」

「われ、ぶか!」

「一応、喋ってるんですけど、このサイズになると声も幼くなるようで」

「このサイズ?じゃぁ、もとに戻るとどうなるんだ?」

「デカイんですよ。ですから、小さくなってもらいました。人型にもなれるんですよ」

「じゃぁ、なってみろよ、チビ」

「おう!」

 ぼふん、と煙が上がる。

 煙が消えればあのカッコいい姿に戻った。

 うん、俺としてはやっぱりこれが一番しっくりくるなぁ。

 目付きが悪いせいか、先輩を睨んでいるように見える。

「お、おう、、、。まったく違ぇな、こら」

「俺もそう思います」

「チビ、、、じゃねぇな。お前名前は?」

「我、裏音」

「そうかよ。じゃぁ、リオだ」

「、、、貴様、名前、何」

「結構な口だな。オレは、ローズっていう。」

「ろーず?」

「そうだ」

「覚えた」

 あ、また目の色が変わった。

 先輩はそれを見て笑う。

「便利な目だなぁ。それ」

 俺と裏音は一緒に首をかしげた。

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