第15話 セーラの心配

 アールも部屋に戻った後、シェリーとセーラは、まだ二人で周辺を散歩していた。何かするわけでもなく、ただうろついているだけ。どこかで体を休めることもせず、歩きながら、セーラはそっとシェリーに尋ねた。


「…シェリーさん、お姉ちゃんとは、いつから友達だったんですか?」

「どうしたの? 急に…うーん、そうねぇ…初等部の時だったかしら。私たちが3年生くらいの時かな」

「結構、付き合い長いですよね」

「ふふ、そうね。最初のクラス替えで初めて同じクラスになって、私からエレンのことが気になって話しかけたのよ」

「…でも、確かその辺りの学年って…」

「……エレンがいじめられていたこと?」

「はい…」


 シェリーが、セーラの言いたいことを当て、落ち着いた口調で訊く。それを言い当てられたセーラは、ばつが悪くなったようにさらに俯く。誰からも好かれている現在のエレンにおいて、今では想像もつかないような話だ。


「セーラちゃんは、私が関わっていたんじゃないか…って、心配なのね?」

「………」

「…ふふっ、大丈夫よ! むしろ逆! エレンに嫌がらせしてきた子たちを、片っ端から追い払っていたんだから!」

「そう、なんですか…?」

「えぇ。あの時も、セリーナがあまり学校に来られなかったから、常に私が一緒に居たのよ。たまにセリーナが来た時は、リッチさんと一緒になって護衛していたくらいだもの。もちろん、ターボのバカもはりきってね」

「相変わらず、ターボさんらしいですね」

「でしょう?…セーラちゃんには、なにか誤解をさせるようなことをしてしまっていたのなら謝らないとね…」

「いっいえ! そうじゃないんです!…シェリーさんが、お姉ちゃんのこと気にしてくれるのが、なんだか…お母さん、みたいで…」

「お母さん…そういえば、セーラちゃんとエレンのお母さんは…? 家にいるの?」


 今度はシェリーがセーラに尋ねる。すると、セーラの表情が先ほどよりも曇り、さらに俯いた。


「…それが…物心ついた時には、もういなくて…でも、今でもどこかにはいるみたいなんです。時々、手紙も来るし…」

「そう…ごめんね。失礼なこと聞いちゃった…」

「大丈夫です。シェリーさんには、いつもお世話になってますし…それでその、もうひとつ聞きたくて…お姉ちゃんが嫌がらせ受けていた理由って…何なんですか?」

「あぁ…アレ、ね。モテない女子たちのただの腹いせよ。初等部に入学した当時から、エレンはずっと男子たちから注目されてたから…んで、よくある『ちょっと可愛いからっていい気になるな』ってやつね」

「…なんて逆恨み…」

「あと、エレンっていつもペンダントしてるでしょ? 肌身離さず着けていたから、余計に反感買っちゃってね」

「えっ!? なんで!?」

「『学校でアクセサリーは禁止なのにズルい!』って」

「…シェリーさん、ご苦労様です…」

「まあまあ、その件に関しては思ったより早く片が付いたから大丈夫よ!…ただちょっと思ったんだけど…」

「はい?」

「セーラちゃんたちのお母さんって、気付いた時にはいなかったのよね?」

「そうですけど…」

「でも、私たちが初等部に通っている時は、ちゃんと学校の保護者会とかには参加していたし…それにエレンのペンダントのことも、お母さん直々に『身に着けていないといけない理由』を学校に説明したって聞いたし」

「それ…本当ですか?」

「えぇ、そうよ?」

「シェリー」

「「!」」


 二人の会話が途切れる。会話を遮り、澄んだ声が廊下に響く。声の方へ視線を向けると、海を思わせる青を纏う女性が立っていた。

 その胸元で、硝花の青薔薇が光を反射して、一際目を惹いた。

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