第13話 帰還

 『エデン』とは──…エレンたちガーデンを目の敵にしている者が集う、反政府組織。目立った動きが無いものの、最近になって少しずつその本性が明かされようとしていた。現在調査中の、魔珠の大量押収を含め、上級魔法を使用できる一般国民の誘拐…そして、エレンを執拗に狙っている張本人である。


 ガーデンの司令官室では、セラヴィとセイロンが心配そうに、アールたちの帰りを待っていた。しばらくして部屋の扉がノックされ、エレンを抱えたアールが入ってきた。


「…ただ今戻りました」

「お疲れさま…まずは、結果の報告をお願い」

「はい…現地に着く前から感づいてはいたのですが…やはり、エデンの奴らに既に奪われていました」

「さっき襲撃してきた二人か?」

「いえ、それよりも前のようです。あの二人は、俺の足止めも兼ねた、エレンを攫うための役割だったようで」

「随分と詳しいわね…心読術でも使ったの?」

「…使う以前に、不用心にもほどがある…一人の考えが駄々漏れでした…」


 『心読術』──…正式には『思心解読シシンカイドク術』といい、相手の心内を読む、使う者も少数に限られる非常に高度な術。この術を習得していなくとも、自身の心を読ませないための力は誰しも持ってはいるが、あまり相手に気を許すと、今回のアールのように、術を習得している者に勝手に読まれてしまうことがある。


「そこまで気を許せる関係なの? その相手とは?」

「あいつらは、俺の同級生なんですよ。不用心だった方はそうでもありませんが…もう一人は、付き合いが長くて、よく共にいました」

「友達だったのか…」

「まあ、そうですね…でも、高等部を卒業すると同時に二人ともエデンに入ったみたいで…あいつらが何考えているのか、わかりませんけど」

「…そう…ところで、エレンには何をしたの? わざわざ気絶させてまで…」

「……"あの言葉"を、記憶から消したんです」

「あの言葉って…"写し子"のことか…?」

「……」

「…あなたが必死にエレンを守ろうとしているのは、よくわかるわ…でも、"それ"はいずれ話さなくてはならないことでしょう?」

「いえ…このままずっと、隠し通すつもりです」

「ずっと、って…アールそれは…!」

「セイロン、待って…あなたがそう決めたのなら、私は止めません。なるべく、こちらでも協力もします。でも…もし知られてしまったら?」

「それは全て俺の責任ですので、どうなろうが自分で受け止めます」

「…わかったわ…今日はもう休んで。エレンも部屋に送ってあげてないといけないし、ね」

「はい、失礼します…」

「気を失ってるからって襲うなよー」

「そんなことしません」

「セイロン、なんてこと言ってるのかしら?」

「暗い空気を何とかしたかったんだよ…って…アールまで変な目で見るな!」


 セイロンが珍しく人を茶化したものの、それにも動じずアールは司令官室を後にし、エレンの部屋へ向かった。

 エレンの部屋の前に着くとアールは、抱えている彼女の左手の甲を扉に向けた。


 ガーデンの個室は、各々が持つ花盤を扉にある円形のくぼみにはめることで鍵の役割を担っている。本人の花盤にしか反応しないため、他人の部屋には勝手に入れないようになっているのだ。


 彼女の左手にはめられた指輪から、花盤が飛び出す。くぼみにはまると淡く発光し、カチッという、鍵が開く音が鳴る。花盤をしまうと、大事そうにエレンを抱えなおして部屋へ入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る