第11話 任務同行

 また、数日が過ぎた。この日は、エレンに久しぶりの任務が入り、ちょうど司令官室にて、その説明を受けているところだった。


「…それで、今回の任務は難しいものじゃないわ。見回り…パトロールをしてきてほしいの」

「パトロール、ですか…」

「えぇ、もう聞いてると思うけど、ここ最近の魔珠の減少が目立ってきて、以前、保護魔法を施しに行ってもらったの。だけど、一向にその効果が見えなくてね…」

「無理やりにでも解除している者がいる、と」

「そう。それで、しばらくパトロールを中心に組んでいこうと思ってね」

「わかりました」

「今日のパートナーは、準備が整ったらまたここに来るそうだから、ちょっと待ってね」

「? 今日はシェリーとじゃないんですか?」


 ガーデンの任務は、常に二人以上のグループになって行動するようになっている。ペアでの任務は、コンビネーションが取れる二人で、とのことで、パートナーが変わることがほとんど無い。エレンのパートナーは、普段はシェリーのはずだが、ここでパートナーが変えられたことは初めてだ。


「えぇ。なんでも、今回からあなたと組ませてくれって、彼が…」

「"彼"?」

「えぇ…あ、噂をすれば…ね」


 セラヴィが扉の方へ視線を向ける。エレンも彼女が見つめる方向へ目を向けた。視線の先には、アールが立っていた。静かに扉を閉め、二人のもとへ歩いてくる。


「アー…ル?」

「こちらは大花盤ボートの準備も整いました。いつでも出動できます」

「そう…それじゃあ、エレン。あなたも準備の方は大丈夫かしら?」

「え…? あ、はい。大丈夫です」

「了解。二人とも、気を付けていってらっしゃい」

「はい、行ってきます」


 少し戸惑いながらも、アールの後について行くエレン。出動口には、二人が乗れる大きさに調整されたアールの大花盤が展開されて待っていた。


「今日の任務先は、俺しか行ったことのない場所だから、手っ取り早く大花盤は一つだけな」

「あ…うん。わかったわ」

「…行くか」


 二人が乗り込むと、大花盤の、普段は雨風を防ぐためのドームが展開された。


「今日は天気も悪くないから、ドームは要らないんじゃない?」

「いいんだ……お前がいつ襲われてもおかしくないから…」

「え? 何か言った?」

「いや、なんでもない…それより、少し急ぐぞ。しっかり掴まってろ」

「え…きゃあっ!?」


 アールが、飛び始めから一気に飛行速度を上げる。エレンはハンドルを取り損ねそうになったが、何とか持ちこたえて態勢を整えた。

 二人を乗せた大花盤が、ガーデンから南へと、まっすぐ進んでいく。しばらく飛行していると、大きく拓けた草原が見えた。すると、何かに気付いたアールが目を見開いた。


「…これは…!」

「ん? どうかした?…わ…っ…綺麗…」

「…降りるぞ」

「え? えぇ…」


 草原を見渡すと、まるで大地にラメを散りばめたかのように、一面の緑がキラキラと輝いていた。エレンはその美しさに見とれていたが、アールは何か不信感を抱いた顔つきだった。

 徐々に大花盤の高度を下げていき、草に触れるか否かの高さまで降りると、地を滑るように進んでいく。そこでようやく、この大地一帯が輝いて見えた理由がわかった。


「…これ…ガラス?」

「ガラスも何も、夜光硝花の破片だ」

「えっ!?」

「ここ一帯は、『硝花の丘』と呼ばれる、有名な夜光硝花の自生地の一つなんだ。本来なら、さっきまでの高度でも十分、花の形が認識できたんだが…」

「粉々になってる…」

「明らかに誰かが踏み荒らした跡…それと、風化して崩れたものが大多数だ」

「風化って…硝花が崩れるなんて、聞いたことないわよ?」

「普通なら、お前の言うとおり硝花が自然と朽ちることはない。壊されても、時間をかけて自己修復する。ただ、硝花の自生にも魔珠が必要不可欠…ここまで言えば、わかるだろ?」

「…魔珠が何者かに盗まれたから…」

「とりあえず、破片の少ない場所で降りよう。もしかしたら、自然現象が理由で魔珠が掘り起こされているだけかもしれない」

「わかったわ」


 広い草原を慎重に進み、破片の少ない一角に降り立った。そこから見渡しても、硝花が壊され朽ちているというのに、そんなことを微塵も感じさせないくらい、緑が輝く美しい情景が広がっていた。

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