第10話 追っかけたちの苦悩

 一方、談話室の外…。扉の横で、リッチが手を後ろで組み、三人の会話が終わるまで静かに待っていた。すると、先ほどシェリーに蹴り飛ばされた二人が、再び談話室にやってきた。


「…おや? ターボ様にスタンレー様。どうされました?」

「リッチ…頼む!」

「オレらを入れてくれ! いや、入れてください!」

「それはダメですよ。女性の秘密事に踏み入るなど…」

「入れないなら、覗くだけでも!」

「もっと許可できません。そんなことしても、エレン様に嫌われてしまうだけですよ?」

「いやもう嫌われてるけど…じゃなくて! どうしてもこれは聞かなくては!」

「シェリーのところに来る、イコール、エレンの好きな人について語っているはずなんだ!」

(お二人とも、ご存じないのですか…エレン様のご様子からして、あんなにわかりやすいというのに…)


 ターボとスタンレーの懇願にも引かず、ガードを固めながら二人の鈍感さに気付くリッチ。どうしても引かない彼を見て、二人はさらに真剣な顔つきになる。


「…こうなったら、もう…」

「あぁ…もうアレしか…」

「?」

「「強行突破だ…!!」」

「ダメですよ?」

「「…っ!」」


 無理やり扉を開けようとする二人に、リッチは素早く反応して止める。そしてにっこりと笑って念を押す。笑っているのに、彼からは気迫を感じ、気圧されてしまったターボとスタンレーは、肩を落として速やかに退散した。リッチは、二人が離れていくところを笑顔で見送っていた。


「あーぁ…結局誰なんだろうな」

「普通だったら、シェリーのあの声量なら扉越しでも聞こえるんだけどなぁ…」

「確かプライバシーのことを考えて、防音されてるんだよな…談話室の壁と扉って」

「なぁ、スタンレー? 結局のところ、誰だと思う?」

「ん~? さあ…副司令官とか?」

「いやいや、司令官との噂があるじゃん」

「そうだよな…そしたら、リッチなんか妥当じゃねえか?」

「うーん…やっぱり? エレンってさ、年上の男が理想っぽいよな」

「確かに…ってか、オレも年上なんだけど?」

「はっ…!? エレンはやらねえぞ!?」

「残念でしたー。この事実はもう変えられませーん」

「じゃあ、エレンが今までオレらに冷たく当たってきたのは?」

「…照れ隠しか!」

「何ぃっ!? そしたらオレにもまだ望みはあるってことだな!」


 なんというポジティブ思考。一体どこからそんな自信が湧いてくるのか。二人の会話の中でアールの話題も出てこないまま、謎の自信を持ったまま二人は行ってしまった。

 それからしばらくして、談話室から会話を終えたエレンたちも出てきて、皆で昼食を食べるために食堂へ向かった。


 問題の無い、平穏な時間が過ぎていった──…

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