第9話 恋愛事情

 それからしばらく一人で過ごしたエレンは庭園を後にし、何か思い立ったのか談話室へ向かった。そこでは、シェリーとセリーナ、リッチも共にお茶をしていた。シェリーが入口にいたエレンに気付くと、ひらひらと手を振り彼女を招く。

 誘われるがままに三人のもとへ行こうとしたが、エレンはある気配に気付いた。後ろを振り向くと、何やら騒がしい声が聞こえてくる。


「まさか…」

「「エレーーーーーン!!」」


 はっきりとしてきた声を聞き、本当に懲りないものだ、と言わんばかりの溜息をつくエレン。まだ少し遠いが、こちらに向かってくるのがターボとスタンレーだとわかる。今にも飛びつかんと走ってくる二人に、どうしようかと迷っているうちに、だんだん距離が縮まってきている。

 そして、残り数メートルというところで、走ってきた二人の真横から鋭い一撃が突然飛んできた。


「させるかっ!」

「「ぐはぁっ!?」」

「…シェリー…」


 二人は並んで走ってきていたため、その真横からシェリーの飛び蹴りを喰らい、一緒になって吹っ飛ばされた。エレンの隣には、シェリーが仁王立ちになっている。


「これからゆっくりお茶しようとしているところに襲い掛かってくるとは、いい根性してるじゃない? ターボとスタンレー」

「いや、もう二人とも伸びてるから…じゃなくて、シェリー? あなたいつの間にあんなところに…さっきセリーナたちの隣にいたはず…」

「え? あぁ! そんなことは気にしちゃダメよ、エレン!」

「そ、そう…」


 腑に落ちないまま、シェリーと共にセリーナたちのもとへ。女子三人がソファに座ると、リッチが席を立った。


「あれ? リッチさんはどちらへ?」

「女性の会話に勝手に入るわけにもいきませんので、私は談話室の外へ出ておりますね。お嬢様のご容体は、今のところ落ち着いているので大丈夫かと思いますが、何かあれば私にお伝えくださいませ」

「わざわざすみません、お気づかいありがとうございます」

「いえいえ、後程お茶をお持ちいたしますね」


 そう言って微笑み、リッチは談話室を出ていった。彼が出ていってから、シェリーが口を開いた。


「ほんっと、リッチさんて紳士よねぇ…どっかの誰かさんに見習わせたいわ」

「…そうね…せめてあの大人の落ち着きというか…」

「ふふ…あの二人は、本当に熱心にエレンを慕っているんですね」

「うーん…その気持ちはありがたいけど…慕う通り過ぎて、もう暴走に近い気が…」

「ところでエレン? 噂の彼とは何か進展あった?」

「前ふりも無く唐突に話を変えるわね、シェリー…」

「そう? 私は、エレンがここに来た時から、何かあったのかもって気付いてたけど? きっと恋のお悩みだと思って♪」

「…そんなに顔に出てた?」

「えぇ、もちろん♪」

「シェリー凄いです…私は全然わかりませんでした…」

「セリーナ、あなたはいつも通りで大丈夫よ」

「と・に・か・く! 恋の相談は親身になって乗るから、話してごらんなさい♪」

「シェリー、楽しそうですね」

「恋のことだけじゃなくて、普通の相談も親身になって乗ってね…」


 目を輝かせるシェリーにさりげなくツッコミを入れつつ、先ほどの出来事を打ち明けるエレン。話し終えると、シェリーは肩を震わせて言い放った。


「エレン…やったわね!! それって脈ありじゃない! 脈ありよね!? 脈なしなんて言わせない!」

「みゃ…脈あり?」

「両想いってことですよ、エレン」

「え…? えぇっ?」

「も~う! そういうところ疎いんだから、エレンは!」

「で…でも、まだそうと決まったわけじゃ…」

「いいえ、絶対そうよ! そうじゃなかったら、そんなさりげなくボディタッチなんてしないわよ!」

「ボディタッチって…」

「とにかくエレン! あともうひと踏ん張り! あとは想いの丈をぶつけるのみ! 当たって砕けろ!」

「砕けちゃったら、意味ないと思いますけど…」

「あ…それもそうね…」


 セリーナからの冷静なツッコミで、ようやく落ち着きを取り戻すシェリー。


「まあ、焦ったら、伝えたいことも上手く伝わらないからね。エレンの気持ちの整理がついてから告白していいと思うわよ」

「うん…そう、ね。私が落ち着かないと、ダメよね」

「エレンなら、きっと大丈夫ですよ。私も応援してますから」

「ありがとう、セリーナ」

「ところでセリーナは、リッチさんのこと、どう思ってるの?」

「えぇっ!? 私ですか!?」

「シェリー…急に話変えたら、セリーナも混乱するから…」


 シェリーの恋バナ好きに火が付き、どんどん話が盛り上がる。彼女を抑えるのに大変だったが、三人はそれが楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった。

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